270-12-17_中央広場の屋台
冒険者ギルドの入口を出ると太陽はほんの少し西よりに傾いていた。澄んだ青色の空には、筋になった白い雲が上空の高いところに微かに見える。ギルド事務所の階段から見下ろす中央広場は、買い物をする人たちの他に、大きな荷物を背負っている人たちや荷車で荷物を運ぶ人たちなどで、まだまだ人の流れが途切れそうも無い。広場の隅の方では、警備をする王宮騎士団員が所々で馬に跨ったまま監視をしていた。
事務所の階段を下りて、取りあえず待機させている馬車に向かって歩きながら、僕と手を繋いでいるアリサが、ニッコリと笑顔で話し始めた。
「エリア様。とっても楽しかったです」
「そう?」
「はい。ギルドマスターと話をした時は緊張しましたけど、いろんな方とお知り合いになることが出来ましたし、少し、ワクワクとしてしまいました」
「フフフ。アリサ、フロネさんと意気投合してたもんね。でも、驚いちゃったよ。アリサが下着だけになってた時は、ギルマスを本気でぶん殴ろうかと思っちゃったんだからね」
「ありがとうございます。私、エリア様にお仕えさせていただいてから、それこそ、冒険をしているようで楽しくてしかたありません!」
アリサはそう言って立ち止まり、繋いでいる手にもう片方の手を添えた。彼女の手が温かい。そして、アリサは、お屋敷では見せない様な顔をしていた。
なんだか、子どもみたいに楽しそうだね。
アリサが屋敷の外での新しい体験を冒険と思うのは、これまでの彼女の人生が人に仕えてばかりだったからだと思う。アリサは色々な事を知っているけれど、それらは恐らく、誰かから教えられた知識に違いない。
でも、これからは僕と一緒に本当の冒険をするんだよ。ねっ、アリサ。
アリサに微笑み返すと、アリサはいつもの優しい眼差しに戻っていた。それにしても、冒険者ギルドではいきなりギルマスと知り合いになることが出来て、もう、何だか冒険者になったような気分だ。ギルドに帰還した冒険者たちはみんな充実した顔をしていたし、僕も、早く冒険者の仲間入りをしたい。依頼を達成した時の気分ってどんな感じかな? ワクワクしてくるよ。
よし! 今日は気分もいいからもう少し広場の周辺を探検してみよう!
「アリサ、まだ帰らなくても大丈夫だよね?」
「はい。次はどちらに行かれますか?」
「そうだね。お店が沢山あるから、何を売ってるお店か見てみたいかな」
「分かりました。では、私はあちらで待機している馬車の御車さんにお声を掛けてきますので、こちらでお待ちになっていてくださいね」
「うん、分かった」
アリサは丁寧にお辞儀をした後、出店の近くで僕を待たせ、中央広場の中心にある噴水の反対側にある馬車の待機所に向かって歩いて行った。
「さて、どこ行こうかな?」
マントのフードを脱いで辺りを見渡す。噴水の周囲には食べ物の出店が沢山あって、一つ一つ覗いてみたい。でも、中央広場を囲むように立っている建物には、魔道具屋の様な店や、武器と防具の店、それに服屋さんなんかも幾つか並んでいて、そちらにも興味をそそられる。しかし、広場の景色の中には、否が応でも目に入る大きな建物があった。その建物は、王宮の背後の崖から見てもダントツで目立っていたものだ。三角形の屋根に、鮮やかな青い色彩の瓦は、一際異彩を放っている。
「ほぉ〜、これが王都の教会かぁ! 近くで見ると凄く大きいね〜」
教会の入り口は間口が大きく、馬車が縦に二台は横付け出来そうな程の幅がある。扉への階段も幅広で、沢山の人が一度に詰め掛けても大丈夫そうだ。さらに、その先の扉も重厚感があって格式のある雰囲気を醸し出している。そして、何よりも目を惹くのが巨大な鐘楼だ。その鐘楼は、教会の屋根にずっしりと乗っかっていて、教会の威厳を示すように存在していた。
鐘がいくつかあって、あれが鳴ると、きっと、荘厳なんだろうね。ちょっと鳴らしてみたいな、フフフ。
大きな教会を眺めていると、セリア教の権威が伝わってくるようだ。でも、ちょっと違和感が否めない。周りの建物は、どれもベージュっぽい壁の色をしているけれど、その教会だけは真っ白い壁で、そこだけ空気が違っている。どちらかと言えば、中央広場には似つかわしくない佇まいだ。それに、建物自体には古めかしい雰囲気が感じられない。
まだ新しいのかな? 何だか周りに馴染んで無くて、ちょっと浮いてる気がするね。
多分、以前にピュリスさんから、王族が信仰している女神はガイアだって聞いていたからなんだろうけど、女神セリアを信仰するセリア教が、王国の中にこれ程目立つ形で幅を利かせているなんて尋常じゃないと思う。
これも、王宮の力が弱いって事なのかな? まぁ、女神セリアはガイアの子って言う事だから、別にいいのか。
それにしても、これまでに男爵様やピュリスさんから聞いていた王国の事情では、どちらかと言えば、アトラス共和国からの干渉がレムリア神聖王国からの干渉に優っていると思っていたけれど、この教会の目立ち方からすれば、レムリア神聖王国の影響力も結構強そうだ。しかし、男爵の口からはレムリア神聖王国の横やりについて何も聞いたことが無い。
男爵様は、セリア教だから多少は贔屓目もあるんだろうね。
「アリサが戻ってきたら、ちょっと、中に入ってみようかな」
そう口にした時、突然、頭の後ろから声を掛けられた。
「それは止めときな」
「えっ?」
思わず振り向くと後ろの果物屋の屋台のおばさんだった。着古した茶色いエプロンを着けたそのおばさんは、ふくよかな身体つきで顔も丸く、その体格に見合って野太い声をしていた。
「その首輪を付けてるとこ見ると、あんた奴隷だろ? 王都は初めてかい?」
おばさんは、腰に手を当てて子どもを優しく叱るような目でそう言った。
「あ、う、うん。初めてなんだ」
「なら、教えといてあげるよ。この街じゃぁ、あんたみたいな奴隷が主人の使いで普通に歩いてるから、たまに、主人に言われてお布施を教会に届けに来る奴隷がいるのさ。でも、みんな、あの階段も上がらしちゃ貰えないんだよ。ほら、見て見な。階段の手前に台があるだろ? 奴隷たちはあの台にお布施を置くのさ」
「そうなんだ。首輪付けてる人は行っちゃダメなんだね」
「入口で僧服を着た門番が目を光らせてるからね」
確かに、その男はさっきから目に入っていた。
「分かった。おばさん、教えてくれてありがとうっ! でも、おばさん、とっても親切なんだね?」
「ハッハッハッ。そうかい? あたいはね、ここでずっと商売してるからさ、いつも見てるんだよ。この街だけじゃないだろうけど、どこもみんな、奴隷にはキツイからね。あたいの幼馴染も奴隷にされた子がいるしさ。だから、あたいは奴隷の味方なのさ。それで、あんたにも言っといてあげようと思ってね。ハッハッハッ」
おばさんはそう言って、また笑った。そして、彼女は僕の顔を覗き込むように見た。
「それにしても、あんた、別嬪さんだね? いいとこのお嬢さんみたいな成りしてるしさ。さっきも、メイドさんと仲良さそうに手を繋いでいたじゃないか。あんた、ホントに奴隷かい? まぁ、どっちでもいいけどさ。兎に角、あんたみたいな小さな子が一人でうろついてちゃロクな事無いから注意しなっ!」
「うんっ!」
おばさんと話していると、こっちまで明るい気持ちになってくる。それに、屋台のおばさんのお陰で王都での奴隷の立ち位置というか、見られ方というか、何となくそんな雰囲気が伝わってきた。奴隷に対する扱いは厳しいだろうけど、庶民の中にはおばさんのような人もいる。注意さえしていれば、首輪を嵌めたままでもある程度は行動できそうだ。
まぁ、あんまり目立ち過ぎないようにね。
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