027-2-8_女神様?(挿絵あり)
この子かなり危険な状態だよ。僕が来たところで、もう目を開ける力なんて残ってないでしょ。どうしようか、このままここにいていいのかな……。
ところがその時……。
あ、動いたよ……今、少し唇が開いたね……。
それを見た少女の母親は、目を見開いて泣き出した。彼女は溢れてくる涙をそのままに、イリハの手を握りしめている。
思った通りの辛いシーンだな。僕には父さんが死んだときぐらいしか経験がないけれど、まだこんなに小さい子を看取らなといけないなんて……。
そっと布団の中に手を入れ、母親と同じように少女の手を握った。しかし、反応はない。
かなり衰弱してる……。
布団の中から手を伸ばし、女の子の心臓辺りの魔力を感じてみる。
やっぱり弱々しいね……、
でも、心臓はなんとか動いてるな……他はどうだろう……?
彼女の身体に魔力をごく弱く流してみると、やはりこちらも反応が無い。
これは酷いな。魔力を上手く吸収できなくなってるよ。細胞が働いてないんだね。これじゃ、いつ臓器不全を起こしてもおかしくないよ。う〜む、一体、何の病気なんだ?
目を閉じ、今度は内臓に注意を集中してゆっくりと手を動かした。
あ〜、特に肺だな。組織がボロボロになってるよ。なるほど、これは結核だ……って、結核? あれ? 今なんで分かったの? まぁいいや、それよりも原因は結核菌って事だよな。ふむふむ……ってかダメだ、分かったところでどやったら治るんだよ? 医者じゃないんだから、治療のイメージなんて出来ないぞ、どうする?
ところが……。
あ、あれ〜? 何だろうねぇ〜なんか急に胸が熱くなってきちゃった……お、おかしいな……今、もの凄ぉ〜く、この子にキスしたいんだけど……あ〜、何? どうしたの僕? こ、こんな気分……初めて〜。
考える間もなく身体が勝手に動いてしまう。
そして、唇を重ねてしまった。
すると、胸の中に温かな安心感が広がっていく……それは、血液の流れのように、どんどんと彼女の中にも入っていった……。
あぁ、キスって何だか、気持ちいい……これが、女神の祝福……。
……。
って、え? 女神の祝福? 加護の名前だけど、今のキスの事?
十秒ほど唇を重ね、ゆっくり顔を離す。その途端、陽の光がレースのカーテン越しに柔らかく差し込んで、彼女の顔に降りそそいだ。明るく照らされた女の子の顔は、見る見るうちに血の気を取り戻し始める。
あらら、顔色が良くなってきちゃった。どう言う事?
恐々と、彼女の身体に魔力を少し流してみる。
嘘……?
少女の身体が反応した。
す、凄い元気な内臓……マジで? あれだけ壊れてたのに、一瞬で全部回復してる?
まじまじと少女の顔を見る。
ホントビックリ。なんだか分からないうちに治しちゃったぞ、いいんだよね? いやぁ〜、それにしても、今のは加護の力でしょ? 凄すぎじゃない? でも、念のために、もう一回ヒーリングかけとこう。
そうして、女の子の全身に治癒の魔力を流し込んだ。今までかかった時間は、約三分。
「ふぅ〜」
終わった……。なんてね。医療ドラマみたいだよ、ウシシ。
次の瞬間、向かいに座る母親の顔が驚きに変わる。
彼女は布団を少し捲ると、握っている女の子の手をまじまじと眺め、息を止めた。
そうなるよね。手が握り返してきたんでしょ? 僕も今、握り返されたんだ。
そして母親は、恐る恐る少女の顔を覗き込んだ。
彼女は呼吸が乱れ、口を開けて息をする。
もう大丈夫さ。顔色がいいでしょ? それに、さっきまでは頬も痩せこけて、目も窪んでたし、唇も肌もカサカサになってたけど、今は、ふっくら張りがあるもんね。もち肌ってこういう肌の事だろうね。まぁ、僕の言葉はいらないか。
母親は、驚いた表情のまま娘の頬にそっと手を触れた。
すると、少女が目を開ける。そして、小さな声で言った。
「お母さま……?」
「イ、イリハ……」
「……あのね、お母様。今、女神様が一緒に遊ぼうって言って、イリハを呼びに来てくれたのよ」
少女は、そう言ってニッコリと笑顔を見せた。
母親は息を呑みこみ、ゆっくりと少女の布団をめくる。
母親の動きが止まった。
彼女の目が、さらに大きく見開かれる。
「こ、これは……」
横になる少女の身体は病人のそれではなく、健康優良児そのものである。
彼女は、上半身を起こし母親の顔を見つめる。
母親は、両手で口を押さえながら、肩を震わせた。そして、ハッと、何かに気づいたように僕を見ると、小さく言葉を漏らした。
「め、女神……様……?」
いっ!
母親は、それだけ言うと、女の子を抱き寄せ大声で泣き出した。
大粒の涙が、鼻水と一緒にくしゃくしゃになって、母親の顔から流れ落ちる。
女の子は目をぱちくりとさせて、母親の頭をよしよしと撫でながら言った。
「お母さま、大丈夫?」
気が付くと、後ろで執事も肩を震わせながら涙を流している。
こちらは声を出していないが、袖で涙を拭っている。
執事ともあろう者が! ハンカチとティッシュは忘れないように!
そして執事は、走って部屋を出て行った。
はしたないぞ、まったく。廊下は走らない!
しばらくして館の主が駆け込んできた。
お前もかっ!
館の主は叫ぶように言った。
「イリハっ!」
そして、ベッドに駆け寄ると女の子と母親の顔を見た後、驚いたように振り返って僕を見た。
うっ! 圧が強い。
そして、彼は、女の子と母親を抱きしめ、年甲斐のない声を上げた。
なんか、居づらくなっちゃった。
そっと後ずさりする。
苦手なんだよねぇ、こういう雰囲気ってさぁ。
三歩ほど下がって音を立てないように振り返る。
さてと、僕は退散……。
身を屈めながら開いていたドアからそっと部屋を出た。すると、廊下には先程の執事とメイドたちが集まっていた。
おっと!
そこにいたメイドは七、八人。そして、一番前にいるのは、さっき一階の客間にいた超美人メイドだ。彼女はしゃがみ込んで、ガシッ、と僕を抱きしめた。
「わっ!」
「あいあおうごあいばふぅ~……うううっ~~~……あいあう~……!」
彼女も声を上げて泣いている。何か言っているようだけれど、何言ってるか分かんない。他のメイドたちも抱き合って泣き出した。
うっ! こ、このメイドさん、ボリュームたっぷり。僕の顔が、た、谷間に埋もれてますけど……。
「あうあうあうう〜〜〜」
さらに強く押し付けられる。
あぁ、いい匂いがするぅ。幸せ過ぎで息が止まりそうだよ……。
いや、ホント……。
で、でも、ちょっと、か、顔が、う、動かせない。
ちょ、ちょ、い、息、息、息が……。
く、苦っ、苦しいっ! マ、マジ、ヤバイッ!
クッ!
は、離してぇぇぇーーーーっ!!!
ーーーー
おっと!
AI生成画像




