292-14-3_ジャブロクの屋敷
ジャブロクは口元を震わせて、ナイフとフォークを持ったままテーブルを叩き、大きな音を立てた。
「クソッ! やはり出荷が遅れている事を言われてしまったわいっ! 奴隷狩りどもは一体何をやっとるんだっ! しかし、このままではかのお方のお怒りを買ってしまう。これは、なりふり構っておる場合では無いぞ。奴らに片っ端から村々を襲わせるしかあるまい。伯爵殿にも協力してもらわんといかんな」
ジャブロクはそう言うと、近くにいる使用人たちに向かって言った。
「何をしておるっ! 今、話を聞いておっただろっ! ザリッパからの定期連絡はどうしたっ?」
「はい。ザリッパからの伝書魔鳥はまだ来ておりません」
側に控えていた初老の使用人が、淡々と返事をする。
「何だとっ? クソっ、ザリッパの奴め、また奴隷女を痛ぶって連絡をサボっておるのだろう。ならば、こちらから伝書魔鳥を飛ばせっ! 一番速いヤツでなっ!」
「畏まりました」
使用人はそう言って深々とお辞儀をすると、ダイニングルームを後にした。そして、エイルが念話で話しかけてくる。
「怒ってるわよ、あの剥げ頭!」
「ホント偉そうだわっ!」
ジャブロクは、壁際に控えているメイドたち向かって怒鳴るように命令した。
「おいっ、早う次のメシを運ばんかっ! グズどもめっ! まったく、役に立たん奴らだ。メシの後は湯浴みとマッサージだぞっ! 分かったらとっとと行けっ! どいつもこいつも穀潰しばかりだな、まったく! 使い物にならん奴は蛮国の奴隷か、さもなくば魔獣の餌にしてやるっ!」
罵声のような大声がダイニングルームに響き渡る。そこにいる十人ほどのメイドたちは、みんな首を垂れ、時々肩をビクつかせていた。しかし、一番奥に立っている年配のメイドだけは、背筋をピント伸ばして胸を張り澄ました表情をしている。彼女は隷属の首輪を嵌めておらず、メイド用のヘッドドレスも他のメイドがしている白色と違って茶色のものを着けていた。
「ジャブロクの奴、最悪ね! 殺してやりたいわ」
「殺すの?」
独り言のように出た言葉に、エイルが反応する。
「言ってみただけよ。まだ殺さないわ。それにしても、あのメイドだけ全然ビビってないようね。メイド長かな? 他のメイドの子に指示を出したみたいだけど」
年配女以外のホワイトプリムを付けているメイドたちは、慌ててダイニングルームを出て行った。
「女の子たちの後を尾けるわよ」
シンクロしている現場のエイルに移動してもらって、見つからないようにメイドたちの後を着いて行くと、一番後ろの女の子が他のメイドたちから別れて左手の階段を下りていく。
「あの子だけどこ行くんだろう? 気になるわね」
そうして彼女の斜め後ろの天井からこっそりと着いて行くと、そのメイドは階段を下りきり、黒い扉の前に辿り着いた。
「どうやら地下室のようね」
彼女がその扉を開けるとその先には薄暗い廊下が続いており、左手には鉄格子で仕切られた檻が見える。メイドの女の子は鉄格子の前に来るとその前に立ち止まった。エイルの位置を少し下げて檻の中を覗く。すると、檻の中には複数の人影がありその人影は奥の壁に身を寄せて集まっていた。
「なんて暗い場所なの。明かりくらい点ければいいのに。でも、この子に着いてきて正解ね」
「いかがいたしますか?」
ククリナが尋ねる。
「もう少し様子を見てみるわ」
そう言って、彼女の動きに集中する。しかし、彼女は檻の前で立ち尽くしたまま動かない。
何してるんだろう?
そう思った瞬間、そのメイドは、突然膝から崩れ落ちるように床に蹲ってしまった。
「ううううっ」
彼女は手で顔を覆い、声を押し殺して唸っている。
「あの子、泣いてるの? 声は出せるみたいだけど」
「そのようですね」
エイルの位置を牢屋の中の様子が見える所に移動する。すると、やはり牢屋には奴隷として連れてこられた娘たちの姿があった。彼女たちは、怯えながら隅っこに身体を寄せてメイドの様子を窺っているようだ。しかし、その時、扉を開く音がすると、バケツとタオルを持った年配メイドが地下室に入ってきた。
「あっ、メイド長が来たわよ」
茶色のヘッドドレスを着けた年配メイドは、蹲っているメイド少女を睨むように見下ろした。
「ちゃんと出来るか心配して来てみたら、座ってるじゃないかっ! 桶も用意せずに一体そこで何してるんだいっ! 旦那様の言ったことが分からなかったのかいっ? 旦那様がマッサージと仰ったら、その後はもうお休みになるだろっ! だったら、この子たちの身体を拭いて早く旦那様のベッドに括りつけるんだよっ!」
年配メイドは、厳しい言葉でメイドの女の子を責める。
「まったく、グズだね! お前がそんなんだから、こっちまでとばっちりを受けちまうんだっ! この娘らを連れて行きゃいいだけだろっ! ほらっ、早くしなっ!」
女はそう言って檻の鍵を開けた。すると、檻の奥にいた少女たちは悲壮な表情を浮かべて角の方にずり動いた。
「何だい何だい! あんたたち、これから旦那様のご寵愛を受けるんだろ? ほら、そんな薄汚い服は脱いじまいなっ! 汗をかいた身体なんだからそのまんまじゃ旦那様に失礼じゃないか! 旦那様はとっても尊いお方なのさっ! 本当なら、あんたたちみたいなどこの馬の骨か分からない小娘がお世話できるような人じゃ無いんだからねっ! 手間かけさせんじゃないよっ、まったく! それとも、お仕置きが欲しいのかいっ!」
女はそう言うと、今度は蹲っているメイド少女に向かって命令するように言った。
「お前がこの子たちの世話係だろっ! 今は、他所へ売られずに済んでるんだから、言われた事くらいちゃんとしないと旦那様に言いつけるよっ! そうなりゃ、他の子と同じように今度こそ売られちまうんだからねっ! さっき、旦那様が仰ってだだろ、聞いてなかったのかい? 蛮国の奴隷ってのはねぇ、まともに飯も食わせて貰えないのさ。それに比べりゃここのお屋敷は天国みたいじゃないかっ! それとも、死んで魔獣の餌にでもなりたいのかいっ!」
年配メイドはそう言うと、バケツとタオルを床に置き少女たちの服を無理やり剥ぎ取ろうとする。
「何してんだいっ、お前も手伝うんだよっ!」
女はそう言いながら一人の女の子の首輪を掴み、引き上げた。彼女は苦しそうに顔を歪める。しかし、女は、女の子の様子に構う事なく、壁からぶら下がる鎖の先のフックを彼女の首輪の輪に引っ掛けた。さらに、女は、彼女の腕を掴み上げると、壁に取り付けられた手錠を両手に嵌めた。女の子は両手を広げられた状態で壁に貼り付けられてしまった。
「まったく面倒だよ! 素直に服を脱ぎゃ手間が省けるって言うのにね」
そして、年配メイドは懐からナイフを取り出した。
「動くんじゃないよっ、動くと傷が付いちまうからね。お前が自分で服を脱がないから悪いのさっ!」
女はそう言うと、女の子の上着を引っ張ってダッフルボタンの紐をナイフで切り飛ばしたっ! そして、白い中衣のシャツのボタンを上から外していく。さらに、女は口元に笑いを浮かべながら彼女のシャツの裾を掴み両側に、パッ! っと開いた。すると、肌着を身につけた彼女の上半身が晒され、その薄い生地の内側では、弾けそうなバストが詰め詰めになって肌着を押し延ばし、小さな先端の形まで露わになった!
「ヒッヒッヒ。あんた、ちょっと肌着が小さいみたいだよ。成長が早いのかい? でも、いいじゃないか。こりゃ、旦那様もお悦びになりそうだ。私も少し味見しようかねぇ」
女はそう言って舌舐めずりする。
もう見ていられないっ!
「何なの、気持ち悪い女っ! もういいわ。ちょっと、行ってくる!」
そう言ってエイルのシンクロを解除した。苛立ちを感じながら気合が入っているのを自覚する。すると、ククリナが嬉しそうに言った。
「凛々しいですぅ! エリア様のお姿!」
「当然よっ! 今の私に、あの女に対する慈悲の心は無いわ!」
兎に角今は、冷酷な女神になった気分なのだ。
しかし、その時、背中の方でアリサが寝言を口にした。
「エリア様~、ムニュムニュ……も、もう少し強くしても……いいでしょうか……」
あ〜ん。アリサったら〜、い、今、気合が入ったばかりなのにぃ〜。
すると、エイルが悪戯顔をして言った。
「エリア様ったらさっきまで、あ~~~ん、とか、はぁ~~~んとか、言っちゃってたのにね〜」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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