162-8-29_エトワルム
しかし、その時、僅かに風がそよぐ。
……?
そして、周囲に明るさを感じた。
「……何?」
グスッ。
鼻をすすりながら辺りに意識を向ける。すると、上空から、緑色の光の粒が身体に降り注ぐ。
「こ、これは……汚れを取る魔法……」
誰が魔法を……?
この魔法は私のよりも繊細で、頭の上に小さなシャボン玉が現れ、それが下がりながら、服や髪、身体の汚れも全て吸い取っていく。それとともに、ミストで肌に潤いも与えられる。爽やかなハーブの香りも混ざっていて、その上、浄化とヒーリングまでも付与されていた。着ているワンピースは真っ新になっており、肌がしっとりとしてお風呂上がりのようないい香りを放ち、髪の毛も、サラサラとした美しさを取り戻していた。
き、気持ちいい……。
悲しかった気分が和らいでいき、そのうち、心のどこを探しても見当たらないほど、明るい気持ちに心がほっこりと満たされていく。
こんな風にすればいいんだ。本当にお風呂に入った時みたいっ。凄いっ!
そして、魔法で綺麗になる間に、円形の暗い空洞だった空間が、まるで、ドーム型映画館の場面が切り替わるように、光に満たされた深い緑の森に切り替わった。さらに、爽やかな風が吹き込んで、森の香りまで漂いはじめた。
池の水は、いつの間にか清浄な水に変わっていて、周囲は、陽光が降り注ぐ森の中の泉に変わっていた!
「ど、どうなっちゃったの?」
思わず呟く。すると、その呟きに返事が返ってきた!
「浄化ですよぉ」
「えっ?」
驚いて、振り返る。すると、そこには、一人の少女が立っていた。
「おめでとうございますぅ。女神様!」
彼女の声は、少し高音で清々しい水のように爽やかだ。耳にも心地いい。よく見ると、その女の子は、緑色で背中まである長い髪をしており、瞳も美しい緑色をしている。彼女は、ニッコリと笑いながら、手を後ろに組んで、柔らかな森の風に髪をなびかせていた。彼女の年齢はアムと同じくらいで幼く見える。そして、その少女はゆったりとした薄緑のノースリーブワンピースを着ていて、足元は素足で何も履いていない。
「ど、どういうことなの?」
見知らぬ少女にそう尋ねると、彼女は、優しい笑顔を向けて、今の出来事を説明してくれた。
「さっきも言いましたよぉ~。水ってぇ、人間たちの感情も、取り込んで流すのですよぉ。それでぇ、森の樹木や動物や虫たちやぁ、細菌などの小さな生き物までぇ、自然の存在たちがそれらを浄化しているので~すぅ。でもぉ……」
でも、あまりにも人間社会での負の感情が高まっていたために、自然の浄化作用が追い付かなくなってしまっていたらしい。
そうなんだ……。
「じゃぁ、さっきの女の子、それに、あの……」
「さっきの子たちならぁ、大丈夫ですよぉ~。私も、あんなに熱烈なキスをいただいちゃってぇ……」
少女は、自分の唇に人差し指を当てて、ニッコリと笑った。
「えっ? あなただったの?」
「そうですぅ~。私は、浄化をつかさどる精霊……エトワルムですよぉ~。エトって、呼んでくださ~い」
明るく話すエト。しかし、さっきは、間違いなく悲しかった。暗い中で、二体のワームも、彼女も、みんな泣いていた。私も泣いた。どうしてあんな感情になってしまったのか、良く分からない。
「さっきは、あんなに悲しかったのに、本当にもう、大丈夫なの?」
「もう、平気で~すぅ。女神様のパワーたくさんいただきましたからぁ~。あの子たちも、元気になってぇ~。ほら~っ!」
そう言って、エトは森を差した。
すると、森の方から吹いてくる風に腐葉土のような湿気を含んだ匂いが混ざり、その匂いを通して、何故だか虫たちが元気に活動している事が読み取れた。
「本当! みんな元気」
「さっきはぁ……あんなに優しく受け止めてもらえたからぁ……みんな、泣いちゃったんで~すぅ」
エトはそう言って、恥ずかしそうにはにかんだ。
「私だって、泣いちゃった。ハハハッ」
「そうですよぉ~。フフフッ」
エトと二人で、笑い合った。エトワルムは、水の精霊の眷属であるらしい。水の精霊が、清浄な水のある所に同時に存在するように、彼女も、豊かな森の土の中に同時に存在する精霊だという。
「さっきぃ、素敵なキスをいただきましたけどぉ、私はぁ、女神様の眷属にはならないタイプの精霊なので~すぅ。でもぉ、あの子たちはぁ、女神様の力になりますよぉ~……」
エトは、自らの力の一部であるワームの妖精たちが、女神の絆加護を与えられたので、いつでも召喚できるし、人間の魂とも融合できると言った。
「でもぉ、気を付けてくださいねぇ~。あの子たちぃ、お腹が減っちゃうとぉ、何でも食べちゃいま~すぅ! 特にぃ、怖がってるとぉ、餌と思っちゃうんで~すぅ!」
「そ、そうなのね。呼び出しちゃうと、結構、スプラッターなことになりそうね。ハハハ」
と言う事は、さっきは、たまたま負の感情が凝縮されたヘドロの池だったし、怖がらなかったから良かったものの、そうじゃなかったら、私、食べられてたかも……。
怖っ!
でも、ワームの妖精かぁ。そんなのと融合したら、どうなっちゃうんだろ? 何でも食べちゃう怪物になっちゃうんじゃない?
「フフフッ」
エトは、軽やかに微笑んだ。
その笑顔、ちょっと怖い……。
「わ、分かったわ。それなら、お楽しみって言うことね」
つい、お楽しみって言っちゃった。自分が言った事だけど、突っ込まずにはいられない。
スプラッター映画は趣味じゃ無いんだけど……。
「先を急がれるのでしょうぉ? お行きくださ~い。水たまりの磐座はぁ、あの森の中で~すぅ」
エトは、池の中にせり上がった飛び石の道を示した。
「ありがとう、エト。また会える?」
「フフッ、もちろんで~すぅ。女神様ぁ~。森で、湿った土の匂いがするとぉ、私がいますよぉ~」
「わかったわ。きっと会いに行くわね。それから、私の事は、エリアって呼んでね」
「は~い。エリア様ぁ。では~」
彼女は、そう言うと、キラキラと緑色の光になって消えていった。
「フフッ、行っちゃった。でも、また、会えるわ。エト」
なんだか、気持ちもスッキリね。
考えれば大変だったけど、水の心のことを思い出せたことで、上手くいった。
まだまだ知らないことばかりだわ。とは言え、いよいよ水たまりの磐座が近いし、頑張らないと!
森の先の方に視線を向けた。
「あの奥へ進めばいいんだわ」
そして、池の中からせり上がった道を渡り、森の中に入って行った。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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