176-9-3_秘奥義
突然、アクアディアさんが話を振ってきた。
「どんなって……」
何だろう? 水に記録された記憶でしょ? 川に手を浸せば、そこに住む生き物の気持ちが分かるとか?
「違います」
考えを読まれてしまった。
「ご、ごめんなさい」
シリアスに言われちゃった。ふざけた訳じゃないんだけど、でも、やっぱり、思いつかない。
彼女が腕を組んだ。
「それもできるかもしれないけど、あなたにとって重要なのは、人間の営みでしょ?」
あっ、そうね。魚の気持ちを分かったところで、魚釣りに役立つくらいだもんね。
「魚釣りはお好きですか?」
「いえ、やったことないけど……」
ん? また、考えを読まれた。
「あっ!? わ、分かった。分かりましたっ! もしかして、他人の記憶を読み解けるとか? でしょ?」
「気が付いてくれて良かったわ」
アクアディアさんは、やれやれと言った雰囲気で、苦笑いをした。
「まずは、その仕組みなんだけと、有機体は、呼気によって水分を周囲に拡散しているでしょ。それ以外にも、汗や排泄物、髪の毛や皮脂の欠片なんかもね。つまり、身体の周りには、その有機体の記憶が、水の分子とともに漏れ出ているということよ。それを、読み解く。そういう能力ってわけなのよ……」
身体の周りに、記憶を……?
水はたくさんの情報を記憶できるって教えてもらったばかりだ。それに、ここに来てから、アクアディアさん、私の考えを先読みしていたし、今だってそうだった。
なるほど。そういう事だったんだ!
「……つまり、この能力を前にしては、誰も嘘など吐くことができないの」
アクアディアさんは、揺るぎのない眼差しでそう言った。
マジで!? 他人の記憶が、全部、分かったゃうんだ! それって、凄くない?
私には、相手の目を見て記憶を読み解く能力があるけれど、あれは万能ではない。相手と目を合わせなければならないし、しかも、相手が考えていることしか読み取れない。でも、水の精霊の秘奥義は、相手の状況に左右されないし、確実で相手に気付かれない。しかも、精度が桁違いすぎる。
息をしない生物なんて、いないもんね。
彼女は、シリアスな雰囲気を崩さずに話を続けた。
「エリアさん。あなたは、このイニシエーションを通じて、あなたがこの世界においてどういった存在なのか、気付きがあったと思います」
「私が何者であるかの気付き? ですか……?」
彼女が言おうとしているのは、きっと、このことだと思う。
「隷属の女神……の事?」
「その通りよ。この秘奥義は、この先、エリアさんにとっては必要な力なの。この際、いい機会だから、私が話せる範囲で、隷属の女神についても話しておくわね……」
アクアディアさんは、優しく話を続けるけれど、私に対して、責任の自覚を促しているような言い回しをする。
「……隷属の女神とは、女神ガイアの力を、枷と共にその肉体に顕現させた者の事。もちろんそれは、女神ガイアの英知である女神の祝福加護を持つ者のことね。そして、その加護持ちは、古代から現在に至るまで、このガイア世界に何度か転生してきたわ……」
「それは聞きました、今でも逸話が残ってるって……」
「その通りよ。これまでの転生者たちは大きな志を持って、今のエリアさんと同じようにトラウマと向き合うとしたの。でも、誰も、それを成し遂げる事が出来なかったわ。でもね、彼女たちが冒険の途中に各地で成した奇跡の数々は、一部の地域にその伝承が残っている。まぁ、その殆どは、彼女たちの恩恵とさえ思われず、現代の世となっては、当たり前すぎて感謝さえされていない偉業も多いんだけどね」
過去の転生者が行ったものには、小さな事では、枯れることのない井戸や、砂漠の町にあるオアシス。その他にも、農地の開墾や険しい山を貫く街道の開通の他、悪組織の殲滅や覇権国家から小国を守ったりなど、後に形として残りにくいものもたくさんあったそうだ。
アクアディアさんは、そう言った上で、これまでの転生者が、その目的を達成できなかった理由を言った。
「……これまでの転生者たちは、加護を持っているが故に背負う宿命に耐えられなかったのです。その挙句、最後には、女神の祝福加護を失うことになってしまったという訳なの」
「えっ? 加護を失うだなんて……そんなの……」
それって、なんだか、切なくなるんだけど……。
きっと、彼女たちは、今の私のように、あまり選択肢がない中で転生してきたのだと思う。それなのに、最後は、女神に見放されるみたいにして消えて行ったということだ。
ちょっと、あんまりな気がする……。
「それは違います」
「えっ? 違うの?」
また、アクアディアさんに気持ちを読まれた。
「ええ。エリアさん、あなたも同じだけど、転生は自己責任です。そして、女神の祝福加護を手放すことも、自らの選択よ。そうすることで宿命からも解放される。これまでの転生者たちは、この世界で、愛するパートナーと出会い、普通の人間として生きるために、自ら、加護を捨て、宿命から逃れることが出来たのです」
そうだったんだ……。それなら、少しは救われたってことかな。
これまでの転生者だって、きっと、最後までやり遂げようとしていたはずだ。でも、愛するパートナーができたのなら、そういう選択もありなのかも……。
好きな人と、同じ時間を生きていく。それはそれで、素敵なことだ。それにしても、パートナーが出来たとは言え、加護を捨ててまでして逃れたいって、どんな宿命なんだろう?
「それは、あなたが、これからの人生の中で理解していかなければなりません……」
また、先に言われちゃった。
「……ただ、私が言えることは、宿命と向き合うためには、感情に翻弄されない強い意志が必要ってことよ」
アクアディアさんは、一旦、外の景色を見ると、私の目を真っすぐに見つめて言った。
「あなたには、是非、宿命と向き合って欲しい……」
そして、彼女は、視線を下に落として、呟くように言った。
「……まだ……苦しんでいるから……」
「苦しんでいる……?」
「ごめんなさいね。これ以上、加護持ちに課せられた宿命について話すことは、承認されていないわ……」
そう言って、彼女は、宿命の話を一方的に中断した。
宿命の話、すごく気になるんだけど……。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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