302-14-13_カバール商会の事務所
ライラの居場所について、掴んだ情報を伝える。
「ええ。お兄様。やっぱり、セシリカの言った通りライラさんは、ジャブロクの屋敷にいると思うわ」
「それは本当かい!?」
「それは本当かっ!?」
レイナードと男爵は、同時に声を上げた。
「ええ。恐らくね」
「それで、奴の屋敷はどのような様子であったのだ?」
男爵は、やや厳しい表情になってそう言った。
「男爵様、ごめんなさい。それにお兄様も。本当はちゃんと報告しておきたいんだけど、実は、今、緊急事態なのよ……」
「緊急事態だって?」
「ええ、お兄様。この子たちの他にあと二人の女の子が、まだカバール商会の事務所の方で捕まったままなのよ。早くその子たちを助けないと、どんな酷い目に遭ってるのか分からないわ」
「カバールの事務所と言えば、中央広場にある事務所の事だな? しかし、エリアだけで大丈夫か?」
「そうだよ、僕も行こうか?」
レイナードが、そう言って一歩前に進み出た。しかし、男爵がレイナードの肩を押さえた。
「何を言うのだ、レイナード! お前が行ってどうする気だ? ここは、奴らに顔が割れておらん者でなければいかん」
「父上、では、誰が行くと言うのですっ!」
「う〜む……」
「ありがとう、男爵様もレイナードお兄様も。これは私がやりかけた事だから私に任せて欲しい。大丈夫、心配いらないわ、ククリナとエイルがいるから」
そう言うと、エイルが空中で仁王立ちのように腕を組んで頷いた。そして、ククリナは……。
「エリア様に指一本でも触れようとする輩など、この私が生かしておく訳がございませんわ。その様な者どもがいる王都など無くしてしまえば良いのです」
イッ!
「そ、それは、お心強いですな、ハッハッハッ!」
「ハハハ。天変地異じゃ無いんですから……」
「バカもんっ、レイナードっ!」
「ダメよお兄様っ、煽る様な事言っちゃ!」
レイナードが、慌てて言葉を止める。しかし、ククリナは小悪魔的な表情をしてコチラを見ている。
スイッチ入ってないでしょうねっ!
「ま、まぁ、兎に角、男爵様とお兄様は、ここで待っていてね。ライラさんの事も心配なんだけど、そっちはもうしばらく様子見が必要よ」
「そうだね、分かったよエリア。この子たちの事は僕に任せて。でも、ホントに気をつけるんだよ」
「うむ。エリア。本当にスマン。しかし、慎重にな」
「ええ、二人ともありがとう。じゃぁ行ってくるね!」
手を振りながら心で念じる。
転移っ!
そうして、ククリナとエイルとともにカバール商会の事務所前に転移した。
ーーーー。
時刻は午後九時。
特権階級街区の外では、夜のとばりが降りているにもかかわらずあちらこちらで明かりが灯り、特に中央広場では宵の口さながらにまだまだ人の往来が途切れない。とりわけ、酒場がある通りは昼間よりも多くの人で賑わっていた。
カバール商会の事務所は、王宮の正門から伸びる大手道が中央広場に突き当たる正面の位置からすると、広場の真ん中にある噴水を挟んだちょうど向かいに立っている。
目立たないよう建物横の陰に転移すると、そこから前方が見える位置に動き、姿勢を低くして建物全体を見上げた。
「ふ〜ん、案外、こじんまりとした建物ね」
商会の事務所は三階建てのコンクリート造りで頑丈そうではあるけれど、その大きさは、周囲に立ち並ぶ建物の中ではそれほど大きい訳でもなさそうだ。
それにしても……。
建物の存在感、と言うか、威圧感が半端では無い。あれがあるせいで……。
「……何、あれ? 趣味悪っ!」
人が憩う噴水広場には似つかわしく無い、異様な光景。それは、松明の明かりに照らされて暗がりにひっそりと浮かび上がっていた。
「昼間は気が付かなかったわ。まさか処刑場じゃあるまいし、どういうつもりかしら?」
そこにあるのは紛れもなく磔台だ。それは、商会建物の入り口前に、使い古された様に灰色になった角材で組み上げられていた。そして、背面にクロスさせた一際頑丈そうな角材には、極太の真っ黒い鎖が垂らされている。さらに、その角材に一枚の板が貼ってあった。
「あれ? なんか書いてる?」
その板にはこう書いてある。
「なになに? 奴隷の事ならカバール商会にご用命を! って、何これ? もしかして、看板なの? ムカつくっ! 全部壊してやりたいわね! ムゥ〜〜〜。だけど、騒ぎになるのはいけないし……」
独り言のようにそう口にすると、肩に止まっているエイルが声を掛けてきた。
「エリア様、魔法感知は使わないんでしょ?」
「そうね〜。多分、この事務所にも警報器がある可能性が高いわ。エイル、またシンクロお願いできる?」
「了っ!」
エイルはビシッと右手の手刀をこめかみに当てると、くるっと宙返りし三体に分離した。
「何、その敬礼?」
「かっこいいでしょ?」
どこで覚えてきたのか分からないけど、エイルには、度々、マイブームがやって来る。
反応しちゃうと長くなりそうだわ。どうでもいいし、ここはスルーね。
女の子たちの状況が心配だし、悠長にしている訳にいかない。
「ねぇ、エイル、何体か同時にシンクロ出来ないの? 一度に調べる方が効率いいでしょ?」
視覚を複数に増やして三人で分担すれば、少しでも早く彼女たちを見つける事ができる。兎に角、思いつく事は何でもやるのだ。
「できるに決まってるわっ! やってみる?」
流石は、進化したエインセルだ!
「うん! お願い!」
すると、エイルは分身体を後三体出現させ、本体を含め全部で六体になった。
「イメージの画面が増えちゃうけどやり方は同じよ。でも、視覚以外の感覚は複数同時に出来ないからその場合は一つの場面に意識を集中するのよ」
「へぇ〜、そんなに簡単に出来ちゃうのね。やっぱり、エイルって凄い妖精なのね」
「当然よっ!」
頭の上のエイルはそう言って足を組んだ。きっと、いつものドヤ顔をしているに違いない。
「じゃぁ、始めてもいい?」
「イエッサー!」
「はい。いつでも」
三体のエイルが光になって姿を消し建物の各階に転移した。目を閉じて頭のエイルに集中する。すると、瞼の裏に三つのスクリーンが映し出された。スクリーンは、商会建物の各階に対応しておりそれぞれの映像が流れ始める。
ほうほう! いいじゃないの。
「じゃぁ、私は一階を見るから、ククリナは二階、エイルは三階をお願いね」
「アイアイサーッ!」
「お任せください!」
念話で会話しながら映像に集中する。一階の現場に飛んだ分身体のエイルは、商会の入り口付近に転移すると、誰かに見つからないよう注意しながら天井近くをゆっくりと飛ぶ。
事務所の一階は手前にロビーがあり、正面奥には背の低いカウンターが設えてあった。そして、カウンターの向こうは執務スペースになっていて、いくつかの事務机が並んでいる。ロビーも執務室も明かりが点いているものの人は一人も見当たらない。
「一階にはいないのかな?」
柱の上部に取り付けられていた警報器を避けるようにスルーして、カウンターの右脇から奥へと続く廊下を進む。すると、左手には等間隔に扉が三つ並んでいた。
「ここも事務室ね……」
扉の側に寄った。
「ん? ちょっと待って! 人の声がする!」
どうやら中に人が複数いて、会話しているようだ。
「人がいるのですか? エリア様、お気をつけ下さい!」
「ええ。慎重に中に入るわ」
ククリナの注意に答えると、エイルが三階の様子を報告してくれた。
「三階は大きな部屋が三つあったけど、誰もいなかったわよ。人がいるのは一階だけじゃないの?」
「そうなの? じゃぁ、エイル、この廊下の奥にも部屋があるみたいなの。そこを見てくれない? ククリナはそのまま二階の調査を続けてちょうだい」
「分かったわ」
「分かりました」
そうして、分身体エイルを操り、天井のあたりを移動して壁を通り抜け、いちばん手前の事務室に入った。すると、二人の男がソファに座りテーブルを挟んで話をしていた。一人は整えられた口髭をはやした四十代後半から五十代くらいの体格のいい男と、もう一人は三十代後半くらいに見える細面の男だ。どちらの男も黒っぽいスーツを着ている。そして、テーブルの上には琥珀色の液体が入ったビンと揃えられた二つのグラスが置いてあった。
細面の男が言った。
「所長。お疲れ様でした。ローズの土地が我々カバール商会の手に入るのもいよいよですね」
「そうだな。先物契約の金の支払い期日は三日後だが、小麦が発芽していないという調査隊の報告が来れば契約した金を払わずとも決着が付く。我々が明日の朝、契約の履行不能による詐欺行為だと訴えて損害賠償を請求すればローズ家は取引所の先物契約保証金を失って破産するだろう。本当にバカな奴らだ。これまでは手堅く現物売りしか行なわなかったにもかかわらず、ここにきて先物契約に手を出すとはな」
「所長、それは手を出さざるを得なかったと言うべきでしょ」
「まったくだ。奴らの資金繰りが相当追い詰められている証拠だ。まぁ、放っておけばローズ家が破産するのは間違い無いが、そうなれば、あの広大な領地は、一旦、王宮の所有になるのでな。その後、貴族たちに売りに出されるだろうが、その時には値が上がってしまう」
「確実、かつ、最安値で。でございますね」
「当然だ……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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