273-13-1_アルバスに届いた手紙
「はい……父上の、仰る通りです……」
レイナードは、目を伏せてそう言った。
「……良いか、レイナードよ。お前にも、今回の作戦については説明してあるはずだ。たった一つの誤った行動が、すべての計画を台無しにするという事を肝に銘じておかねばならん。今回のお前の勇み足は、決して看過できるものではないぞ。分かっておるのか?」
レイナードは、視線を足下に向けたままだ。
「分かっております……」
レイナードお兄様、男爵様の目を見てないね。
男爵は、落ち着いた口調で話そを続ける。
「……イリハが元気になったことで、お前も年明けから学園に戻ることになるだろうが、お前は、自らの戒めとして、全ての休みを返上し、その間、王宮騎士団の見習いとして訓練に参加するのだ。その事は、ピュリス様にもご了承いただいている。いいな、レイナード」
「はい。分かりました父上」
レイナードは、そう言って一応は姿勢を正したようだ。
男爵がレイナードに反省を促した事とは、もちろん、彼が怪情報に乗せられてローズ男爵の長女、ライラ・メリアル・ローズを助けるために、男爵に無断で王都へとやってきたことだ。レイナードは、ボズウィック家の私設部隊の中から二人の手練れのみを連れて密かにやってきたつもりだったけれど、彼の足取りは連れの二人から逐一男爵に報告が上がっており、レイナードは王都に入る手前で男爵にあっけなく取り押さえられてしまったのだ。そして、男爵はレイナードに謹慎を言いつけ、彼は、屋敷の敷地から一歩も外に出ることが許されていない状態だ。
「うむ。しっかり励むがよい」
男爵は、大きく頷いた。
それにしても、レイナードにもたらされた情報って何だったんだろう?
「ねぇ、男爵様、レイナード、え〜と、お兄様が王都までやって来ちゃった切っ掛けの情報って何なの?」
「うむ、実はな……」
男爵は、レイナードが今回のような行動を起こしたのは、一月ほど前、彼のいたアルバスの屋敷に届いた一通の手紙が原因だと言った。
「……その手紙を、レイナードは疑いもなく信じてしまい、のこのこと王都までやってきたのだ。軽はずみな行動と言わざるを得ん」
男爵の言葉に、レイナードは肩を窄めて言った。
「今から考えると、そんな手紙が届くなんて怪しいですよね」
「まったくだ!」
「まったくだね!」
レイナードの言葉に、男爵と同時突っ込みをしてしまった。しかし、冷静な頭なら、まずは疑ってしかるべき手紙だ。何故なら、手紙の封筒には宛先も差出人も書かれておらず、当然、封蝋もなかったような手紙だったらしい。もちろん、最初は彼もまったく疑わなかった訳ではないと言った。
「……確かに、不審な手紙だったんです。私が手紙を開けると、中の便せんは、表の面に羽ペンで何かのメモを書いた後に、一度、くしゃくしゃに丸めたものを、また、開いて皺を伸ばしたかのようでした」
そして、彼が言うには、その紙の裏に、”アルバスのレイナード・ボズウィック様 助けて下さい!” と書かれていたらしい。
彼は話を続けた。
「……そして、よく見るとその便せんの表には、カバール商会の紋章が薄く印刷されていたのですよ」
「でも、レイナード、え~と、お兄様、それだけで、よく、それがライラさんからの手紙だって思ったよね」
そう言うと、レイナードは苦笑いしながら言った。
「ハハハ、それがさ、書かれていた文字が彼女の筆跡だって思っちゃったのさ」
「筆跡?」
レイナードは、手紙にライラの筆跡の特徴があると言った。
「ああ、最初の文字のところがね、右側に擦ったような跡があったんだよ。彼女は左利きだったから、たまにそういう事をやっちゃってたっていうかさ……」
彼はそう言うと、肩を落とした。レイナードは、いろいろと周到に仕組まれた情報を掴まされていたのかもしれない。もし、彼がそのままカバール商会に押しかけていたら、どんなことになっていたかは火を見るより明らかだ。男爵は、すんでのところでそれを防いでいたのだった。ただし、レイナードが男爵に止められて押しかけなかったからといって、その後、カバール商会やアトラス派たちが何か動きを見せたかというと、そういう訳でもないようだ。
「まぁ、なんとか間に合って良かったが、奴らは、まだ何を企んでおるのか知れたもんではない。引き続き、奴らの動きから目を反らすことは出来ん」
男爵はそう言うと、モートンに合図を送った。すると、モートンはトレーに乗せた手紙を男爵に差し出した。男爵はそれを受け取って言った。
「これがその手紙だ」
男爵はそう言って、手紙を見せてくれた。
「父上、いつの間に……?」
「ん、んんっ。あ、新しい秘書が必要になるだろうと言って、伝書鳩によって届けてくれたのだ」
「そ、そうですか……あ、あの秘書が……」
ん? なんか、二人とも動揺してるの? 秘書が美人過ぎて、ローラ夫人やイリハに気が引けてるとか? まぁ、そんなのどうでもいいけど。
男爵から封筒と便せんを受け取ると、手に取って確かめた。やはり、レイナードが言ったように、封筒には何も書かれておらず、便せんの方は、その裏に一言だけが書かれていた。
これがレイナードを呼び出そうとした手紙か……。
「確かに、『アルバスのレイナード・ボズウィック様 助けて!』って書いてあるね」
なるほど、必要以上の情報は書かれていなくて、レイナード以外、手紙の意味を理解できる者はいないような内容だ。
本当によく考えられてるね。
「レイナード、え~と、お兄様。この手紙って……」
「ハハハ。エリア、僕の呼び方、ちゃんと慣れてね」
そ、そうなんだよね。どうしても、レイナードの事が年下に思えちゃうから、つい。でも、ちゃんとけじめをつけて、ここは、可愛い妹力を発揮しないと。
そして、満面の笑顔で言った。
「分かったわ、レイナードお兄様っ!」
「キュンッ! も、もう一回、呼んでくれないかっ!」
サービスは一度キリだよ。まぁ、それはそうと……。
「この手紙、封はされてたんでしょ? 封筒に宛先が書いて無いのに、どうやって届けられたの?」
「そうだね。封を開けたのは僕だけど、確かに封筒は糊で貼り付けられていたよ。どうやら、手紙を持ってきたのは旅の者らしい。それを門番が受け取ったんだ」
「そうなの? じゃぁ、その旅人は誰かに言づけられたのか中味を知っていたってことだよね」
「ああ、そういうことになるね……」
なるほど、それなら手紙を持ってきた旅人はカバール商会の関係者の可能性もあるということだ。とは言え、封筒にちゃんと宛名を書いていれば、郵便配達に任せられて、わざわざ関係者が持ってくる必要もないと思う。
何か引っかかるんだけど……。
レイナードは続けた。
「一応、その旅人を探したんだけど、結局見つからなかったんだ。でも、門番が言うには、多少は世間話もしたみたいでね、全く怪しい雰囲気ではなかったようだよ。なんでも、各地の教会なんかにある女神像を見て回っているって言っていたらしい。アルバスに来たのもついでがあったんだって。風の、なんだったっけ? 女神の像がどうとか? その後、寒くなるから工房のあるクリマ―村に帰るんだって」
「へぇ~、一人で旅を?」
風の女神像ねぇ……。
「いいや、一人じゃ無いよきっと」
レイナードは、手を扇ぐようにして否定すると常識的な考えを言った。
「屋敷にやってきたのは一人だったみたいだけど、女一人で旅なんて危険過ぎだ。だから、仲間はいる筈さ」
「えっ、女の人だったの?」
「若い女だったって、門番はそう言っていたけどね」
ますます分からなくなってきた。なんでカバール商会はそんな重要な任務を若い女に任せたんだろう? それに……。
「どうしたエリア? 何か腑に落ちない点でもあるのか?」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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