246-11-25_三つの約束
ヴィースは立ち上がり、いつもの仁王立ちの姿勢になった。
「それから、一点、ご報告が」
何だよ、変わり身早いな!
「報告?」
「はい。猫族の長である白虎の奴が、一度、エリア様に、村へお越しいただきたいと申しておりました」
「精霊の白虎が僕を? なんか理由でもあるのかな?」
「なんでも奴は、エリア様の眷属になりたいそうです」
「僕の眷属に? そうなんだ。進化でもしたいのかな?」
白虎なんて、猫型獣人の最終進化型じゃないの? それ以上進化なんてするのかな? まぁ、いいけど。
「分かった。話くらい聞いてもいいよ。いずれ獣人族の村には行かなきゃならないし、ちょうどいい。ローズ家事件が落ち着いたら行くとしようか」
「ありがとうございます。白虎の奴には、私から伝えておきます」
「ああ。頼むよ」
ヴィースは、組んだ腕を解いてコクリと頭を下げた。
「ところでヴィース、今日は、ローズ男爵領に一緒に行って欲しいんだけど、できれば、アムも連れてね」
「かしこまりました。アムに声を掛けて参ります」
ヴィースはそう言うと、早速、転移して姿を消した。その後、彼と入れ替わりでアリサが部屋にやってくると、彼女は、早速、僕の身支度に取りかかかってくれた。
「アリサ、ごめんね、急がせちゃったね」
「とんでもございません。私も、今日は、とても楽しみにしているんですよ。久しぶりの王都ですから。ダニーに、朝ごはんのお弁当を作ってもらいました。それと、奥様にもお伝えしてございます」
「ありがとう、アリサ」
今日は、朝早くから行動するのだ。何故なら……。
王都に行けるからさっ!
いや~、嬉しいよ。王都ってどんな町だろうね。人が一杯いるのかな? お店だっていろんな種類があって、あ~、楽しみ~。
だから、ゆっくり朝ごはんを食べてる時間はもったいない。イリハとラヒナには悪いけど、王都見物、早く行きたいっ! と言っても、まずは、昨日行った肉体再生魔法レナトゥスの効果を確認してからだ。先にローズ男爵様のお屋敷に寄って、彼女たちと話をしないといけない。多分、身体の方は回復していると思うけど、心の傷がどうなっているのか気になっている。
そんなふうに考え事をしている間に、僕の身支度が完了したようだ。今日の装いは、何んというか、シンプルに尽きる。髪型は後ろで一つ結びにした三つ編みで、サイドの髪は下に垂らしてクロスのシンプルな髪留めをしてまとめてある。服装はトップがホワイトのボタンアップシャツで、ボトムは黒のミニスカートに黒いロングレギンス。そして、上から厚めの茶色いマントを羽織るとのこと。鏡越しにアリサの顔を見ていると、彼女と目が合った。
「エリア様。王都は人の出入りも多くいろんな輩がおります。最近は、子どもや少女たちの誘拐なども頻繁に起きているようですので、目立たないことに越したことはございませんから、服装は、少々、地味にいたしました」
鏡の向こうのアリサは、そう言ってニッコリ笑顔になった。マントは少し重苦しいけれど、フードも付いていて、頭からすっぽり被れば、トラウマの首輪もあまり目立たない。
「そうなんだ。王都って治安が悪いんだね。物騒だな」
「はい。ですから、お一人でのお出かけはお控えくださいね」
「分かった。そうするよ」
「では、ご出発の準備をしてまいります」
アリサはそう言って、右頬にキスをくれた。
あぁ、とろけちゃいそう~。
ーーーー。
しばらくして、部屋にアリサが迎えに来ると、集合場所の玄関ロビーへと向かった。そこには、既に、ヴィースとアムが待っていた。それに……。
「あっ、イリハとラヒナ、それにローラ夫人」
「もう、エリアばっかり……」
イリハが、顔を見るなり頬を膨らませてそう言った。その様子を見てラヒナはニコニコと笑っている。
「ゴメンね、イリハ。今日、男爵様に会えたら、イリハが王都に行けるように話してみるよ」
「ムゥ~。ヴィースは分かるけど、何でアムちゃんもなのぉ〜?」
うっ。やっぱり言われると思った。
ヴィースとアムを連れていくのは、ローズ男爵領の小麦畑を監視するという重要な任務のためなのだ。これは、セシリカからも念を押されてお願いされている。彼女の説明では、例え小麦が無事に発芽したとしても収穫されるまでは気を抜く事ができず、万が一、小麦畑が魔獣にでも荒らされてしまったら契約の履行不能になり、ローズ家は莫大な損害賠償を支払わなければならなくなるらしい。セシリカは、それが今年作付けした小麦を先物契約市場で売りに出すというこの作戦の、一番のアキレス腱だという。しかし、そのリスクを回避するためには、広大な小麦畑を強力な魔獣から守備できる腕の立つ人員が相当数必要になり大きな経費がかかってしまう。しかし、現在のローズ家にはその費用を捻出することができない。そこで、しばらくヴィースとアムにローズ男爵領の警備を担当してもらうことにしたのだ。もちろん、アムも重要な戦力であることは言うまでもない。彼女は山犬族の獣人なだけに鼻が効く上、そこそこ強い犬型の魔獣を従えることだってできるのだ。大きな面積を誇るローズ男爵領を警備するのにこれ以上適した人材はいない。だから、アムは絶対外せないのだ。
「ま、まぁ、ア、アムは王都に行くわけじゃなくて、ちょっとやってもらいたいことがあるからね……ハハハ」
「フンッ! もう、いいっ!」
そう言って、イリハはプイッと横を向いた。その様子を見て、アムが言った。
「エリア様。イリハちゃんとラヒナちゃんに、王都のお土産を買ってきてあげたらどうですか?」
アムのふさふさ尻尾がゆらゆら揺れている。やっぱり、アムはイリハたちよりお姉さんだ。
「そうだね! あっ、あれはどう? セシリカから聞いたんだけど、王都に美味しいスーツの名店があるんだって。確か、パフィパフィっていう店だったかな? そこで、人気のお菓子を買ってきてあげるよ」
「パフィパフィ? それ聞いたことあるっ! 私っ、チョコのお菓子がいいっ! エリアっ、約束だからねっ」
イリハの顔が、パッと明るくなった。
「分かった。約束するよ」
アム、ナイスフォローだ。まぁ、子どもなんて、チョロい!
ところが、イリハの目はジト目になっている。
「分かってる? エリア、これで、約束は三つになったんだからね」
うっ!
イリハの視線が痛い。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
と思ったら
下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。
面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に励みになります。
重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。




