300-14-11_メイド長の女
目を閉じて深呼吸を続ける。
……。
あれ……?
一瞬、何処にいるのか分からなくなった。すると、薄暗い場所で、数人の男たちがニヤけながら自分を見下ろす映像が浮かび始める。
こ、これは……?
慌てて目を開けるっ!
あ、危ないっ、またエリアのトラウマに引っ張られそう!
「ふぅ〜」
この子たちの気持ちに寄り添いたいんだけど、あんまり彼女たちの感情に共感し過ぎると、エリアの恐怖に同調しちゃうかもしれない。そうなれば、今度はどんな事になるのか想像が付かない。
魂昇華魔法スブリミタス……あんなのが勝手に発動したら、とんでもない事になっちゃうわ。
背中がゾクッとする。
ううう〜〜、い、今は、気をしっかり保ってないとっ!
「エリア様、私たち眷属がお支えしておりますわ……」
ククリナが隣に来て手を繋いでくれた。
あぁ、ククリナには分かっちゃったのかな。
「ありがとう、ククリナ……」
冷静な気持ちを取り戻し、肩を揺らしながら泣いている女の子たちの様子を見る。
みんな、私よりも歳下みたいね……。
多分、この国の成人年齢程度だ。
見たところ、怪我はしていないわ。でも、深刻なトラウマになってなきゃいいんだけど……。
「……では、戻りますか?」
ククリナは優しい声でそう言った。
「そうね……」
この子たち三人は、ジャブロクに乱暴される前に、何とか助けることが出来そうね……。
って、あれ?
心の中で言った言葉に違和感がある。
……三人……だっけ?
肘を抱いて顎を摘んだ。
中央広場で見た時、この子たちは確か五人だったはずだよね……。
「ねぇ、あなたたちは五人いたわよね。後の二人はどうしちゃったのかな?」
泣いている彼女たちにそう言って尋ねると、泣き止んだ一人の女の子が見上げて言った。
「と、途中で降ろされて、つ、連れて行かれました……」
「途中でって、ここに着く前って事よね?」
「は、はい……」
途中で降ろされた……?
嫌な予感がする。
「何処に連れて行かれたの?」
「分かりません……」
彼女は、申し訳なさそうに目を伏せてそう言った。
もしかして、来るのが遅かったって事っ!?
目の前の三人は、不安げな顔で私を見つめる。すると、さっきまで檻の外でへたり込んでいたメイドの女の子が檻の中に入ってきて小さな声で話しかけてきた。
「あ、あの、さっき、旦那様、じゃなくて、ジ、ジャブロクが事務所へのボーナスだって言って、そこに置いて来たと……」
彼女は、縋るような目をしてそう言った。
「事務所? ジャブロクがそう言ったのね?」
「はい……」
と言う事は、中央広場にあるカバール商会の事務所の事か。
彼女は、自分の二の腕を抱くようにして掴み、まだ何か言いたげな様子だ。
「あなた、さっき、この女からキツく言われてたみたいだけど、あなたも奴隷としてここに連れてこられたんでしょ?」
倒れている女を横目で見ながら彼女に尋ねると、メイドはコクリと頷いた。
「そうなのね……」
ということは、この子もジャブロクから酷い虐待を受けていたに違いない。
「あなた、お名前は?」
「ミ、ミティスと、も、申します」
ミティスもまだ若い。
彼女は黒髪で、穏やかな雰囲気の女の子だ。
「そう。じゃぁ、ミティス、あなたも私たちと一緒に来なさい。安全な場所に連れて行ってあげるから」
「あ、あの……」
彼女はそう言うと、視線を下に落としてしまった。
ん? どうしたんだろう?
「何か気になることでもあるの?」
「は、はい……友だちが……躾部屋に入れられてしまって……」
「躾部屋?」
そう言えば、さっき、ジャブロクが効果的な躾がどうとかって言ってたけど……。
「あなたの友だちがその躾部屋ってところに入れられているのね?」
「は、はい」
そうか。この子たち以外にもまだ囚われている女の子がいるのね。
ゆっくり立ち上がる。
「大丈夫よ。私がその子たちの事も助けるから。でも、まずはあなたからよ」
そう言って彼女の隷属の首輪も外してあげた。すると、メイドの女の子は、ハッと驚くような顔をした後、唇を震わせながらギュッと歯を食いしばる。
「あなたも、よく頑張ったわね。もう大丈夫よ」
メイド長の女の話からすると、この子は、魔獣の餌にすると脅されながら、ここで奴隷にされた女の子たちの世話をさせられていたのだ。
ふと、アリサの話を思い出した。
あぁ、そっだった。ここはアリサがいた場所だ……。
この子たちも、アリサのように他に売られてしまうまでは奴隷メイドとしてここに囚われているのだ。
「こっちにおいで」
そう言って、女の子を胸に抱き寄せた。彼女は小刻みに肩を震わせているけれど声は出さない。そして、私の胸に顔をくっ付けながら大きく息をした。すると、彼女の震えが収まった。
今は、怖くて声を出して泣くことも出来ないのね。早く安全な場所に連れて行って上げないと……。
「エリア様、どうなさいますか?」
ククリナに声を掛けられた。
「そうね、別の場所に連れて行かれた女の子の救出を優先したいんだけど、この屋敷にもまだ他に奴隷にされている子がいるようだから少しだけ調べてみようかな? ライラさんの居所も気になるし……」
倒れている女を横目で見下ろす。
「……取り敢えず、この女から情報を引き出してみるわ」
メイド長の年配女は仰向けになって倒れている。足元に転がっている隷属の首輪をその女の首に取り付けると、女の上体を起こし檻の壁にもたれかけさせた。そして、隷属魔法を唱える。
「シレンチウムっ! これでよし、と」
もし女が意識を戻しても騒がないように、隷属の首輪と壁から垂れ下がる鎖とをつなぐ。そうして、女の顎を持ち上げながらその瞼を指で強引に開かせた。
「どれどれ?」
メイド長は眼球を上にして黒眼が奥の方に隠れていたけれど、何とか瞳を確認することができた。すると、彼女の記憶が流れ込んでくる。
こんな女の記憶を読むなんて、あんまり気分が良くないわね。
出来れば、こういう輩とは意識を交えたくない。
なんて言ってる場合じゃないか。
「……どれどれ。ん? あー、この女、やっぱりメイド長で間違いないわ。若い時から随分と長くジャブロクのメイドをしているようね。どういう関係かな? へぇ〜、なるほど! どうりでこの女、隷属の首輪をしてない訳ね……」
読み取った記憶では、どうやらこの女は、ジャブロクの事を恩人として強く尊敬しているようだ。メイド長は、一生、ジャブロクに尽くそうと考えている。
「……ちょっとおかしいんじゃない、この女っ! 一体、ジャブロクのどこに尊敬できるような要素があるって言うのよっ!」
女の記憶に文句を言いつつ読み取りを続ける。そして、この屋敷で囚われている奴隷たちの情報を探った。すると……。
「見つけたわっ!」
メイド長の記憶には、この女が二人の女の子をこの場所とは別の地下室に連れて行くイメージが残っていた。その内の一人は背中まである赤髪の若い娘で、彼女は身長が低く小さい身体付きをしているけれど、垣間見えた表情からすると意思が強そうな目をしていた。
この子……。
イメージに現れた女の子は、メイドの女の子と同じくらいの歳に思える。メイド長は、彼女を引きずるようにして腕を引っ張りながら牢屋のような場所に放り込んだ。しかし、赤髪の彼女はメイド長をキッと睨み返している。若い子なのに、まだ心は折れてなさそうだ。
それにしても、メイド長の女、女の子をなんて乱暴に扱うのよっ! この女も赦せないわっ!
そして、メイド長の記憶に残るもう一人の女の子。
あらら? 何なの? メイド長の対応? こっちの子には遠慮がある様ね。赤髪の女の子への対応とは随分違うんだけど……。
なるほどね。
どうやら、このメイド長は、もう一人の女の子の事が煙たい存在だと思っているようだ。
……そういう事か。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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