264-12-11_王都の陰
彼はそう言うと、「邪魔だっ!」と叫びながら子どもを立ち退かせる。そして、「チキショウッ!」と文句を口に出しながら、通りを渡すように干された洗濯物をくぐり、さらに奥へと進んだ。
ここが、貧民街……?
彼の焦りを他所に、子どもたちの生気の無い表情が気になる。
この子たちはお腹を空かしているんじゃないのか。親はいるのかな?
そんなふうに思っていると、一人の小さな男の子とすれ違いざまに目が合った。
彼の気持ちを探るように瞳を見つめる。その男の子も目を離さずに僕を見た。すると、彼の思考が入ってくる。
"お腹が空いた"
そうだろうね、みんな痩せているし、この子たちまともに食事が出来てなさそうだよね。
超階級社会の歪みだ。それに、セシリカが言っていた通り、経済が上手く回っていないこともあって、こういう人たちにしわ寄せが来ているのだ。
ところが、男の子の抱えている感情は、それだけでは無かった。
お姉ちゃんが連れていかれた……?
短い時間だったので、詳しくは分からなかったけれど、彼の脳裏には姉がいなくなったことによる虚無感が残っていた。そして、男の子は姉がどこに連れていかれたのかを知っている。どうやら、さっきの黒ずんだ建物だ。しかし、彼は、姉があの建物でお腹いっぱいご飯を食べられているとも思っていて、それを羨ましいとさえ感じていた。
あの男の子は、僕と同い年くらいだ。そして、この子の思考から感じ取った印象では、彼のお姉ちゃんは、まだこの国での成人には達していない年齢だと思う。
それにしても、あの黒ずんだ建物は何だ?
「ねぇ、さっきの隊列の荷馬車って、あの建物の荷馬車でしょ?」
「ん? あぁ、そうだ」
彼は、煩わしそうに答える。
「あの荷馬車は、何を運んでいたの?」
「奴隷に決まってるだろっ! あの建物から出て来たんだからな。あそこは、カバール商会の奴隷集積所だ。さっきのは定期的にメルーズの奴隷市場に向かっている奴隷を積んだ商隊なんだよっ!」
また、奴隷か……。
そうすると、さっきの男の子の姉も、奴隷として売られてしまったに違いない。
あの子の姉を買った奴隷商人の奴らは、少女たちにお腹いっぱいの食事ができるなんて言って連れて行ったんだよ、絶対っ! 卑劣な奴等め! それにしても、いくらそういう世界だからと言ったって、自国の民衆を奴隷にしてもいい法律なんて、一体、誰が作ったんだっ!
ぶつける先が見つからない怒りの感情と、口の中に溜まったものを飲み込んでお腹の中に落とす。
今は、目の前のこの子たちに出来ることをしよう。
馬を操る彼に掴まりながら、後ろ手にヒーリング魔法を放った。これで、馬の周囲百メートルくらいを癒すことができている筈だ。この魔法で、多少の怪我や栄養不足による身体の不調は、しばらくの間、回復する。
気休めだけど……。
そして、貧民街を抜けるまでヒーリング魔法を放ち続けた。その後、彼は、細い路地を抜けて太い比較的広い道に出ると、また、馬を走らせ始めた。どこをどう走ったのか皆目見当が着かないけれど、貧民街を抜けてから、ニ十分程走った辺りで馬の速度が落ちる。
「もうすぐだ!」
騎士風の若い男は、自分自身の焦りを落ち着かせるようにそう言った。
「知り合いの人って、そんなに危険な状態なの?」
「ああ、一刻を争うんだ!」
「でも、お兄さん、騎士さんでしょ? 王宮なら、治療術師がいるんじゃなかったの?」
彼は、言葉を飲み込むように、一瞬、間をおいてから、また言葉を口に出した。
「……私は、王宮の関係者だが騎士団員ではない。それに、王宮の治療術師は王族の専属術師だ。彼らが、王族以外を治療する事はない。そんな事より術師の方は大丈夫なんだろうな?」
「心配要らないよ」
彼は、確認するようにそう言っただけで、僕がどうやって治療術師を呼ぼうとしているのかまでは尋ねてこない。そうして、馬が止まった。
「着いたぞ!」
「ん?」
どこだ、ここ?
高台のようなこの場所から茶色い城壁が遠くに見えている。いつの間にか王都の一番外側にある城壁を超えて、北側の街道筋まで来ている様だ。そして、目の前にはこじんまりとした小屋がある。彼は僕を馬から降ろすと自分も降りて、足早に小屋の中へと入って行った。彼に続いて小屋の中に入る。
「サナレっ! 大丈夫か、サナレっ!」
彼はそう叫びながら、さらに奥の部屋へと入って行った。床には血が滴り落ちた跡がある。
「何? この血の跡?」
結構な量の血だ! これが怪我人のものならかなり差し迫った状態に違いないっ!
緊張が走る。
兎に角、そのサナレという女性を早く診てあげないと!
小屋の奥に入ると左手奥に開けっ放しの扉があり、彼はその部屋に入っていく。彼に付いてその部屋に入ると、ベッドの上に女の人が横たわっていた。彼女は身体を丸め背中をこちらに向けた状態で横になっている。焦りの見える彼は、彼女の肩に触れようとするけれど、痙攣しているように小刻みに震えを起こしている女性の身体に、彼は触れるのを躊躇して呆然としながら動きを止めた。
「どいてっ!」
彼を後ろに下がらせて、彼女の様子を見る。身体に被せられた薄い布を剥がすと、べっとりとした大量の血が敷きマットにしみ込んでいた。
こいつはヤバいな。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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