307-15-2_万死に値するわねっ!
あの言葉。あぁ、そうか……まだまだ……全然、足りてないんだ……。
殺しても殺しても恐怖が消えない。感情の残滓のようなこの気持ちは、過去生エリアの悲しみの残り香だ。もっともっと、悪意を消し去らなければならない。彼女は、そう思っている。しかし、あの時私は、エリアの行動に逆に恐怖を感じてしまった。魂昇華魔法スブリミタス。美しく、そして、底知れず冷たい無慈悲な光。その光で、私は、危うく王都の人たち全員を無差別に消滅させるところだったのだ。
やっぱり、私、まだエリアの気持ちに追いつけていないのかな……。
私の魂の片割れ。本当は一つの筈なのに、まだ一つになれそうに無い。
ううん、違う。さっきは、暗い場所の嫌な雰囲気を思い出したから、弱い心が出ちゃっただけよ。
きっとそうに違いない。だって、私は、水の精霊のイニシエーションで初めて彼女の声を知った時、エリアの事をもっと知りたいって、どうしても一つになりたいって、心の底からそう思った。前世では男として生きてきたけれど、あの洞窟で彼女の姿を見た時から、私は、自分の本質が女なのだと感じている。
まだ前世の影響が残ってるから、アンバランスではあるけれど。
まぁそこは、ブランクがあるから仕方ないと思う。それでも、私は、女の子として自分を表現していたいし、この身体がとっても好きで愛おしい。それに、好きな人にも、もっと見てもらいたいと思ってもいて……。
これって、私、エッチだって事? 違うよね。
だから、この身体を共有しているエリアの記憶は、私の魂の破片だし、絶対、一つにならなきゃダメ。そうでないと、本当の私にはなれない。
それなのに……。
あの下種どもを輪廻送りにしても、私の心も、全然晴れた気持ちにはならない。
足りないんだよね……。
エリアと一つになるには、彼女の気持ちが満たされるまで、もっともっと殺し続けなきゃダメなのかな? そうまでしないと、エリアの気持ちに向き合えないのかな?
知らないうちに、自分の膝を見ながら俯いてしまっていた。すると、男爵が声を掛けてくれた。
「エリアよ、娘たちの救出は大変だったであろう……」
そして、男爵から父親の眼差しで見つめられた。
「…… まぁ、しかし、世話を掛けておるワシが言うのも何だが、無理をせずとも良い。もし、何か問題を抱えておるのなら、ワシらにも話してくれぬか? それで答えが見つかるとは限らんが、時には他者を頼るが良い」
「うん……」
心の声が聞こえちゃったみたい。男爵様たちには話せそうにないけど、でも、ちょっと嬉しい……。
すると、エイルが肩に止まり、ククリナが、身体を寄せてきて手を握ってくれた。
みんな……本当に優しい……。
「ありがとう、みんな……」
少し、しんみりとしてしまった。するとそこに、救出した女の子たちの様子を見届けに行っていたレイナードが遅れて談話室へとやってきた。彼と目が合う前に、目を閉じて息を吐き気持ちを切り替える。
レイナードは、対面のソファの後ろで立ち止まると、こちらを向いて言った。
「お待たせ。みんなぐっすり眠ったよ。流石はエリアのヒーリング魔法だね」
「ありがとう、レイナードお兄様。あの子たちには、また時間を取って話を聞いてみるわ」
「そうだね。みんな帰る所があればいいんだけど……」
そう言って、レイナードは少し寂しそうな目をした。彼も、あの子たちがどうやって攫われて奴隷にされてしまうのか、その事情は分かっているようだ。
「もう、家に帰ることの出来ない子も多いと思う。でも、あの子たちの今後のことは、私に考えがあるの。男爵様やレイナードお兄様にもその時には相談に乗って欲しいと思っているんだけど……」
そう言うと、男爵が落ち着いた口調で言った。
「エリア、その話はワシも興味がある。また日を改めてゆっくりと話そう。しかし、今は、ジャブロクの様子を見ることに集中だ。レイナード、早く席に着くがいい」
「はい」
レイナードは、男爵の右手側のソファに腰を下ろした。そして、テーブルの上で仁王立ちし、彼を見ているエイルに顔をぬっと近づけて言った。
「この子がエイルちゃんか。可愛い妖精さんだよね。エリア、僕にも彼女を紹介してくれないかな?」
彼は、自分の膝で頬杖をつき、微笑ましく彼女を見ている。一方、レイナードに顔を寄せられて間近で観察されているエイルは、腕組みしながら彼を睨み付け、視線を逸らさない。
あれ? エイル、あまり機嫌が良くなさそうだけど……。
「ああ、そ、そうだったわね、レイナードお兄様はエイルが初めてよね。彼女は妖精のエインセルよ。今は私の眷属だけど、エイルは、ずっとラヒナを見守っているの」
エイルが、お兄様になんか言おうとしてるみたい……。
「へぇ〜、そうなんだ。エインセルか、珍しいね。確か、子ども好きの妖精だったよね。あ、そうか! ラヒナちゃんもイリハと同い年でまだ小さいからだね。エイルちゃん、ラヒナちゃんはライラの妹で、つまり、僕の学友の妹なんだ。だから、僕たちは他人じゃないよね。ヨロシク! 可愛い妖精さん!」
レイナードは、そう言うと握手するように人差し指をエイルに差し出した。しかし……。
「ちょっと! もの凄く失礼だわ! レディに向かって馴れ馴れし過ぎでしょ。それに、あんたあれよね? エロ男じゃないのよ、確信犯的な」
「えっ?」
レイナードが、返事に困って固まっている。
「ほら、この男、ククリナとエリア様の……」
エイルがそう言うと、今まで静かに隣で座っていたククリナが、ピクリと腕を動かした。
「エ、エイル! その話はいいのっ!」
もう! エイルぅ〜っ! ククリナが反応しちゃってるじゃないのっ!
しかし、エイルは、レイナードにジト目を向けながら彼を責めるように言った。
「隠しても私には分かるのよ。あれが、ラッキースケベを装った故意の行動かどうかがね」
「ち、違うって! あ、あれは、本当に……」
レイナードは、大きな手振りで否定した。すると、今までお腹のところで組まれていたククリナの右手が、レイナードの方向を向くように彼女の膝の上に移動した。
「ウギっ!」
レイナードが、喉の奥から変な声を出す。
「警戒が足りなさ過ぎるエリア様もエリア様だけど、無防備な女の子を手込めにしようとするなんて、万死に値するわねっ!」
「そ、そんな……」
のけ反るようにしてエイルから距離を取るレイナードの顔からは、どんどんと血の気が引いていく。
「どうした? 何かあったのか? レイナードよ」
男爵はそう言って、自分の息子を睨むように見る。
エイルが煽っちゃったせいで、ククリナが今にもうわばみを出しそうな気配じゃないの! もう、こうなったら、変に隠す方がおかしいわ。やっぱり、男爵様からお兄様に注意してもらっておこう。そうすればエイルやククリナの気持ちだって多少は落ち着くはずよ!
「男爵様、大したことじゃ無いわ。まだ着替えの途中でレイナードお兄様が部屋の扉を開けちゃったから、ククリナと私の裸を、お兄様に見られちゃっただけよ」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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