160-8-27_浄化の妖精たち
この男は、私を早く帰らせたいようだ。でも、そんな事言われても帰るわけがない。
「どうやったらクリアできるのよ?」
「馬鹿じゃないのか? 俺が教える訳ないだろ! 第一、お前のようなひ弱な女に出来る訳が無いんだよ。折角だからいいこと教えてやるよ。お前の前に来た奴な、もう、ずいぶん前だけど、吐き溜めをぶっかけてやったら、泣いて逃げて行ったよ。ハッハッハッ! お前にも食らわせてやろうか?」
ホント、よくしゃべる。私に早く行けと言いながら、ここがどういう所なのか教えようとする。もしかしたら、本当は、私に話を聞いて欲しいんじゃないのかな? 生意気な話し方も、私の気を引きたいからに違いないわ。声だって幼い気がする。
「なるほど、そういう事ね」
ようやく、このイニシエーションの意図が分かってきた。アクアディアさんの話と、湿原での出来事。それに、ここ。全部繋がっている気がする。
確か、アクアディアさんは、私の転生の意味を、水の心で俯瞰しなさいって言っていた。最初は、とても抽象的だなぁって思っていたけれど、水の心という言い方に、何となく引っかかっていた。
今、やっと、思い出した!
あれは、確か、小学校の時だったかな? 水をテーマにした詩を教わったんだ……。
水は、つかむのではなくて、掬うもの。指を閉じて両手を合わせ、包み込んで掬わないとダメなんだって、そんな感じの詩だった。
掬うと救う。
全てを包み込む。それが、水の心。そして、私の転生した大きな意味は、この世界の救済。
それなら、今、私がやらなきゃいけない事は……。
「よいしょっと」
立ち上がる。
「ほらほら、脱落女神のお帰りだ~」
まだ、言ってるわ。
右足を、一歩前に出す。次に、左足も。さらに、右。また、左……。そして、池の縁に立った。そこで腰を下ろす。
「な、何やってるんだ? 早く帰れよっ!」
「うるさいわねっ! ちょっと、黙ってなさい」
ゆっくりと、池に降りる。まずは、右足から……。
ドロッとしてヘドロのような水だ。
うう~~~っ。気持ち悪い。
次に、左足……。なんとか入れた。
問題は、この次よ。
池の深さが分からない。もしかすると、足が着かないかもしれない。後ろ向きになり、腕で身体を支え、池の淵の岩をずりながら降りる。
ゆっくりよ……。
「何する気だっ!」
「今から、そっちに行くわ」
「来れる訳ないっ!」
彼は、様子を見ている。
良かった、足は着くようだ。池の深さは何とか胸の辺りで助かった。しかし、着ているものが上に浮いて、ドロの中ではお腹が丸出しになり、ドロの風呂に入っている気分だ。髪の毛もドロに浸かって、とても気持ちが悪い。
心が折れそう……。頑張れるかな? 匂いも、正直、キツイ。本当に、こんなことする必要があるのだろうか……?
でも、もう、ここまですれば同じだ。やり通すしかない。心のままに!
そして見上げる。私を見下ろしている異様な生き物を……。
「ハハハッ! 馬鹿め! こうしてやるっ!」
男の言葉に従う様に、その生き物は池に潜ると、再び立ち上がり、口の中から池の水を吐き出したっ!
「うっ」
臭い! 少し、口に入った。うへっ! 吐き出したいっ! でも、ダメだ! このワームたちは、これを食べて浄化している。ここで、吐いてしまったらそれで終わりよ! 彼は、私を試してるんだからっ! でも、飲み込むの? これ?
……。
そうっ! お腹が壊れたって、やるっ! 全部、受け入れないと意味がないのよっ!
意を決した!
きっと、大丈夫。身体は丈夫なんだから。
気合を入れて飲み込んだっ!
うへぇ~~~〜。ゴックン! う〜〜〜、身体が震えそう〜〜〜。でも、よしっ!
「チッ! そんなもの、恰好だけだっ! ほらほらほらっ!」
二体の生き物がとっかえひっかえ池に潜り、頭の上からドロっとした黒いヘドロ浴びせかけてくる。髪も顔も、ヘドロに埋もれた。でも、息継ぎは出来ている。
負けないわっ!
「右足を一歩。そう、次に左足も一歩。そうよ」
また、浴びせられる。でも、止まらない。
ヘドロの水は、粘性があって、進むのにかなり力もいる。池の床を探りながら進まないと、身体が浮いて、顔まで浸かってしまいそうだ。
ゆっくりよ。少しづつね。
池の深さが顎のところまできた。
ダメなら泳げばいいっ!
すると、生き物の一体が目の前に回り込み、大口を開いた。
来るっ!?
真っすぐ向いて、目だけを閉じた。そして、息を止める……。
ん?
少し間が空いた。
あれ?
いつまでたってもヘドロの水が掛けられない。そして、そっと目を開けた。しかし、その生き物は、そのままそこにいる。
何かするの? いや、そうじゃないみたい。
じっと、生き物を観察する。
この子、私のこと見てる? 何か調べられているんだろうか?
分からない。ただ、生き物は、じっと、こちらを見つめている……。
んんっ? あっ!
その時、何処が目玉なのか分からないのに、何となく、目が合った気がした。
やっぱり、私の事見てたのね。でも、何だかこの子……。
「泣いてるの……?」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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