289-13-17_レイナードの契約精霊
男爵は、レイナードの返事に頷くとこちらに顔を向けた。
「それでエリア、先程のアイリッシュとセルティスの事であるが、突然ですまなかったな。実は、あの子たちなのだが、ここにおるモートンが育ての親のようなものでな。詳しい事情はモートンから聞くとよいが、何せ、モートンは執事の職務と戦闘以外は何も知らぬような男だ。決して生活感のある人間ではない。そのため、あの子たちも子どもらしい事を何も経験をせずに成長して来たのだ……」
男爵は、そう言ってモートンを見やった。すると、モートンは小さくお辞儀をした。
なるほど、モートンがお父さんだったんだね。それであの子たちは、あれだけ強くなったのか。
男爵は、話を続ける。
「……このような事になって言うのもなんだが、エリアよ、あの子たちのことを受け入れてやってはもらえんだろうか?」
う〜ん、男爵様に改めてそう言われちゃうと、僕があの二人を拒んでるみたいに聞こえるんだけど……。
「さっきの事は別に気にしてないけどね。でもさぁ、二人とも冒険者で言えばシングルランカーなんでしょ? もう立派に自立出来てるんじゃないの?」
「んんっ。それは、そうなのだがな……」
男爵は、そう言ってモートンを見る。
何だか歯切れが悪いよね。隠し事でもあるのかな? まぁ、僕にも言えないことくらいあるか。でも、あの子たちとは適当に距離を置いて無理に仲良くなろうとは考えてないし、逆に詳しく聞いちゃって、面倒な事に関わらないといけなくなるのもどうかと思うから、その方がいいかも。何かあった時は相談くらい乗るけどね。
「男爵様、あの子たちは僕なりに見守っていくよ」
「そ、そうか、すまない、エリア。彼女たちの事をよろしく頼む」
男爵はそう言って頷くように頭を下げた。その後ろでモートンが深くお辞儀をしていた。
男爵様が、頭を下げるなんて意外だね。それだけ男爵様が、モートンの事を大切に思っているってことかな。
ところで、さっきからレイナードがそわそわしている。どうやらククリナをチラチラと見ている様だ。そして、彼は僕の隣に座っているククリナについて、ようやく話題にした。
「あ、あの、エリア、さっきから聞きたかったんだけど、こちらの可愛らしい女の子、い、いや、女性の方はどちら様なのかなぁ?」
ククリナの事、可愛らしい女の子だって。フフ。まぁ、澄ましたククリナは僕もそう思うけど、本当の彼女は少女どころか、そりゃもう、エッチぃ大人の女性で羽毛のある蛇なのだ。
「まだ紹介してなかったね。彼女はククリナ。え~とね、ククリナは、その……」
そうなんだよね〜、眷属精霊を紹介する時はどこまで本当の話をすればいいのか、いつも悩んじゃうよね。もう、サラッと言っちゃった方が楽かな?
そうやって言葉に詰まっていると、男爵が咳ばらいをした。
「ん、んんっ! ククリナ様はだな、ワシも詳しくは聞いておらんが、その……」
男爵も言葉を詰まらせてしまった。
「まったく、お二方ともいじわるです。私のことをちゃんと紹介してくれないんですから。いいですよ、自己紹介で。私は……」
「ゴメンゴメン、分かったよククリナ。僕がちゃんと紹介するから。だって、ククリナは僕の大切な "右腕" なんだしね」
「まぁ! うれしいですっ、エリア様っ!」
彼女はそう言うと僕に抱き着いてきた。
「レイナードお兄様、ククリナはね、ククルカンと言って最終進化した大蛇型の精霊なんだ。イグニス山の守り神だよ」
そう言うとククリナが言葉を追加した。
「そして、エリア様の四の眷属ですわ」
ククリナは、そう言うとレイナードに微笑んだ。しかも、少〜し、神威の気を放っている。
これ、わざとやってるよね。
「……」
レイナードは、微妙に口角を上げたまま瞬きもせず固まっている。
ほら、フリーズしちゃったよ。
「まぁ、そうなるだろうな。レイナードの頭がエリアとククリナ様の仰ったことを消化するまで時間がかかるだろう。ワシも眷属様たちにはどのように接するべきか未だに分からん。なにせ、我々人間にとっては神々の存在であるのでな」
男爵は腕を組んで、うんうんと頷いている。
まいっちゃったな。やっぱり男爵様を悩ませていたのか。この後、ウィンデーネとラーシャもついでに紹介しようかと思ったんだけど、どうやって話をしようか? この子たちは、もう、ローラ夫人やイリハに紹介してるから、隠しておくことも出来ないし。
「責めておる訳ではないぞ、エリア。ワシは、お前が来てくれてから、非常にワクワクしておるのだ。何でも言うてくれ」
「そうなんだ」
それならいいのか? もう、二柱の精霊の事、この場で言っちゃうか?
「あのね、男爵様……」
「ん? どうした、エリア?」
「じゃぁ、ついでに言っちゃうけど、ちょっと、精霊の知り合いが増えちゃって」
「ほう? 今度は、どんな精霊様なのだ?」
男爵は、楽しそうにニコニコしている。ただし、こめかみのあたりが少々引きつっているかもしれない。一方、レイナードは虚ろな目でこちらを見ている。
「会ってもらった方が早いよね」
そして、ピアスを指ではじいた。すると、青く透明な光と金色の光が飛び出し、ウィンデーネが僕の左隣に、そして、そのさらに左の席にラーシャが現れた。
うわっ! ウィンディーネたちも精霊の気を出しちゃってるよ。レピ湖のお屋敷ではそんな事しなかったのに、もしかして、これもわざと? 相手によって態度を変えるのはやめなさい!
ウィンデーネは、ふくれっ面になっている。
「もうっ! 放ったらかしてくれちゃって。息が詰まるじゃないっ! 息してないけど」
すると、ラーシャも一言しゃべった。
「女神、外で遊びたい」
「ごめんね、二人の事をみんなに紹介してあげるから、機嫌治してね」
と会話をしつつ、ウィンディーネに念話する。
「何で、今日は精霊の気を放ってるのさ?」
「気分よ、気分!」
「ラーシャもそうなの?」
「女神、気分」
「何だよ気分って? レイナードお兄様が驚いてるよ」
「いいのよ。この腑抜けたお坊ちゃんにはちょうどいいわ」
お兄様の事を腑抜けって言っちゃった。
そうして会話に戻る。
「私の事は、わざわざ紹介しなくても結構よ。だって、この人たちのことは、私、知ってるから」
「ん? あ、そうか、そうだよね」
「フッフッフッ。エ、エリアよ、お二方とも、か、可愛らしい精霊様であるな。そ、それで、そちらの水色の髪が美しい精霊様は、ワシとレイナードの事をご存じであると?」
男爵は、かろうじて笑顔を保っているように見せかけているけれど、既に顔全体を引きつらせている。
「そうよ。だって、この子、私と契約してるでしょ? あなたも父親として私にお祈りしてたじゃないの」
ウィンデーネは腕を組んだまま、左頬でレイナードを示すように横目で彼を見た。
「ま、まさか!」
男爵はそう言いながら少し身を引いた。ウィンディーネを見てみると、目が座っている。
ウィンディーネ、何か、怒ってる?
「私のこと、忘れた訳じゃないわよね!」
男爵様、余計な事言っちゃダメだよ!
「い、いえ、め、滅相もございません!」
「なら、いいんだけど」
彼女はそう言うと、椅子に深く座った。
あ〜、ビックリした。ウィンディーネがまた機嫌悪くなるかと思ったよ。そうなったら面倒くさいんだから、ホントに。
ところが、レイナードは、テーブルに肘を付いて頭を抱えた姿勢のまま、ぼんやりした顔でウィンデーネに言った。
「ヘヘヘ。僕、こんな生意気そうな子、知りませんよ」
「レイナードっ!」
「お兄様っ、何てこと言うのっ!」
「ちょっと、あんた! 何、その態度! 言っとくけど、私と契約したからには、怠けてると赦さないわよっ! あんたがそんなんだから、いまだに中級魔法しか使えないのよ。この、怠け者っ! もっと精進しなさいっ! そうしないと、契約を解除するからっ!」
ほらっ、言わんこっちゃない!
「ま、まぁ、ウィンデーネ、ちょっと落ち着いてよね。今、お兄様は混乱しちゃってるんだ」
「フンッ!」
ウィンデーネが、また、ふくれてしまった。
どうすんの、これ? 放っておいたら、本当に契約解除しそうだよ〜。
するとその時、アリサがククリナと彼女たちにパフィパフィのケーキを運んできてくれた!
「うわぁ! 何これっ! おいしそうっ! 食べてもいいの?」
ウィンディーネにアリサがニッコリと微笑んだ。
「ヤッター!」
「ラーシャ、これ、好き」
「では、私も」
き、機嫌が戻ったよ。ア、アリサ、グッジョブッ!
思わずアリサにグッドサインを出す。彼女は丁寧にお辞儀をして壁際に控えた。黙り込んでいた男爵は、大きく息を吸い込んで深呼吸すると、ようやく言葉を口にした。
「い、いや~、驚きましたな。ま、まさか、四大元素、水の精霊様とは。ワッハッハ!」
すると、ウィンデーネは口の周りに着いた生クリームをぺろりと舐めて男爵に答えた。
「あなた、いいこと教えてあげるわ。この子、ちゃんと精進すれば、上級水魔法まで使えるはずよ。魔法剣士にだってなれるんだから。親として、よく言い聞かせなさいよ!」
「ちょ、ちょっとウィンディーネっ!」
「か、かしこまりましてございます」
男爵は、姿勢を正してウィンディーネに頭を下げた。そして、にこやかに決意を述べた。
「ワッハッハッハ。それにしても、水の精霊様から直接そのようなお言葉を賜りましたならば、これ以上誉な事はございませんな。私が責任を持って息子を精進させますので、ご、ご安心ください」
「それならいいわ」
男爵は、ウィンディーネのダメ出しをもらって、逆に、緊張の糸がほぐれたようだ。
「一体何の話ですか~」
レイナードは相変わらず呆けてしまっている。
まぁ、おいおいね。レイナードお兄様!
スイーツを食べてご機嫌になったウィンディーネとラーシャは、再びピアスに戻り、レイナードと精霊たちとの邂逅は無事に終わった。
やれやれ。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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