181-9-8_天邪鬼の献身
シャルは、左腕の肘から先を失っていた! ラケルタ人の女性二人とソマリは、意識が無く反応を全く示さないシャルに懸命に応急手当をしている。しかし、床には、シャルが流したおびただしい血の跡がある。
「僕に診せてっ!」
彼女たちの間に割って入る。三人の女性は驚いた表情を見せたけれどすぐに場所を譲ってくれた。そして、天邪鬼もすぐ隣に座った。
「シャル?」
顔に血の気がなく意識も無い!
息はどうだっ!?
シャルの口元に耳を当てた。
ダメだ、息もしてい無いっ! クソっ!
しかし、突然、言葉が思いつく。
”出血性ショック”
え? 出血性ショック?
頭の中で反芻し、彼女の表情を確認する。シャルの顔色は血の気が失せて真っ白だ。ラケルタ人の女性たちは、何とか止血しようとシャルの左腕に白い布を巻いていたけれど、布は血が滲んでべっとり赤く濡れており、出血が止まっている様子はない。
ダメだ、血が流れ過ぎてるっ!
手を翳して、シャルの身体に微力の魔力を流す。すると、各所の臓器が機能不全を起こし、魔力の反応がとても弱いと分かった!
ヤバいっ!
このままだと魔力が消滅して、魂が身体を離れてしまうっ! もう、今にもそうなりそうだ。考えている暇もない。
もう女神の祝福しかない! 間に合えっ!
すかさず、シャルにキスをしようとした。しかし、その時!
「わっ! 天邪鬼っ!?」
天邪鬼が一瞬早く割って入り、シャルに覆いかぶさって彼女にキスをした。
なっ!?
天邪鬼の意図が掴めなかったけれど、次の瞬間には、天邪鬼がシャルに精霊のエネルギーを流し始めた事を理解した! ハッ! っと我に返り、改めてシャルの身体に手を翳す。天邪鬼の魔力がシャルの身体の中に浸透していき、シャルの魔力が回復し始める。しかし、臓器の機能不全はそのままだ。
ところが……。
「ちょっと、天邪鬼!?」
天邪鬼の身体が、段々、透き通ってきている!
えっ!?
次の瞬間、天邪鬼はキラキラと光に粒に変わり、最後は……消えてしまった……。
「な、何したんだ? 天邪鬼っ?」
その時、突然、念話が響く。
「ちょっと! ぼぉ~っとしてるんじゃないわよっ! 早く、猫娘にキスしなさいよっ!」
ウィンディーネ?
念話で話す。
「どういう事!? シャルが持ち直したようだけど、どうなってるんだよ? 天邪鬼が消えちゃったよ?」
「いいから、早く! 今、この精霊が猫娘に憑依して、この子の魂を引き留めてるのよ。今すぐこの子たちを融合させないと、いつまでももたないわよっ!」
「ちょ、ちょっと待って? でも、天邪鬼は……?」
「この精霊が決めたことよ。でも、さっきはあなたのキスじゃ間に合わなかったと思うわ! こうでもしなかったら、猫娘の命が尽きちゃってたし、こうすることがこの精霊の望みでもあるんだからっ! ほらっ! 早くしないと、この歪な状態は、いつまでも持たないわよ!」
ウィンディーネは、迷いなくそう言った。しかし、そうは言っても、天邪鬼の存在はどうなるんだ? 女神の祝福をすれば、二人とも人格まで融合してしまうんじゃ?
でも……。
「わ、分かった」
後のことは、その時考えるしかない。ソマリに説明する暇も無いけれど、彼女もきっと分かってくれるはずだ。
「天邪鬼っ! シャルをお願いっ!」
彼女に覆いかぶさり、その唇に自分の唇を重ねた。それと同時に右手をシャルの身体に翳しながらモニタリングを行う。そして、女神エネルギーをシャルの身体に流し込む。
シャル、頑張って!
彼女の肩から左腕へとエネルギーを集中させる。すると、たちまちのうちに、骨や神経が伸びていき、血管や筋肉、皮膚が再生していく。止まっていた心臓が、ゆっくりと鼓動し始め盛り返してくる。 思いの外回復が早い!
そして、左腕が元に戻った。
よしっ!
次は、機能不全を起こしている各所の器官だ。それらがどんどん修復されて行く。造血が促進され損傷していたその他の細胞も、生まれ変わっていく。驚くほどの回復力だ!
流石は天邪鬼、いや、雨と雷の精霊だ。それに、シャルの守護精霊の加護も働いている。そうでなければこれほど危険な状態から脱する事はできなかったはずだ。ウィンディーネが言ったとおり、僕では間に合わなかったと思う。もちらん、加護の権能を引き出すことが出来たなら問題もないのだろうけど、僕にはまだまだ経験が少な過ぎて、加護を十分使いこなせていないんだろう。それを分かっていてウィンディーネも僕にあんな風に言ってくれたんだ。
そんな事を考えながらシャルの回復を続ける。
もう少し……。
シャルの顔色が赤らんで来た。血の気が戻り肌の明るさが戻り始める。
ふぅ〜、何とか、間に合ったかな。
すると、その時、念話が聞こえてきた。
「もう、大丈夫みたいよ」
ウィンディーネ……。
彼女の言った通り、シャルの鼓動が元気に脈打ち始めた。
そっと、唇を離す。
「よし、これで心配ない」
身体を起こすと、周囲のみんなが言葉を失ってシャルに集中していた。そこにいる全員に見守られながら、シャルは眠リ始めた。そして、血液で汚れたシャルの身体と服を、洗濯魔法で綺麗にしてあげた。
「これでいいかな。ん? あっ!?」
突然、横になっているシャルの胸から、青白い光が放ち始めるっ!
「もしかして!? 進化?」
これまでの進化と同じ反応だ。ソマリが心配そうにシャルに手を伸ばそうとしたけれど、光が強くなり、その手を止めた。シャルの手当をしていたラケルタ人の女性たちは、驚きのあまり少し後ずさりして僕の背中に隠れるように身体を小さくする。シャルの光は彼女を包み込み、しばらく光り続けた後、シャルの胸の中に浸透していった。誰も言葉を口にせず辺りは静かに時間が流れる。どうやら進化が終わったようだ。
「ん?」
側にいたソマリが、身体を寄せてくっ付いてきた。そして、彼女は、驚いたように手を口に当てた。
「か、髪が……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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