161-8-28_孤独な者たち
どうして?
イメージを読み取ろうとしても、読み取れない。しかし、この生き物は、確かに……泣いていた。
何が、悲しいんだろう?
「どうしたの?」
返事はない。でも、感情だけは伝わってくる。
何だか、私まで、悲しくなってきちゃったよ……ううっ……何……この感情?
この子たちは、こんな酷い場所で生きている。さっき、彼は、ここが楽園だと言ったけれど、あれは、強がりで言ったのだと思う。こんなに負の感情であふれた中で、誰にも知られずに、ひたすら浄化のためにヘドロを食べ続けるなんて。
「そんなの悲しすぎるよ……うううっ」
ワームに近寄って、大きな口に手を添えた。
「な、何やってるんだ、お前っ!」
よく……分からないけど……ううっ……今、とっても……この子に、キスしてあげたい……ううっ……。
「頑張ったよね……ううっ……」
私が……知ってるから……。
「やめろっ!」
しかし、ワームはじっとしている。そして、唇をそっと近づけた……。
「やめろって言ってるだろっ!」
「チュッ」
大きな口の下側に、しばらくの間、唇を押し付ける。やっぱり、この子は悲しんで泣いている。
寂しいの?
でも、少し、違う気がした。
何かを憂いて、泣いているんだ……。
食べても食べても、終わらない。増え続ける欲の、そして、その欲の犠牲になった者の悲しい負の感情。
辛かったよね……うううっ……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……ううっ。
しかしその時、それまで唇に感じていた感触が、突然、フッと消えた。添えていた手からも、触っていた感覚が空になってしまった。
「えっ!?」
目を開けると、目の前には、キラキラと光の粒が煌めいている。緑色で透明感のある美しい光だ。そして、その光は静かに……消滅した。さらに、後ろにいたもう一体も、同様に光になって、消えて行った……。
「ど、どうしちゃったのよ? ううっ……き、綺麗……行っちゃったけど……」
泣きたい。今は、泣きたくてたまらない。
何でよ? 何で、行っちゃったのよ?
「ううっ……」
ただ、ワームたちの光は、何故だか、微笑んだようにも思えた。
ううっ……グスッ……。
何だか、寂しい。けど、前に進まないと。まだ、彼がそこにいるから……。
うううっ……。
泣きながら、足を進める。池の中の陸地に到着すると、池床も浅くなっていて、陸地によじ登ることができた。
「うっ……ううっ……」
涙が、止まらない。
陸の上には、彼が、膝を抱えて蹲っていた。彼の元に這い寄る。
「あなたも……ずっと、ずっと……一人だったんでしょ?……ううっ」
「うるさい……」
彼は、自分の膝に顔を埋めたまま、泣いている。近くに寄って彼の肩を抱いた。
ううっ……でも、何だか、柔らかい身体だ……。
「ごめんなさい……」
「謝るなっ! ううっ」
涙が、溢れてくる……。
「うううっ……もう、大丈夫だから……」
「あっちに行けっ!」
ううっ……抱きしめてあげたい……ううっ……。
「ね、ねぇ……顔を見せてよ……ううっ……」
彼の頬に手を添えて、その顔を上に向けた。彼は、抵抗することもなく、潤んだ目で見上げている。
キスしてあげよう……。
あどけない表情だ。
あれ? そうだったのね。
まつ毛が長い。そして、純粋な瞳……。
「とっても綺麗……あなた……女の子だったんだ……」
彼女は、そっと、目を閉じた。艶のあるピンク色の唇が少し開いていて、赤ちゃんが乳首を求める時のように、瑞々しい舌が覗いている。
フフフッ。可愛い……。
彼女の唇を包むように、唇を重ねた。柔らかな唇。
ここで、ずっと、一人で、生きてきたんだ……辛かったね。
彼女が腕を回してきた。
優しい子……だから……アリサがしてくれたように……カリスがしてくれたように……ククリナがしてくれたように、この子にしてあげよう……。
唇から唇へ、口から口へ、そして、その奥へと、お互いに気持ちを確かめながら……。すると、うっとりとして、心に、優しい気持ちが溢れてきた。
私のこの気持ち、この子に伝わって欲しい……。
そして、彼女も、受け入れてくれた。
ありがとう……。
ずいぶん長いキスをした。心が満たされて、そっと、彼女から離れる。彼女も、そっと、腕を離した。でも、もう一度、抱きしめる。
「もう、一人じゃないよ」
「うううっ……うううっ……うううっ……」
彼女は泣きながら、何度も頷いた。
あなたのこと……忘れない……。
ところが、突然っ!
えっ!? またっ!?
彼女が……消えてしまった……。
腕の内側から、光の粒があふれ出し、空中へと拡散していく。それまで、そこにあった彼女の身体が、喪失感だけを残して消え去った。さっきと同じ、緑の光が煌めく。
「何でよ……ううっ、また、いなくなった……」
どこへ行っちゃったの? あんなに寂しそうにしてたのに……。
彼女を抱いていた腕を見つめる。
「寂しいよ……」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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