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「チッ!」
クータムは、しぶしぶ納得したようだ。
折角、クロック人たちの動きを把握するチャンスなのに、ワニを食べてしまってどうするのよ、まったく!
そうして、ワニ魔獣は、クータムに脅されながら、正直に答えてくれた。
このワニ魔獣は、レピ湖よりもずっと南の、乾燥地帯にあるオアシスに住んでいたようだ。彼らは、もともと、クロック人とは太い繋がりがあるらしい。本来、ワニ魔獣たちは、村を守る存在として、クロック人たちから大切に扱われていたとの事だ。ところが、最近になって、クロック人たちのワニ魔獣に対する見方が一変し、ワニ魔獣は、クロック人に狩られる対象となってしまったらしい。
彼は、言った。
「クシュンッ! ガフガフガフ。ガフガァフガフ。ヘックショイッ! ……」(クシュンッ! デミヒューマンどもは、俺たちを餌付けして、俺も、あいつらに飼い慣らされちまったのさ。まぁ、その方が、飯の心配はいらねぇし、楽でいいけどな。ヘックショイッ!)
「何それっ! プライドとか無いのっ!?」
「ブハックションッ! ガウ~ガウガウガウ~」(ブハックションッ! プライドで飯は食えねぇ)
どうやら、ワニ魔獣たちは、クロック人のペットに成り下がってしまったようだ。
根性無しね。
ワニ魔獣は、続けた。
「……ガフガフ。ガフガフ。ガフガフ。グシュッ!」(……俺たちの仲間は、みんな奴らに捕まっちまった。数は知らねぇけど、まぁ、百頭近くはいるだろぜ。捕まると、みんな、あの変な石を付けられるんだ。それで、奴らが杖を振るうとな、何故か分からんが、母ちゃんを思い出しちまうのさ。顔も見た事ねぇんだけどよ。グシュッ!)
「お母さんを思い出す?」
ワニって、子育てするんだったかな?
どっちにしても、彼らは、子どもが母親の言う事に従うように、クロック人たちに操られていたようだ。しかも百頭近くもいるらしい。
「ワニ君、あんたたち、みんなクロック人に操られてるのよね?」
「ガフガフガフガ~フガ~フガ~フガフ! イ~クシュンッ!」(多分な。まぁ、他の奴らの事は知らねぇ イ~クシュンッ!)
百頭の操られたワニ魔獣か。そんなものが襲ってきたら、レピの町なんて一溜りも無さそうだ。
それにしても、母子の絆を利用するなんて、卑劣過ぎるっ!
そして、ワニ魔獣は、クロック人が狙うのは、人間やデミヒューマンの若い娘ばかりだと言った。
やっぱり、そういうことね。赦せない!
クロック人たちは、やはり、若い女の奴隷狩りを組織的に行なっている。
色々話してくれたワニだけど、彼はこれ以上、何も知らないようだ。
でも、正直に話してくれたわね。
彼には、聞きたいことも聞くことができたし、このまま放してやることにした。クータムは、とても残念だったようだけれど、一応、ワニ魔獣は協力してくれたのだ。但し、この先、クロック人とは関わらないように約束をさせることにした。
「ワニ君。もし、次に会った時、クロック人の手先になっていれば、クータムのご飯になるだけだからね。それと、早く風邪治しなさいよ。どうでもいいんだけど」
「ガフガフガフ~」(花粉症なんだよバカヤロウッ! もう、奴らには関わらねぇ! 命拾いしたぜ、まったく)
ワニ魔獣はそう言って、のっしのっしと巨体を揺らしながら、湿原に消えて行った。
「逃がしてやった割には、最後まで偉そうな態度のワニ魔獣よね……」
「だから、俺が食ってやろうと……」
クータムは無視だ。
「それにしても、この人工魔石は厄介だわ……」
クロック人は、この魔石を使って、自我魔獣を操り、奴隷狩りを行なっている。奴らは、この魔石に、どうやって母親を感じさせるようなエネルギーを転写してるのだろう? いずれにしても、人工魔石の技術は、アトラス共和国が握っているはずだ。クロック人の背後には、アトラス共和国がいるに違いない。
水の精霊のイニシエーションをきっかけに、クロック人に目を付けられて絶滅寸前となったラケルタ人たちと知り合い、そして、アトラス共和国の動きの一端を知ることとなった。ボズウィック男爵の話では、今、この大国がクライナ王国に戦争を仕掛けようとしているらしい。アトラス共和国は、既に、密かに戦争の準備をしているとの事だった。
魔石で操られる狂暴なワニ魔獣。これも、その準備の一環なのかもしれないわ。そう言えば……。
ローズ家事件で、第二王女一行は、普段、自らの縄張りから出ることが無く、ローズ男爵領には生息していないはずのワイバーンに襲われたと言っていた。もう、ここまで来れば、第二王女一行を襲ったワイバーンも、この人工魔石で操られていた可能性が濃厚だ。
そう考えると、やっぱり、今まで起きた色々な事件も……。
イリハの病気に始まり、レピ湖の黒い魔石による魔獣の狂暴化、そして、イグニス山の神池の汚染とローズ男爵領の小麦大飢饉、それに合わせて発生したローズ家事件だ。最初は、点在していた事件が、徐々につながり始めた。その中心にあるのが人工魔石。
やっぱり、アトラス共和国の陰謀なの……?
クライナ王国で繰り広げられている貴族たちの派閥争いは、アトラス派の力がレムリア派を勝り、現在は、アトラス派貴族が幅を利かせている。アトラス派貴族たちは、第一王子や第二王女を標的にして、王宮の弱体化を図ろうとしている向きがある。
それと、もう一つ、気になるのは……。
クライナ王国の森に広がる斑点病も、国の衰退を狙う何者かの仕業である可能性があり、ボズウィック男爵は、それも、アトラス共和国が仕掛けていると睨んでいるようだ。
う〜ん……。
それにしても、クライナ王国内で発生する事件に、これほど人工魔石が関与している事が明らかになると、もはや陰謀ではなく、敵は隠し立てしようとは考えていないのかもしれない。アトラス共和国が、クライナ王国の国力を徐々に削ぎ落とし、タイミングを見計らって攻めてこようとしているとすれば……。
もう、その時期がそこまで迫っている!?
胸騒ぎを感じて、何となく気が焦ってきた。
ローズ事件への対応は、急いだ方が良さそうね。男爵様にも伝えないと。
ワニ魔獣への尋問が終わると、ヴィースは猫族の姉妹を送り届けるために、獣人族の郷へと向かった。ヴィースなら、レピ湖の周辺は庭のようなものだ。そこまで一気に転移し、そこからは、シャルを背中に乗せ、ソマリをお姫様抱っこして空を飛んでいくのだろう。ソマリは移動方法なんて考えてもいないだろうから、きっと、レピ湖からは徒歩で帰ると思っているかもしれない。彼女は、恥ずかしそうにするだろうけれど、ヴィースに抱っこされて空を飛ぶなんて、心がときめかないはずがない。ヴィースだって、猫耳の美少女を腕に抱いて嬉しいに決まっている。
フフフッ。
「ヴィース! ちゃんと、ソマリに優しくしてあげなさいよ」
そう言って、念を押しておいた。ヴィースは何か言いかけていたけれど、どうでもいい。そして、カリスは、ミセリたちを引きつれてレピ湖に戻ることになった。カリスの元で鍛錬を積むラケルタの娘は、ミセリを含め、全部で五人だ。彼女たちだって、力が身につけば自信もつくだろう。カリスは、彼女たちと魔法契約を結んでやるつもりの様だ。もちろん、それでもいいのだけれど、出来れば、もう一つ上を目指してもらいたい。何故なら、彼女たちにはやってもらいたい事があるからだ。
私が彼女たちにお願いしたいのは、クロック人が犯している奴隷狩りの調査だ。彼らの動きを把握し、情報収集をしてもらおうと考えている。とても危険が伴う仕事なので、彼女たちには高い能力が求められるだろう。その事はカリスにも伝えてあるので、カリスの鍛錬も厳しいものとなりそうだ。
「カリス、ミセリたちを頼んだわよ」
「お任せください、エリア様。短期間で成果をお見せいたしましょう」
カリスはそう言って、ミセリたちとともに転移していった。
短期間で成果を出すだって。確かに、悠長にはしていられないけれど、ミセリたち、大丈夫かな?
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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