173-8-40_四大元素、水の精霊(挿絵あり)
目の前の女性は、私と会話をしやすいように擬人化されている。私が、いつか会ってみたい女神ガイアは、きっと、私のような小さな存在が認識出来ないほど大きなエネルギーだと思う。だから、その眷属である水の精霊のありのままのエネルギーにも触れておきたいっ! 水の精霊の大きさを、直接、感じたいっ! そう思っていたから。
「み、水の精霊様のお姿は……」
「分かっていますよ。フフッ。エリアさんは、好奇心が旺盛で感心いたします。よろしいでしょう。それなら、四大元素の精霊がどれ程の存在なのか、その深淵を少しお見せいたしましょう」
水の精霊はそう言って、右手の掌を上に向けて、自らの口元に添えると、スゥーッと息を吹き出した。その息は虹色に光るミストになると、たちまち、辺りを包み込んだ……。
んん?
あれっ!?
私、どうしちゃったんだろう? 今、息を吹きかけられたと思ったんだけど……。
真っ白い霧の中にいる。一瞬、意識が飛んだようだ。すると、頭に声が響く。
「女神ガイアの子……エリア・ヴェネティカ・ガイアよ……」
あ、また、あの声だ……。
男とも女ともつかない声音。禊の池で聞こえた声と同じだ。
「水の心を持つ、そなたへの労いだ。受け取るが良い」
その声がそう言った途端、一瞬、目の前が真っ暗になり、そして、突然、壮大な光景が広がった。
す、凄いっ!
視界が一杯になるほど巨大な星……。
なんて……綺麗……これは……地球……いえ、ガイアね……。
深い青色の広々とした大洋。
そこに、大きな大陸が一つ、そして、その脇の方に、中くらいの大陸がもう一つ。大陸の面積は、海の広さからするととても小さい。百分の一もないくらいだ。すると、突然、視界が急降下し、猛スピードでどんどんどんどん降りていく!
うわぁーっ!
そして、大海原目掛けて突っ込んで行ったっ!
キャァー、海に落ちちゃうっ!
しかし、視界は、海に落ちる寸前で止まった。
あー、驚いた。
海の上には、三メートルほどの波が立っている。潮の匂いだ。日差しも暑い。
でも、風が気持ちいいっ!
そうすると、その風に運ばれて、また、上空に舞い上がる。
鳥になったみたいだわっ!
風は、そのまま大陸に向かって吹いて行くと、大きな山脈にぶつかり、雲となった。雲は雨を降らし、水は、地面に落ちて土に染み込んで、あるいは、小川となってまとまっていく。そして、小川は森を通り、林を抜けると大きな川になって、湖に辿り着いた。
明るい光と透明な水を湛える湖。
あっ、湖の存在たちだ。
大きな首長竜。砂地にはカニの群れ。
魚も一杯いる! レピ湖かなぁ?
視界が湖底に到着すると、今度は、砂粒が拡大されて、その隙間に入って行く。
砂の中に浸透してるんだわ。
視界は、砂粒の間から柔らかそうな土を通り、堅い岩盤の隙間を抜けた。そして、青白く光る空洞に出ると、岩肌を伝って尖った岩の先端に到達した。
光ってる! 綺麗……。
眩しい光のほんの僅かな隙間から、生まれたままの姿の美しい少女が掲げる杯が見える。
あっ、あれは……私?
そして、そのまま、光の雫になって、杯の中へと落ちる。しかし、次の瞬間、視界は、真っ赤に染まった。
これは……?
周囲には細い血管がひしめき合って、ドクドクと鼓動が響いている。温かく湿ったその場所は、とても安心する場所だ。それがどこだかすぐに分かった。
……私の……子宮だ。
身体を意識した瞬間、さっきの感覚が、また甦ろうとする。
わっ! ダメっ!
咄嗟に気持ちを切り替えた。
ふぅ〜。危なかった。
すると、視界は、電気のスパークの様な光になり、それが、背骨の神経を上っていく様子が映し出され、さらに、頭部へと到達し、頭全体で弾けるように煌めいた。
あ〜、これだ。私が感じたもの……。
また、水の精霊の声が聞こえてきた。
「……水の循環は、生き物の生命力を支えている。それは、ガイアの活動の一部。四大元素の精霊が女神ガイアの眷属である所以である……。我、水の精霊は、ガイアとともにあり続ける……」
「……」
言葉が出てこない。星の規模の存在。あまりにも、大きくて……。
人間って、小さい。
こんな精霊がその気になれば、人間など、簡単に滅びてしまう。それなのに、水の精霊は、擬人化した小さな意識になってでも、私の様な者を通して、人間に関わろうとしてくれている……。
「ガイアの思し召しである……」
水の精霊は、そう言った。
女神ガイアの意図……。
これほど、恐怖と不安で歪んだ社会であっても、人間を見捨てないのね……。
気が付くと、周囲が明るくなっていた。どうやら、ガゼボに戻ったようだ。
涙が一筋、頬を伝って落ちる。
あれ……? 私、泣いてたんだ……。
頬の涙を指で拭い、指先に涙の粒を乗せた。それをまじまじと見る。
これも、水だ……。
私の中に、確かに循環している。
胸の真ん中が温かい。肩を抱いて、その温かさを味わった。
水って、こんなにも私の一部になっている……。
その時、目の前から声がした。
「お帰りなさい。エリアさん」
ーーーー
あれ……? 私、泣いてたんだ……。
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