301-14-12_チョロいっ!
メイド長の視覚に入る若い女の子の姿は、後ろ姿ではあるけれど、それでも彼女は凛とした雰囲気を持っていて、艶のあるホワイトゴールドの髪を後ろでまとめ、背筋を伸ばして歩いていた。服装もメイド服ではなく、シンプルなデザインだけど上品な水色のワンピースを着ていて、隷属の首輪も付けていない。メイド長は、彼女と少し間を開けて、後ろから従者のように着いて行っている。そして、女の子は自ら檻の扉を開き、その中へと入った。その時、彼女はメイド長に何か言ったように見えた。
あの子、今何て言ったのかな? 何となく、ご苦労様って口が動いたように見えたんだけど……そんな訳ないか。
しかし、抵抗せずに自分から進んで躾部屋に入って行った事といい、凛とした態度といい、逆境の中でも挫けない芯の強さは、レイナードの言っていた人物像とピッタリ重なる。
いや、やっぱりそうだ。この女の子、メイド長の女に、ご苦労さまって言ったんだ! 間違いないわっ! 彼女がライラ・メリアル・ローズねっ!
ようやく見つかった。しかも、今の記憶は一月ほど前の出来事だ。
「ククリナ、ライラさんの居場所が分かったかもしれないっ! それと、この子の友だちも!」
「助け出しますかっ?」
「そうよねぇ〜」
本当は、彼女たちを助けない選択肢なんて無い筈なんだけど、でも……。
「彼女たちには申し訳ないけど、やっぱり無理をしない方がいいわね。今、彼女を助けちゃうと、明日の作戦が台無しになっちゃうもの。そうなると、ローズ領もローズ男爵ご夫妻も、ライラさんの元には二度と戻らない。例え、明日、セシリカの計画通りに事が運んだとしても、ジャブロクが犯罪者であるという証拠を示さない限り、奴らはどんな難癖を言ってくるか分からないし、もし、小麦先物契約が無効だなんて話になったら、元も子もないわ。だから、迂闊に手出し出来ないの。それに、あれを見て」
そう言って、入り口付近の壁の上部を指差した。
「あれは?」
ククリナは、頭を屈めて鉄格子の隙間から壁に取り付けられている小さな機械を見つめた。そこには、円盤の形をした金属が壁から少し隙間を開けて取り付けられていた。円盤の真ん中には真っ黒い魔石がはめ込まれている。エイルは、その機械のところに飛んでいき、側から覗き込むようにしてその機械を確認した。
「これ何? エリア様」
「それはね、エイル、恐らく警報器よ」
「警報器……ですか?」
ククリナにとっても見たことのない機械のようだ。
「ええ。この女の記憶にもあったから間違いないわ。もし、この屋敷で魔力を拡散させれば、あれが大きな音を出して屋敷の者に知らせるようになっているのよ。ここに来る時には、幸い警報器は反応しなかったみたいだけど、逆に、ここから転移する時には人数が増えてるから魔力を集めなきゃいけない。きっと、あの警報器は勢いよく鳴るでしょうね。もし、来た時にあれが鳴っていれば騒ぎが大きくなって大変だったかもしれない。まぁ、そのときには、派手にやっちゃえば問題ないのだけど、それでは、男爵様に迷惑かけちゃうからね……」
この屋敷には警報器以外にも、他に何か仕掛けがあるかもしれないから慢心と油断は禁物だ。しかし、ククリナの目が楽しそうに笑っている。
「それなら、目撃者を残さない方法でやりますかっ!」
「それって、皆殺しにしちゃうってことでしょ!」
ククリナは、たまにこういう事を言うのよね。眷属の悪い癖なんだけど、でも、これ、絶対本気で言ってると思う。
「……ここは、一旦、引き上げるわ」
「では、この女はどういたしますか?」
「放っておきましょ。でも、いずれは必ず、この女にも自分がやった事の代償を払わせるわ」
そして、メイドの女の子に向かって言った。
「赤髪の子はあなたの友だちでしょ? 彼女は、私が必ず助けてあげる、約束よ」
「はい」
彼女は、ほんの少しホッとしたような表情を見せた。そうして、警報器のけたたましい音が鳴り響く中、四人の少女たちとともにレイナードが待つボズウィック男爵屋敷へと転移した。
ーーーー。
檻に囚われていた少女たちとメイド少女の四人を連れて、ボズウィックの屋敷の玄関ホールに転移して戻った。すると、レイナードが待ちかねていた様に声を掛けてくれた。
「おおっ! エリア、心配してたんだよ。怪我はないかい?」
彼は、私を見つけると慌てて側に寄ってきた。そして、男爵もレイナードと一緒に待ってくれていたようだ。
「エ、エリア。レ、レイナードから話は聞いた。ぶ、無事なのだな?」
男爵は、少し動揺している。
??? ちょっと、男爵様が挙動不審なんだけど……。
「ええ、問題無いわ」
男爵は目を合わそうとしない。
「どうしたの、男爵様?」
「ん? あぁ、いや、特には何も無いが……」
あれ〜、もしかして、そういう事なの?
男爵様にこの姿を見せたのは、ラヒナたちを始めてレピ湖のお屋敷に連れて行った時だった。
あの時も、男爵様はこんな態度だったわね。それで、なんか恥ずかしそうなのね。年頃の女の子なら周りにいくらでもいるのにね。まぁ、これからみんなのお世話をしてもらわなきゃいけないし、ちょっとくらいサービスしちゃおうかな?
男爵に向かって笑顔になり、モーニングドレスの裾を摘んで挨拶をした。
「男爵様。エリアは、只今戻りました……」
「そ、そうか……」
「……ごめんなさい。ジャブロクの屋敷に行くことを事前に話さなくて。怒ってなぁい?」
「お、怒ってはおらんぞ。ワ、ワシは、ま、全く、怒ってはおらん……」
「フフフ」
少し頭を傾げてニッコリと笑う。しかし、男爵は、チラッとだけこちらを見たもののまだ目を合わせない。
「い、いや、ま、まさか、その姿になっておるとは……」
やっぱり、ちゃんと見てくれないわね。ホントにもうっ!
男爵の側に寄り、目を合わせない男爵の右腕にギュッと掴まった。
「男爵様! 待っててくれて嬉しいわっ! ありがとっ!」
「……」
男爵は顔を真っ赤にして、天井の方を見上げている。すると、レイナードがジト目になって男爵に視線を浴びせた。
「父上……」
「な、なんだ? レイナードよ」
「ずるいです」
「ワッハッハッ。エ、エリア、じ、事情は聞いた。ぶ、無事で何よりだな、うんうん」
ご機嫌良さそうね、シメシメ。
男爵の腕に掴まりながら心なし身体を離して斜めになり、上目遣いで見上げる。
「男爵様、救助した彼女たちは四人なんだけど、これからあと二人迎えに行くの。受け入れできるぅ〜?」
そう言って、しっかりと男爵の目を見つめる。
おねだりな感じ出てるかな? いや、ちょっとあざとすぎたかも。
すると、男爵は息を止めながら顔を若干のけ反らし、私と目を合わせた。
「な、何を言うか。五十人であろうが百人であろうが連れてくると良い。そんなもの、た、大した問題ではないのだぞ。そうだろうレイナード? 救助した者たちのことはお前に任せる」
チョロいっ!
「父上、完全にエリアの術中にハマってますが。もちろん、エリアが救助した少女たちは、何人であろうと私が責任をもって世話をいたします」
レイナードは、腕を組んでしっかりと頷きながら返事をした。
「流石、お兄様ね」
そう言って彼女たちの側に寄ると、女の子たちをレイナードに託した。
「じゃぁ、レイナードお兄様、この子たちをお願い!」
「僕に任せて」
レイナードはそう言うと、とびきりの笑顔を少女たちに向けた。彼女たちは緊張しながらも少し恥ずかしそうだ。
何と言うか、やっぱり、お兄様って女の子にモテそうだわ。確かに童顔でイケメンではあるものね。ちょっと軽薄だけど。
そして、レイナードは、彼が一番気になっている事を聞いてきた。
「ところでエリア。ライラの情報は何かつかめたかい?」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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