206-10-9_異変
アリサの様子を見て、逆に、冷静さを取り戻す。
「ア、アリサ、ごめんなさい。ちょっと聞いて。え〜とね、もしかしたら、レックスたちは、よそ者が教会にいたって分かったかもしれないわ。それから、え〜と、さっきのフニス村の人は、きっと、村のみんなを裏切ったのよ。それで、レックスは奴隷狩りを呼んだみたいなの。信じられないけど、レックスと奴隷狩りは繋がってるわ!」
大変な事になった! この事態をピュリスさんに伝えたいし、フニス村から攫われた女の子たちの事も気になるけれど、一刻を争う状況だ。邪魔が入らない内に、まずは、小麦の浄化を急がなければならない。
「アリサ。今から小麦の浄化魔法を使うわ! 魔力をたくさん使っちゃうから、もし、私が気を失ったりしたら、身体の事お願いね」
アリサが目を伏せて拳を握り、肩を震わせている。
「お、お任せくださいっ!」
アリサはそう言って、胸の前でギュッと拳を握った。彼女は、目に怒りの炎が映っていそうなほど怒っている。そして、素早くホルトラスの家から外に出ると、上空を見上げた。浮遊魔法で大空に高く移動してそこから魔法を放とうと考えている。
「じゃぁ、行ってくるわ。アリサ」
羽織っていたカーデガンを脱いで、アリサに手渡す。
「行ってらっしゃいませ!」
アリサの声に力がこもる。もちろん、私も気合が入っている。さっきから身体が火照っているのだ
まだ、怒りが収まらないし、大魔法を前に、ちょっと、興奮しちゃってるのかな?
エイルはアリサの肩に乗り、いつになく笑顔を見せず、私の顔を覗くように見ている。
「エリア様、なんだか疲れてない?」
エイルがそう言って、心配を口にした。
「大丈夫よ」
確かに、水の精霊のイニシエーションに挑んでからちゃんと寝ていない。でも、感覚的には、丸一日が経ったくらいだから、それくらいなら寝ていなくても大丈夫だ。
「ご無理をなさらずに」
アリサまでそう言う。
「うん。ありがとう、アリサ、エイル。問題ないわ……」
心配かけちゃってるみたいね。
早く、やらなきゃいけないことを片づけて、身体を休めたい。でも、レックスの動きが気になるし、そんなこと言ってられない。
「……それから、ホルトラスさん、教会の鐘をお願いね」
「心得ましたじゃ!」
ホルトラスには、浄化魔法を行う前に教会の鐘を鳴らしてもらうようになっている。魔法の発動を農民たちに事前に知らせておく必要があるのだ。場合によっては、雷が落ちるかもしれない。万が一、人に当たってしまうと、怪我くらいでは済まない。
そうして、浮遊魔法を発動する。
「ボーラス!」
魔力を流し始めると、スッと身体が持ち上がって上昇を始めた。
出来るだけ、高く上空へと上がろう……。
高度は、せめてイグニス山を見下ろすくらいまでは上がらないとダメだろう。なにせ、ローズ男爵領の畑は広大だ。全体を俯瞰出来る位置にいた方が、魔法のイメージがしやすい。
上昇して直ぐ、ホルトラスの家を見下ろすと、玄関前ではアリサがずっと見上げていた。
アリサとは、これが片付いたら、もう一度一緒にここを訪れよう。彼女たちメイドは、仕事柄、お屋敷から外に出る事はあまり無さそうだから。
ローズ家事件が解決すれば、イグニス山の火口湖までハイキングにでも連れて行ってあげようかな。もう、山頂の方は、紅葉が終わって冬支度って感じだろうけど景色は最高だろうからね、フフ、楽しみ!
彼女に手を振り、さらに、上昇を続ける。教会の方を見ると、屋根も随分と下になり、ホルトラスが、教会に向かって歩いているのが小さく見えた。
教会の屋根って、青いんだ!
最初に来た時は暗くて分かんなかったし、その次、エイルとイグニス山に向かった時は、後ろを振り返りもせずに、山に向かったから全然、見てなかった。そして、教会から少し離れた所には、茶色い屋根の屋敷が見える。
あれがローズ男爵様のお屋敷ね。
屋敷は、長四角の形で、屋根の上に煙突が一本だけ突き出している。その建物を囲むように、綺麗に整えられた緑色の植物が、広々とした敷地に植えられていて、さらにその周りを、塀が四角く囲んでいる。庭というより、畑に見えるけれど、それにしても広い。ローズ男爵の屋敷は、とても敷地が広い割に、殆どが畑に使われていて、その分、屋敷がこじんまりとしていた。
建物自体は、ボズウィック男爵のレピ湖の別荘よりも小さいけれど、あれだけ畑があれば、新鮮な野菜が、毎日、食べ放題ね。
ローズ男爵の屋敷が粒のように小さくなり、かなり、上空までやって来た。
そろそろ、魔力を溜め始めよう。
魔法を発動すれば空の様子が急変するので、ホルトラスにも分かるだろう。彼は、それを確認すると教会の鐘をならし、各村がそれに答えて村々の半鐘を鳴らす手筈になっている。
上空は少し風が強い。しかし、全く寒さは感じない。空高く上がれば上がるほど寒くなるはずだから、そうなったら、魔力で身体を覆って保護しようと考えていたのに、むしろ、暑くて仕方ない。
何で、こんなに暑いのよ?
魔力を貯めようとすればするほど、暑くなるようだ。
身体が……熱って仕方ないんだけど……。
額に汗が伝う。
あれ? やっぱ、疲れてるのかな?
指先で汗を拭うと、滴るほどに汗をかいている。
何これ? 凄い汗っ!
それに、ちょ、ちょっと、ヤバい。
お、お腹の下の感覚がやってきちゃった!
う~~~~。な、何で、突然? も、もしかして、さっき、アリサに、裸で抱き着いたりしたから? あ、あの時は、だって、そ、そんな気分になっちゃったんだし、つい……。
いや、でも、いつもと違う。何だか、頭がボ~ッとしている。こんなんじゃ、魔法に集中することができない。
「息を整えないと」
あ、あれ? ダ、ダメだ……い、意識を……失いそう……。し、深呼吸! ふぅ~。あ、危ない! お、落ちちゃうよ、まったく! で、でも、こ、この感覚は、何? 風邪でもひいちゃったのかな? 暑くて仕方ないんだけどっ!
や、やっぱり、頭がぼんやりしてくる……。
クッ! お、おかしいっ!? ま、魔力が……な、流れないっ! 嘘? お、落ちちゃう! ダ、ダメだ……。
一瞬、身体がふわっとした。そして、上昇が止まる。すると、たちまち、落下が始まった!
な、何でっ!!!
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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