303-14-14_甦る恐怖
年配の方の男は、テーブルの瓶を手に取った。
「……フッフッフッ、経験の足らん会計担当者のお陰で、我々は銅貨一枚と払わずに広大な土地を手に入れることができるのだ。これでローズ家も終わりだな。まぁ、死に体に我々が引導を授けてやったに過ぎんが。ハッハッハッ」
「バカな会計担当者様様ですな」
「そういう事だ。間も無く現地調査員も戻って来るだろう。我々も、もうそろそろ会頭の所へ行く時間だろうが、もう、仕事は概ね終わったも同然。前祝いにコイツで一足先に乾杯と行こうじゃないか」
念話で話す。
「セシリカの事、バカにしてるみたいね。明日になったらどっちがバカなのかハッキリするっていうのに。今頃あの子、くしゃみしてるかな?」
「いいえ、多分、鼻提灯付けて、寝てますわ」
「だよね」
そして、奴らの会話に集中する。
「……はい、では一杯だけ。所長のとっておき、アッカヴィーテの二十年物ですな」
「ああ、そうとも。貴族でも滅多に手に入らん酒だぞ。ほらっ」
所長と呼ばれた男は、ビンのキャップを空けて二つのグラスに液体を注いだ。
「ありがとうございます」
「では、乾杯!」
「乾杯!」
細面の男は、グッと一気に飲み干した。
「いやぁ〜、大仕事をした後の酒は美味いですな」
「まったくだ。ところで、若いもんはどうした?」
「奴らは、会頭の差し入れに夢中ですよ。あいつらの稼ぎでは、あんな生娘に相手をしてもらおうと思えば、一月分の稼ぎでも足りないでしょうからね。つい今しがた、女たちを連れて地下室に行きましたよ。これからパーティでも始めるんでしょう? ハッハッハッ」
攫われた女の子たちの事だわ。それに、今、地下室って言ったわね。
「元気な奴らだな。しかし、たまにはワシも生娘を楽しむとするか」
「それなら、一人連れてきましょうか?」
「いやいや。せっかく若い連中が楽しんでいるんだ。彼らが終わった後でいい。その後でゆっくりと楽しませてもらおうじゃないか。ワシの女の遊び方は知ってるだろ?」
「知ってますとも。軍隊仕込みってやつでしょ? 天井から両手両足を吊るしてあそこに銃口を突っ込むんでしたっけ? 殆ど拷問ですね。本当にぶっ放した事があるって聞きましたけど、あれ、マジですか?」
「フッフッフッ、銃にも色々あるさ。隊では結構人気があったショーなのだぞ。まぁ、しかし、お前も人の事は言えんだろ?」
「私は、至ってノーマルに女をベッドに縛り付けるだけですよ。ロープの代わりに針金を使うくらい普通でしょ? 所長に比べれば大人しいもんですって」
二人の男は、そう話しながらお互いに酒を注ぎ足した。
「ムムムムーーーっ! コイツら殺す!」
「同感ですわ……」
二階を調べ終わったククリナが、怒りを込めた低い声でそう言った。
「ククリナ、女の子たちは地下室にいるわっ! 急ぎましょ! エイル、聞いてた? 地下室よっ!」
「エリア様、この部屋で変なもの見つけたんだけど? 魔石みたいなもの」
「そんなの後よ。それより、エイルも一緒に来てくれない?」
「分かったー!」
一旦、シンクロを解除すると、三人で地下室へと続く階段の上に転移する。息を潜めて辺りの様子を窺う。
警報器の反応は無さそうね……。
ククリナとエイルに目配せで合図し、階段を降り始めた。階段の壁にはランプもなく足元は薄暗いけれど、姿が見えなくなるほどではなく、誰かがやって来れば相手からは丸見えだ。
音を立てずに、慎重に……。
しかし、その時、入口の手前の方で事務室の扉が開いた。念話でククリナとエイルに伝える。
「ストップ! 音を立てちゃダメよ」
どうやら、先ほどの所長と部下が部屋から出てきたようだ。そして、二人のやり取りが聞こえる。
「所長、若い奴らに声を掛けてきますか?」
こ、ここにいるとヤバい……?
奴らのいる場所からは部屋の間口で二室分離れているけれど、少しコチラ寄りに進めば斜めの角度で私たちが視界に入ってしまう。すると、ククリナが念話で話しかけてきた。
「奴らを呑み込みますか?」
「そうね、姿が見えそうになったらお願い!」
ここまで来て、今の男たちの相手をしている暇はない。その間に、女の子たちが乱暴されてしまう。
「分かりました」
とは言え、二人が同時にやって来ればいいのだけど、様子を見に来るのは若い方の男だけだろう。そうなると、一人取り逃してしまうかも知れない。明日の計画は絶対に成功させないといけないし、私たちの事は、ジャブロクにバレる訳にはいかない。
出来れば、このままコッソリと女の子たちを助け出せればいいんだけど……。
緊張して心臓の音が聞こえて来そうだ。
いざとなったら、私が確実に仕留めるっ!
奴らの足音に集中する。しかし、近づいて来る気配は無い。すると、所長らしき男が言った。
「いや、野暮なことはやめておこう。我々が会頭の所へ行く事は若い衆にも言ってある」
「そうですね、分かりました。では、我々だけで参りますか?」
「うむ」
そうして、彼らの足音が遠ざかっていった。
「ふぅ〜」
ククリナに目配せし、改めて階段の先に意識を向けた。そして、壁に手を付いて一段づつゆっくりと降り始める。後ろから奴らがやってくる心配は無くなり、その分、階段の先に気持ちを集中した。
それにしても、嫌な感じがする場所だ……。
どこか見覚えがあるようで、しかも、気が重くなる感じがする。そう思った時から急に胸の鼓動が早くなる。
うっ!
そして、心なしか息も荒くなった。
ふぅ〜。息がしんどい。どうしたんだろう?
一旦、立ち止まり息を整えて次の足を出そうとした。しかし……。
「嘘?」
な、なんで私、足が……震えてる……。
意外な身体の反応に、思わずその場に立ち尽くす。
「エリア様、どうかなさいましたか?」
背後にいるククリナが声を掛けてくれた。
「ん? だ、大丈夫よ。行きましょう」
長い息を一つ吐き、壁に身体を傾けながら次の足をゆっくりと下ろす。それでも、段を降りた衝撃を足で支えられないほど力が入らない。
はぁ。なんだか身体がおかしい……どうなっちゃったのかな?
でも、頑張って、もう一歩。
ところが、その時。
ああ、そうか……。
今、足を下ろした瞬間に、身体に力が入らない理由が分かってしまった。まるで、デジャブのようにあの時の空気感が甦る。
こんな感じだったかもしれない……。
数日前、初めて垣間見たエリアの記憶。ここは、その時に出て来た景色によく似ている。
お腹が……気持ち悪い……。
階段を一段降りる毎に不快感が増す。しかし、なんとか階段を降り切った。すると、目の前には大きな観音開きの扉があり、入り口の上部に取り付けられたプレートには倉庫と書かれてあった。どうやら、建物の地下は大きな倉庫になっているようだ。
本当によく似た場所……。
エリアの記憶にあった薄暗い倉庫のような場所。私は、あの一部始終を夢として見せられた。
クッ!
奥歯を強く噛む。あの恐ろしい記憶に引き込まれると、手足を押さえつけられ辱めを受けた忌まわしい肌の触覚までも思い出しそうになる。そう考えれば考えるほど、記憶がリアルさを帯びてくる。
違うっ! 違うっ! 違うっ! ここはあの場所じゃないっ!
頭を強く振ってイメージを消す。記憶の景色に似ていると言っても、大昔の出来事だ。あの時の私に起こったことがこの場所であるはずは無い!
そして、自分の足元を見下ろす。
まだ震えてる……。
行儀良く閉じられた細い足。膝から上はしなやかで、とっても女の子っぽい、そう思ってる。
誰にも……嫌だ。もう、二度とあんなこと……。
「エリア様、なんか変よ」
エイルが顔を覗き込んでそう言った。
「な、なんでもない……」
……事は無いよね。
この扉を入れば、もしかすると、あの記憶をもっと鮮明に思い出すかもしれない。そうなれば、私の身体は、怯えてしまって動かなくなるんじゃないだろうか?
怖いの……? 私……。
「エ、エリア様?」
ククリナが心配するようにそう言った。
私、ここに入れるのかな……?
しかしその時、扉の向こうから男たちの会話が聞こえてくる。
「ヘッヘッヘッヘ。会頭も粋な事をしてくださる。これは俺たちへのボーナスだってよ」
「ああ、明日、ローズの領地が旦那様の物になる前祝だろ。あの時以来だな」
「そうそう、ありゃ、ローズの娘の侍女だったよな。もう必要ねぇからって事務所で雑用させろってことだったんだけどよ、こんなところにあんな若い娘がくりゃ、やっちまわねぇ道理はねぇもんな。いや〜、あれも、なかなかいい娘だったぜ。でも、俺たちが散々遊んだ後で、集積所の実験台になったんだよな」
「おう、そうだったぜ。確か、腹の魔石が暴発したって聞いたが、その後どうなったんだろうな?」
「そんな話、どうでもいいじゃねぇか。そろそろ、パーティをおっぱじめようぜ! ヘッヘッヘッヘ」
「そうだそうだ! 俺ぁ、もう興奮し過ぎてコイツら壊しちまいそうになってるぜ」
「馬鹿野郎。一応、売り物なんだぜ。ほどほどにな」
「俺もそいつは自信がねぇよ」
「俺も」
……早く行かなきゃ……でも、足が前に……出ない。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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