022-2-3_ レピの町(挿絵あり)
野営地を朝早くに出発し、なだらかな山岳の峠をいくつか越えて進むと、ようやく森を抜けた。太陽はとっくに沈み、西の空にも小さな星が見え始めた。
「ふぅ〜、どうやら目的地に着いたようだな。あれがレピの町だよ、エリア」
ダニールがそう言って指差した先に、町の明かりが見える。
「へぇ〜、随分、山の方に入った気がするけど、こんなところに町があるんだね?」
「ああ、このあたりは開けた高原になってるんだ」
「高原の町かぁ、国境なんだよね? レピの町って」
「そうさ、クライナ王国の最南端だ。景色がとても綺麗なんだけど、流石に、夜じゃ、よく分からないな」
「へぇ、そうなんだ。どんな雰囲気なの?」
「どんな雰囲気? そうだな、大きな湖があって静かな町だな。町の名も、その湖から取った名前だよ」
「なるほど、湖かぁ。楽しみぃ〜!」
「ハハハ。遊びに来たんじゃないけどね。でも、この町は保養地になっていてね、湖畔には貴族なんかの別荘がいくつも建ってるんだよ」
「別荘? セレブだね」
「セレブ?」
「この町には、お金持ちがたくさんいるって事でしょ?」
「まぁそうだな。でも、庶民には関係ないさ……」
彼と話をしながら馬をゆっくり進めていると、目の前に、三階建てのビルくらいありそうな、大きな門造りの建物が現れた。
「ここで馬を降りるよ」
「ここは?」
「検問所さ」
「ここが……」
凱旋門を小さくしたようなその建物は、全体が石造りの白壁で出来ていた。左右の幅広い石柱にはそれぞれ扉と窓があり、真ん中が通路となっていて奥には鉄格子が見える。
立派と言えば立派か……。でも、国境の検問所って、もっと、物々しい場所を想像してたけどね……。
「ダニール?」
「なんだい?」
「この国って城壁とかそういうの無いんだね。なんか、林の中にポツンと建ってるって感じだけど」
「確かにそうだな」
「これなら検問所を通らなくても、いくらでも町に入れるんじゃない?」
「そんな事したらダメだよ」
「そりゃしないんだけど……」
ダニールは馬の手綱を柵に繋ぎ、慣れた様子で、真っすぐ検問所の方に向かう。
入口には、兵士の男が左右に立っている。
流石に、門番はいるんだな……。
彼らの脇を抜けるときも、特に止められたりはしない。
難なく奥の鉄格子のところまで行くと、柵の向こう側には机と椅子が置いてあり、そこに一人の兵士が座っていた。どうやら、ここで入国手続きをするらしい。
「名前と出身地、それに、滞在期間と、後、入国の目的を聞いていいか?」
「はい、私は、ダニール・ポポフ。出身はアトラス共和国領マラケス行政区です。えと、滞在期間は、二、三日くらい。目的は、知り合いを迎えに来ました」
「知り合い? そうか。で、その子は?」
兵士の男は、顎を、クイッ、と僕に向けた。
「あ、え〜、この子の名前は、エリア、一応、私の奴隷なんですけど……」
「一応ってなんだ? あんたの奴隷で間違いないんだろ?」
「え、ええ、まぁ」
「それなら、お前さんが入国税を払ってくれ」
「あ、あと、馬が一頭います」
「そうか。人間は一人銀貨五枚、奴隷と馬はそれぞれ一枚だ」
ぼ、僕は人間じゃないのか……。
「じゃぁ、これで」
ダニールは袋から銀貨を取り出し、担当の兵士に渡した。
「ちょうどだな。よし、これが通行許可証だ。入っていいぞ」
「ありがとうございます」
彼はそう言って振り返った。
「行こうか」
「えっ? 入国手続きって、もしかしてそれだけ?」
「そうだよ。どうしたんだい?」
「え? いや……」
会話を聞いて、鉄格子の奥から兵士が面倒臭そうに言った。
「なんだ? その奴隷は喋れるようにしてあるのか? 問題を起こすなよ」
「も、申し訳ございません。さぁ、行くよ」
彼はそう言って、僕の手を引いた。
「ここから入らないの?」
「町の方に行くには、林を迂回して進むんだ」
「そうなんだ……?」
ただの税関事務所だな……。
馬を引き取って跨ると、林の方向に進む。
「ねぇ、ダニール、クライナ王国の国境って随分と警戒が緩いんだね」
「そうだな。でも、昔からこうだけどね」
「そうなの?」
「よく分からないけど、もう長いこと戦争は起きてないからじゃないか」
「ふぅん……」
いや、いいのか、それで? クライナ王国!
街道は、林を迂回するように続いていて、そこを回り込むと石畳の道になった。
「さあ、ここが町の入り口だ」
彼は、そう言って馬を降り、僕を抱えて下ろしてくれた。
そこは丸い広場のようになっていて、真ん中に小さな噴水がある。周囲には何かの店が並び、なだらかな下り坂になった一本の道が先の方へと続いていた。
「これがレピの町かぁ〜」
「とりあえず、宿に向かおう」
「宿屋? 今日は宿に泊まるんだ? 僕も、泊まっていいの?」
「は? 当たり前じゃないか、何言ってるんだよ」
「一応、奴隷だからさ……」
そう言うと、ダニールは僕の頭をポンポンと叩いて、笑った。
「ほら、行くぞ」
「うん!」
宵の口は過ぎているけれど、まだ店も開いていてまばらに人通りもある。
……明るい感じの町だな。
通りに入ると、賑やかな店に人が出入りしていた。
「このあたりは、町のメイン通りだ」
「へぇ〜……」
笑い声が漏れてくる店の窓をのぞくと、数人の男たちが、持ち手の付いた樽をあおってご機嫌そうだ。
「楽しそうだね……」
「ああ……」
ダニールも店を見ながら歩いている。
……なんか、いい町だね。あの店にも入ってみたいな。でも、またここに来れるんだろうか……いや、絶対来よう。あっ、子どもは飲酒ダメなの? じゃなかったよ。僕は、子どもじゃないから問題ない、はずだ!
石畳の道を十分ほど歩くと、看板にベッドのマークが書いてある建物が何軒か見えてきた。
「ほら、着いたぞ」
「ここが僕たちの宿?」
「ああ。ちょっと古いけど、何度か使ったことがあるんだよ」
「へぇ〜、 ……ウィンディーネ亭っていう名前なんだ?」
「水の精霊の名前だよ。レピ湖の守り神なんだ」
「精霊かぁ、御伽話みたいだね」
「御伽話か。まぁ、僕も会った事ないけど、レピ湖に精霊様がいるって言うのは本当だって言われてるけどね。それにしても、エリア。馬に乗って疲れただろ? 小さいのによく頑張ったよ」
「ダニールもね」
馬を裏の馬房につないだ後、表に回って宿に入った。
宿のカウンターに行くと、受付には髭を生やした小太りの中年親父が、タバコをくわえながら応対した。ダニールが一泊の予定だと告げると、髭の親父は怪訝そうな顔で僕を見て言う。
「その奴隷も一緒かい?」
「そうだ。何か問題でもあるのか?」
「普通は奴隷なんて馬小屋で寝泊まりさせるがな。まぁ、その娘があんたの抱き枕って言うんなら分かるんだが」
「エリアは大切な友達さ」
大切な友達か、ちょっと嬉しいじゃないか。
「そうかい。俺ぁ、宿賃さえ貰えばそれでいいんだけどよ、あんまり、目立たないようにした方がいいぜ、兄ちゃん」
宿の主人は、そう言うと、二人分の前金を支払うように言った。ダニールは馬もいると言って、馬の分も支払い、ようやく部屋に入ることができた。
「おつかれさんっ!」
「おつかれさんっ!」
部屋に入るとダニールとハイタッチをする。彼のお陰で、今晩はベッドで眠ることができる。
ホント、初めての旅は疲れたね。
街道ばかりを走ってきたけど、知らない内に緊張していたのかして、身体が強張っている気がする。腰に手を当てて身体をほぐしていると、彼も体操を始めた。それにしても、ダニールは僕を奴隷としては見ていない。宿屋の主人は、あんな言い方していたけれど、彼は、最初から、友達のように話しかけてくれている。
やっぱりダニールはいい奴だ。なら、少し労ってやるとしよう。お湯を湧かしてやれば身体を拭くことくらいはできるからね。
「ねぇ、ダニール、一緒に湯浴みしない?」
「えっ、湯浴み?」
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レピの町
AI生成画像
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