262-12-9_依頼
その依頼書の捜索対象、そこに書かれていた名前は……。
「ソフィ!?」
も、もしかして、か、彼女たちが……?
でも、間違いない。この依頼書はソフィの捜索を依頼するものだ。そうすると、他の依頼の何人かもあの子たちの事かもしれない。ソフィたちが辛い思いをすると思って、あまり事情を聞かなかったけれど、彼女は、この近くの村に住んでたんだ。
でも、それなら、この依頼は……。
ソフィの記憶では、彼女は親に売られてしまったのだ。その親がギルドに娘の捜索依頼を出す理由なんて、一つしかない。
「……フニス村と同じだ」
娘を奴隷狩りに売った親が自分たちの体裁を守るために、奴隷狩りに襲われたように見せかけるため村の山に火をつけて火事を起こす。このギルドへの依頼も、親が娘を売ったことを隠すために、意味のない依頼をギルドに出したに違いない。
黙り込んでいると、隣の女性が声を掛けてきた。
「君たち、今日はどんな御用かしら?」
ギルド職員の女性は、そう言って僕に尋ねてくれた。
「あの、この依頼って、僕が受けることって出来るんですか?」
女性は、冷たい目で見下ろした。
「君、冒険者じゃ無いでしょ? うちは、冒険者の登録に年齢要件は決めて無いけど、まぁ、デミヒューマンには、年齢が参考にならない人たちもいるし、稀に、魔法が使える子どももいるから。でも、そう言う子は、冒険者が奴隷として連れているような場合でちょっと特別なの。常識的に、冒険者登録は成人する十五歳からが普通よ。それに、君、初めて見る顔よね。もし、少しくらい魔法が使えるんだとしても、君のような小さな女の子には、冒険者なんて向かないんじゃないかしら?」
僕も、奴隷だったんだけど……。アリサが保護者ってことでどうかな? なんて、ちょっと無理があるか。
「そうですか」
完全に拒否られてるね。冒険者になるには、なかなかハードルが高そうだ。でも、きっと、彼女も、危険な世界に子どもが興味を持たないよう、僕を諭してくれたに違いない。
今日のところは仕方ない。
アリサの手を繋いで彼女を見上げる。
「じゃぁ、出ようか?」
「はい。エリア様」
そう言って振り返り、入口に向かおうとした。しかし、その時、入口から血相変えて、若い男が飛び込んできたっ! 彼は事務所に入るなり、カウンターに向かって叫ぶように言った。
「お、お願いしますっ! 依頼を、緊急の依頼をっ!」
ギルド内部にいる面々が男に注目する! その男は、騎士が羽織るような白いミドルコートを翻し、腰に細い剣を刺していた。
ブロンドの髪だ。結構、いい男だな。それに、身なりも良さそうだ。それにしても、何でそんなに焦ってるんだ?
騎士風の男は、正面のカウンターに飛び掛かるように身体を乗り出すと、若い女性ギルド職員に対して矢継ぎ早に言葉を投げる。
「ち、治療魔術が使える冒険者の方、いませんかっ! 緊急なんですっ! 知り合いが死にそうなんですっ! 助けてくださいっ! お願いしますっ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいっ!」
そのギルド職員女性は、身をのけ反らせながらその若い男を落ち着けさせようとしている。
「落ち着いてなんかいられないっ! 早くしないと、私の知り合いがっ!」
「そんな急に仰られても無理ですっ! 治療魔術を使える冒険者なんて、そうそういないんですからっ! それに、治療なら、広場の向かいにある治療院に行くべきでしょ!」
「ダメなんですよっ! あそこの治療術師は初級魔術しか使えないから、彼女を治せないっ! もっと、せめて中級以上の治療魔術を使える冒険者を。シングルランカーなら、そういう人いるでしょっ!」
若い男の焦りがギルド職員の女性にも伝搬し、彼女も狼狽えてしまっていた。
「そ、そんなの、無理よっ! シングルランカーの冒険者たちは、みんなクエスト中なのよっ」
「でも……」
「無理と言ったら、無理ですっ!!!」
若い男が言葉を続けようとした時、受付の女性職員は、ドンッ、とカウンターを叩いて大声を上げた。待合席の拗ね顔男も、その男を睨んでいる。すると、先程まで僕と話していた女性職員が、彼の側に行くと、落ち着いた口調で話し始めた。
「あの、騎士様、私はカウンターの責任者をしているフロネと申します。大変申し訳ありませんが、この者が申しました通り、シングルランカーの冒険者たちは、みんな長期クエストに当たっている最中でございますので、直ぐに戻ることはできません。私どものマスターも今は不在にしております。どうか、ご容赦ください」
ブロンドの若い男はフロネに諭されて、言葉を飲み込んだまま拳を握った。
この人、それなりの身分をしていそうなのに、どうして、冒険者ギルドになんて依頼しに来たんだろう? ちょっと気になるね。
うな垂れた彼を見ながら、長椅子に座っている拗ね顔の男に近づいて背後から小さな声で尋ねてみた。
「ねぇねぇ、おじさん、中級治療魔術を使える人って、そんなに少ないの?」
男は迷惑そうに身を引きながら答えてくれた。
「なんだ、さっきのガキか。俺ぁ、おじさんじゃねぇ! これでも、まだ三十過ぎたばっかだよ、バカ。知らねぇのか。治療魔術はそれを使える術師自体が少ねぇんだ。しかも、中級なんていゃぁ、あの男が言ったように、シングルランカーか、王宮のお抱え術師くれぇなもんだ。騎士だったら、王宮に言えっつうんだよ、まったく。ろくな依頼がねぇぜ、チキショウッ!」
「へぇ〜、そうなんだ。おじさん、良く知ってるね。じゃぁ、上級は?」
「はぁ? バカかクソガキ。大国の高級神官じゃあるめぇし、上級術師なんてこんな辺境の国にいるわきゃねぇだろッ! それに、俺はおじさんじゃねぇっつってんだ、この、クソガキッ!」
拗ね男は、言葉は悪いけれど、そうやって教えてくれた。見た目よりいい奴かもしれない。よく見れば、その男の連れの二人は、まぁ、普通の人相だ。
「ありがとう、教えてくれて。おじさん、いい人なんだね」
「いいかげんにしろっ! あっち行けってっ! シッシッ!」
拗ね男はそう言って、犬でも追い払うような仕草をした。そして、カウンターの前でうな垂れていた若い男は、また思い立ったように、キッ、っと歯を食いしばり、踵を返した。
これは、冒険の予感……。
「アリサ、ちょっとここで待っててくれる」
「エリア様?」
アリサに理由を説明する間もなく、慌てて彼を追いかける。そして、階段の手前で追いつくと男の上着の裾を、キュッと掴んで引っ張った。
彼は足を止め、首だけ振り返ると迷惑そうな表情で言った。
「急いでるんだ。行っていいかな」
「ねぇ、僕は、中級以上の治療術師を知ってるよ」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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