192-9-19_ソマリの気持ち
隣のシャルが、ニッコリ笑って、ラーシャに声をかけた。
「天邪鬼ちゃんからラーシャちゃんになったんだね。ラーシャちゃん、もう一回、友達になろうよ!」
シャルがそう言うと、ラーシャは、無表情のまま、シャルと手を繋いだ。ラーシャは、感情が顔に出ないけど、嬉しいのだと思う。
それにしても、雷神かぁ。いつか会えるかな?
これで、ようやく天邪鬼の事、じゃなくて雷神の子、ラーシャとシャルの問題が片付いた。後は、ラケルタ人たちのことだけど、とりあえず、ラケルタ人の守護精霊は精霊化したクータムという事で進めればいい。最初のプランから言えば、ラケルタ人の守護精霊はラーシャだったんだけど、雷神から、ラーシャの事を託されてしまったし、ラーシャは、私と一緒に行動したほうがいいでしょ。
そして、クータムを呼んだ。
「クータム、あなた、精霊になったんだから、みんなの守護精霊になる契約を結びなさいよ」
「そうだな。ヘヘッ」
クータムは、そう言って、みんなの前に出た。
「契約するなら、この姿は、そぐわねぇ」
彼は、そう言って、姿を変えた。クータムの身体が縮んでいく!
嘘でしょ!?
「クータム? な、何、その姿っ?」
「子どもになっちゃったわね。しかも、セレブっぼい雰囲気だわ」
ウィンディーネが無表情な顔で言った。彼女の言うように、クータムは、五歳くらいの上品そうな男の子になった。彼の髪は茶色で肩まで伸び、色白で二重瞼の可愛い顔をしている。服装は、茶色でシャキッとした子ども用のジャケットを羽織り、半ズボンにこげ茶色のハイソックスと同じ色目の革靴だ。
ホントにセレブだ! 何でっ!?
あのクータムからは、全く想像が付かない姿に、言葉が出てこない。すると、男の子が話した。
「ねえねえ、エリア様! この人たちとキスをすればいいの? 食べちゃダメなんでしょ?」
あっ! この話し方……ワームの精霊だ。そう言えば、念話した時、小さな男の子が話してきたんだった……。
「た、食べちゃダメよ、クータムっ! 優しくね、優しくキスするだけよ」
「は~い。分かりましたっ!」
少年クータムは、ラケルタ人の中に分け入り、次々にキスをしていった。ラケルタ人たちは、あっけにとられながらも、見た目の印象から、特に怖がっている様子もなく、キスを受け入れた。
これで、彼らも、ある程度の力を付けるでしょう。
すると、彼らは、身体をぼんやりと金色に輝かせ、そして、皮膚の色がメタリックな黄色に変わっていく。
これは……。
ラケルタ人だった時のクータムの皮膚の色だ。
という事は、彼らは、力を取り戻せたってこと?
「クータム、みんなはどうなったの?」
「魔法が使えるようになったんだよ。酸の初級魔法ね。それと、身体も丈夫になったよ。ぼくのお陰だね」
「そ、そうね、ご苦労様」
酸?
クータムは、そういう系統なんだ。
「でもね、ミセリたちが、キスは貰えないって言うんだ」
「そうなの?」
それを聞いて、ミセリたちが座っているところに行くと、彼女たちは、正座をしたまま、うつ向いている。
「ミセリ? どうしたの?」
「エ、エリア様……私たちは……力を得る資格が……ありません……」
う〜ん、どうしようかな? ミセリたち、変に筋を通そうとするよね。
まぁ、彼女の気持ちも分からないでもない。ミセリは、ワーム精霊との融合に怖気づいてしまったために、その機会を逃したのだ。ラケルタの人たちを、種族の血を捨ててでも自分たちが守るという決心も、自らの恐怖心を前に、崩れてしまった。
自分たちのけじめをつけようとしているのね。そんなことしても、誰も喜ばないんだけど……。
「ミセリ。それなら、あなたたちは、この先、どうやって生きていくつもり?」
彼女たちは、自分たちがクロック人の奴隷になることを拒み、真っ先に声を上げた。みんなが諦めていた中で。だから、私も、力になろうと考えたんだ。
「私たちは……ここで……」
「ここで?」
「……」
ミセリは言葉に詰まってしまった。
彼女たちは、弱い……。でも、それは仕方ない。守護精霊を失ったのは彼女たちの責任ではないのだから。それに、確かに、最初は、新しい守護精霊を天邪鬼でって言っちゃったからね。
変に期待を持たせちゃった私も悪い……か。それなら。
カリスを呼んだ。
「ねぇ、カリス。この子たちをあなたの配下にできないかしら?」
「はい。仰せのままに。もちろん、彼女たち次第ですが」
「当然よね」
そして、改めてミセリに言った。
「あなたたち、ここで生きていくなんて、まるで、他のみんなに守ってくださいって言っているのと同じでしょ? 自分の力で生きていかないとダメじゃないの? クータムの配下が嫌ならそれでもいいけど、まずは、力を身に着けなさい。カリスの元でなら、あなたたちも心身を鍛えなおすことができるでしょう」
「よ、よろしいのでしょうか?」
ミセリは、力なくそう言った。
「元気を出しなさい、ミセリ。あなたは、若い子たちを引っ張って行こうと頑張ったわ。それは認めているの。だから、力を付けて、出来れば、私の力にもなって欲しい」
「エリア様……」
ミセリは、自信を失っている様だ。
「カリス? どうかな?」
そう言って、カリスにバトンタッチした。すると、カリスは、ミセリたちを前に話をした。
「ミセリ。そしてラケルタの娘たち。エリア様は、あなたたちの命をお救いになられた。その上、これからの生きていく術までも、エリア様はお与えになろうとされている。これ以上、エリア様のお慈悲を無駄にするのなら、私は、あなたたちを赦さない。今すぐ、返事をしなさい。私の元で鍛錬し、力を身に付けるか、それとも、レピ湖の人食いガニの餌になるか」
カ、カリス……。レピ湖に人食いガニなんて、いないでしょ?
ちょっと、脅しが、いまいち効いていないようだけど、姉御肌のカリスらしい。彼女なら、とても面倒見がいいから、きっと、ミセリたちも大丈夫だ。
ミセリたちは、お互いに目を見て意思を確認し合うと、その場で頭を床に付け、五人揃って返事をした。
「エリア様、カリス様、よろしくお願いします!」
「エリア様、カリス様、よろしくお願いします!」
「エリア様、カリス様、よろしくお願いします!」
「エリア様、カリス様、よろしくお願いします!」
「エリア様、カリス様、よろしくお願いします!」
「よろしい」
カリスは、腰に手を当てて頷いた。彼女は、ミセリたちに、弟子を見るような優しい目を向けながら、もう既に、師匠然としているようだ。
今度こそ、頑張って欲しいわね。
そうして、ミセリたちは、レピ湖の湖畔に移住し、カリスに付いて、日々鍛錬に励むことになった。カリスは、彼女たちの努力次第で、魔法契約を結んでもいいと約束をしていた。彼女たちが、もし、そこまで頑張るのなら、私だって、この子たちにご褒美をあげよう。
さあ、これで、ラケルタ人の事も何とかなった。ここの事はクータムに任せて置けば安心ね。後は、シャルとソマリを郷に返すだけだ。
「ヴィース。シャルとソマリを、この子たちの郷まで送ってあげて欲しいんだけど?」
ソマリが、ハッ! となって私を見る。
「承知いたしました」
ヴィースは、腕組みをしたまま返事をした。彼は、ソマリの側まで行くと、彼女の首元を確認した。
「顎を上げよ」
ヴィースがソマリにそう言って、彼女の首を手で確かめる。
「は、はい……」
「ヴィース、何してんの?」
「この者に、隷属魔法の残滓が無いか見るのです」
「なるほど。触らないと分かんないんだ」
「はい。これが確実な方法です」
「ふ〜ん」
ん?
しかし、何だかソマリは、やけに恥ずかしそうだ。ヴィースにそう言われても、なかなか、顎を上げようとしない。
心なしか、少し、顔も赤らんでいる?
ヴィースがソマリの目を見ているけれど、ソマリは視線を下げている。
あらら。フフッ、ソマリったら。やっぱ女の子ね。
でも、今のソマリの感情は、妹に大変な事が起きたばかりで、まだ平静を取り戻していないと思う。彼女にすれば、妹の命が危うくなったと思ったら、精霊の力を得て回復し、今度は、それが暴走して、今やっと、何とか元に戻った。もしかすると、姉としての責任も感じているかもしれない。ソマリは、気が張り詰めていたのだ。そして、ようやく気を抜ける状態になったその時に、目の前に、超イケメンが現れてしまった。
心が弱っている時だから、そう言うこともあるよね。でも、ヴィースは、いつものように、冷たい言い方をするだろうね、ホントに。まぁ、そんな事は、当事者同士の問題だから、放っておけばいいか。
ソマリは、恥ずかしそうにしながらも、目を閉じて、唇を少し開けたまま顎を上げた。ヴィースは、淡々と作業をするように、彼女の首筋に触れた。
その時。
「はうっ」
ソマリが、思わず小さな声をもらしてしまった。しかし、ヴィースは、そんな彼女の反応には目もくれない。その後、ソマリは落ち着きがなく、モジモジとし始めた。それに、一瞬、私の方を見て、また、視線を逸らしたりしている。
何か、私に聞きたいことでもあるの?
そんな気がしたので、ソマリに声をかけた。
「ソマリ、どうしたの?」
「あ、あの……」
ソマリは、うつ向いたまま言った。
「……エ、エリア様とヴィース様は、どういうご関係なのですか?」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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