193-9-20_不審な魔石
「えっ? あぁ、ヴィースは、まぁ、私の眷属だけど、それが……」
途中まで言うと、ヴィースが後ろから会話に割って入ってきた。
「私は、エリア様の、一の眷属にして、エリア様の剣となる者、水竜ヴィシャップである。お前は、エリア様への感謝があるのであれば、エリア様の眷属となり、お前もエリア様に尽くせば良い。そうすれば、私とお前は同胞だ。言葉を交わす機会もあるだろう」
何? 何? ちょっと何言ってんの、ヴィース!? あれ? ソマリが、物凄く真っ赤になって下向いちゃった? 何で?
すると、隣にいたカリスが呆れたように両手を広げた。
「ヴィース、あなた、ホント女の子の気持ちってものが理解出来ないようね。そんな風に、相手の気持ちを見透かしたような言い方なんてしちゃダメに決まってるでしょっ!」
ヴィースは、フンッと鼻を鳴らした。すると、ウィンディーネも会話に入ってきた。
「ヴィース、あなたって、昔から女の気持ちには関心がなかったわね」
ヴィースの眉毛が、ほんの少し上に動く。カリスは、ソマリに向けて言った。
「ソマリちゃん。この男は、こんな言い方しか出来ないんだけど、つまり、ソマリちゃんが同胞になったら、嬉しいって言ってるのよ」
「そ、そうなの?」
ちょっとそれは、ソマリに対するリップサービスが過ぎるんじゃないの?
ソマリは、カリスにそう言われても顔を上げることが出来ないでいる。しかし、ヴィースはいつもの調子だ。
「私は、猫族の女など……そんなものに、興味はないっ!」
ほら、やっぱり! ん? あれ? でも何だか……何となく、ヴィースの反応がいつもと違うような……。
ヴィースは、いつもみたいに腕組みをせず、腰に手を当てている。
さっきのヴィースの言い方、何か含みがあったよね。
すると、カリスがニンマリとしながら言った。
「ソマリちゃん、彼ね、猫耳が大好きなのよ~」
「マ、マジでぇぇぇーーーーつ!?」
ホ、ホント? でも、アムにはそんな反応見せなかったよね。なるほど、猫耳限定か。クフフフッ! いい事聞いちゃった。それで、さっき、ちょっと引っかかるような言い方したんだ。ヴィースったら、ソマリの事、満更でもないんじゃないの?
「ヴィースって、そうだったんだ……」
「か、重ねて申し上げますが、私は、猫族の女などに興味はありません」
「フフフッ、良かったわね、ソマリ! 私はいつでも歓迎するわよ。私たちは、ボズウィック男爵様のところでお世話になっているから、良かったら遊びに来ればいいわ。何なら、迎えに行ってあげるからね」
「い、いえ、私はそんな……で、でも……」
ソマリの耳は、しゅんとなって垂れてしまった。しかし、彼女は、小さな声で「は、はい……」と返事をすると、物言いたげな目で私の顔をチラリと見る。
ん? まだ何かあるのかな?
しかし、彼女は視線を逸らしてしまった。
恥ずかしがり屋さんね。でも、女の子って、こんな状況でも、恋にときめいちゃうのね。可愛いわ!
「それじゃ、クータム、後のことはお願いね」
ヴィースの言葉を遮って、話を先に進める。いつまでも、ヴィースの話で遊んでいられない。すると、クータムがポケットから何かを取り出して近づいてきた。クータムは、いつの間にかレンジャーの姿に戻っている。
「ちょっと、その姿、かさ高いわね」
「へへ。まぁ、姫さんよ、これを見てくれ」
「何?」
彼が手に持っていたのは、オレンジ色をした魔石のような透明の石だ。
「コイツが、ワニコロどもの額に埋め込まれてやがったんだ」
彼はそう言って、三つのアーモンド形をした魔石を差し出した。クータムの手のひらから、一つを取り上げて覗いてみる。
「これは……人工魔石!? これが、ワニ魔獣の額に埋められてあったっていうの?」
「あぁ」
魔石を見つめる。やはり、人工魔石だ。魔力を流して反応を調べてみる。
何これ……?
オレンジの石は魔力を流すと、特定のエネルギーを発信する。それが、どうも不思議だけれど、ドクンドクンという鼓動が聞こえ、そのリズムに合わせて、母親への恋しさが湧きおこってくるような、そんな不思議な魔力が伝わってくる。
何だろう? お母さんを求めてるって感じの魔力だけど……。
ヴィースとカリスにも渡して彼らの意見を聞いてみることにした。
「何でしょう? 我々には馴染みのない魔力が出てきます。しかし、この魔力を受けると、精神の弱いものは、催眠状態になるかもしれません」
ヴィースはそう言って、カリスに石を手渡した。カリスも、自分の魔力を石に流し、その効果を確かめる。
「私も、ヴィースの言った通りのことを感じます。それにこの音ですが……」
カリスは、鼓動のようなリズム音が、母親の鼓動ではないかと言った。
「催眠状態に、母親の鼓動……?」
ソマリも、隣で不思議そうに話を聞いていた。そして、彼女は、まだ幼いシャルなら、その音が母親の鼓動なのかどうか憶えているかもしれないと言った。シャルは、ソマリにそう言われて、魔石を手に取るとそれを耳に当てた。シャルの持っている魔石に指先を当て、小さな魔力を流す。すると……。
「これ、お母さんだよ。お母さんのお腹の中の音みたい」
「お腹の中?」
そうか。これは、母親の子宮の内部の音だ。そうすると、魔石から出力される母親を恋しくなるようなエネルギーは、母親の母胎から引き放された時に子どもが感じる感情のエネルギーかもしれない。
でも、何でそんなエネルギーを出す魔石が、魔獣の額に……。
その時、ラケルタの若い戦士の男がやってきて、一本の背丈ほどある杖を差し出した。
「め、女神様、クロック人はこの杖を使って、魔獣どもを操っておりました」
「この杖で……」
その杖は、簡素な棒の先に透明の人工魔石がはめ込まれている。そして、その透明の魔石を眺めてみると、この魔石にも何かの術式が転写されていた。
これは、あの魔石と同じだ。レピ湖の浜で黒い魔石を浄化した後の透明の魔石。あの石には、魔力を流すと効果を発動させるような術式を転写できるような魔石だった。
「そういう事かっ!」
クロック人は、この魔石と杖を使って魔獣の額にあるオレンジ色の魔石を反応させ、魔獣に、そのオレンジ色の魔石から発せられるエネルギーを流し込んで催眠状態にしていたようだ。つまり、無意識のような状態にしておいて、杖から魔力を流し、命令を伝える。そんな仕組みかもしれない。それにしても、このオレンジの魔石から流れる母親が恋しくなるようなエネルギーには、母親への執着を強める効果があるようだ。無理やり母親から引き離された子どもが、母親を追い求め過ぎて、精神のバランスまで崩してしまうような、そんなネガティブなもの。
この魔石が、あまり印象の良くないものに思えるのは、そのせいね。それに、人工魔石なら、アトラス共和国よね……。
「それでヨ……」
クータムが話を続けた。彼は、ワニ魔獣の内、一体はまだ息があり、今、彼が捉えているという。
「……どうする? 見てみるか? いらないんなら食っちまいたいんだがヨ。ヘヘヘッ」
「食べないで、見せなさいよ!」
「チッ、分かった」
そうして、洞窟の外で、ワニ魔獣を見ることにした。
洞窟の外に出ると、まだ太陽は高い位置にある。湿原の風は緩やかで髪の間をすり抜けるように優しく吹いていた。両手で髪を透きながら、深呼吸をする。
スゥ~、ハァ~! やっぱり、外の方がいいわね。
クータムは、オオサンショウウオに変化すると、大口を開け、ゲロリとワニ魔獣を吐き出した。
うぇっ! グロい!
吐き出されたワニ魔獣は、体長が十メートルを超えるような大型のワニだ。
「こんなの丸呑みにしてたんだ? ホント、何でも食べるのね」
クータムは、また、レンジャースタイルに変化すると、ワニ魔獣の頭を足で小突きワニを起こそうとした。すると、ワニ魔獣は目を覚ましたようだ。目を見たところ、このワニ魔獣は自我を持っていそうである。
その時、ワニ魔獣が起き上がろうとした!
「大人しくしやがれ、ワニコロっ!」
クータムがそう言って、ワニの頭を素手で殴る!
「ガフッ!」
「ちょっと、ワニ君、あなたは自我があるわね?」
すると、ワニ魔獣が反応した。
「ガフ? ガフガフガーフ! ヘックショイッ!」
やっぱりだ。このワニは自我を持っている。ワニは、「何だ、人間のメスか? 痩せてやがるな。食っちまうぞ! ヘックショイッ!」と言った。すると、クータムが、また、ワニの頭を殴る。
「ガフッ! ガフガフ? ガフッ! ヘ、ヘックショイッ!」(痛っ! な、何すんだ? クソッ。化け物め! ヘ、ヘックショイッ!)
「てめぇ、自分が何をしようとしたのか分かってやがるのかヨ」
「ガフ? ガフガフガフッ! クシュンッ!」(お、俺? いや、何も知らねぇ。俺様は、餌があると言われて来ただけだ。あんまり憶えてねぇ! クシュンッ!)
「こいつ、食っていいか?」
クータムがワニ魔獣を指さしてそう言った。
「まだ、食べちゃダメよ!」
あ、まだ、って言っちゃった。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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