015-1-15_内覧
檻の隙間らか入り口の方を覗き見る。
お〜、早速、ぞろぞろと人がやってきたぞ。僕は子どもだし、ろくに仕事もできないから、実際、購入希望者なんてないだろうけどね……ま、その方がいい。とにかく、客の奴らを無視してやり過ごそう。
逃げるのは、夜になってからだな……。
しばらくして五人の集団が檻の前にやってきた。奴隷商の案内役に続いて、顎髭を伸ばし、豪奢な服を着た貴族風の年配男とその使用人らしき風貌の中年の男。そして、太って目をギラギラ輝かしながらふんぞり返っている男と、それに付き従っている執事風の老人だ。
案内役が後ろの人物たちに向かって、「こちらでございます」と指さして言った。すると、貴族風の男が、顎髭に手をやりながら僕の檻を覗き込んだ。
キモっ! うへぇ~、鳥肌が立っちゃったよ。品定めをされる視線って、ねっとりして、身体にまとわりつく感じがするよ〜。
「おいガキ! 旦那衆がお越しになったんだ、愛想良くせんかっ!」
案内役の男が杖をちらつかせてそう言った。
毛布にくるまり目を閉じる。
する訳ないだろ!
「まぁ良い。うむ、なかなかの容姿をしておるな。どこの出身だ?」
貴族風の男が案内約に尋ねた。
「へいへい、髪の色や目の色からすると、神龍山塊周辺かと」
何だそれ? こいつ、適当なこと言って、レア感煽って値を吊り上げようって算段だな。
「ふむふむ、なるほど、以前聞いたことがあるが、神龍に使えるという銀色の髪をした古い部族の話を思い出すのう」
このおっさんも適当な事言って、話を合わせてるのか?
すると、後ろから太った男が会話に加わってきた。
「私も聞いたことがありますぞ、閣下。確か悪魔の子孫と噂された呪われし部族、竜族と言いましたかな?」
何? 竜族だって?
「まぁ、それはそれとして、この娘は美形であるし髪色も独特ですな。将来はさぞかし美しい女になりましょうぞ。色々と仕込めば、高貴なお方からでも身受けしていただけそうですな」
「そうじゃのう、しかし、奴隷は奴隷ゆえ、成長を期待して元を入れるのもどうかと思うのぉ。容姿の優れた歳頃の娘は他にも沢山おるだろう。それに、ワシがゆっくりと愛でるにしても、まだ少し早いようじゃ。パスじゃな。ワッハッハッー」
ムカッ! 何言ってるんだこいつらっ!
貴族風の男が言葉を続ける。
「それにしても、奴隷の子にしては利発そうじゃのう。実際、此奴の歳は幾つだ?」
「七歳にございます。ご購入されるのでしたら拾いものでございますよ。この歳であれば、読み書き算術もすぐに覚えるでしょう」
案内役は揉み手をしながらそう答えた。すると、太った男がまたしゃしゃり出てくると、案内役に向かって言った。
「読み書き算術などどうでもよい。娘奴隷など、健康で愛らしい容姿であればそれでよいのじゃ」
クゥ〜〜〜ッ! 気持ち悪いんだよっ!
背中を向ける。
早く行っちゃえって!
太った男の言葉に、貴族男が反応する。
「ジャブロク殿、玩具は、利口であるほど遊ぶときには興がわく顔をする。そう思わんかね?」
貴族親父、マジ趣味悪っ!
「いやはや、さすが閣下はご見識が高いお方。参りますわい」
何の見識だよっ! 最悪だなお前らっ! こんな奴らに買われていった日にゃ人生終わりだぞっ!
どうやら、一行は立ち去る様子だ。
「あれは何んという名の奴隷であったか、算術のよくできるおとなしい娘でな。しかし、遊ぶ時には怯えた良い表情をする玩具であった。まぁ、歳がいったので手放したがな」
「ほう、それはまた良い玩具だったのでしょうな」
「また、ああいう玩具を見つけたいのう。ワッハッハッハー」
変態貴族とジャブロクは、会話しながらゆっくりと歩いて行った。
やっと行きやがった。二度と来るんじゃないっての! う〜む、それにしても、さっきの司祭の女の子、こいつらに買われちゃうんじゃないか?
しばらくすると、また、客がやってきた。
次は父子だよ。息子も結構歳がいってるな。何しに来たんだよっ、まったく!
父親は背が低く細身で、少し腰も曲がっていた。上下ベージュの作業着を着ており、手は大きく黒づんだ爪をしている。息子も、父親と同じような作業着を着ており、ツバのある黒い帽子を被って、手には軍手を履いていた。 二人とも真っ黒に日焼けしている。
二人は、檻の前に一旦立ち止まったが、父親の方は興味なさそうに隣に移ろうとした。しかし、息子は、そのまま立ったまま僕を見ている。
何見てんのさっ! そうやって見られると背筋が寒くなるんだよっ!
息子があまりにもじっと見るので、布にくるまって寝転び横を向いた。すると、息子がとんでもないことを言う。
「この奴隷、おいらの嫁に育てたい。フェッ! フェッ! フェッ!」
キモッ! 何、変な笑い方してるんだっ! 僕が嫁になるわけないだろっ! 僕を見て、嫁とか口にするんじゃないっ! 僕だって結婚したこと無いんだぞっ、まったく!
息子の言葉を聞いた父親が引き返して、僕を見る。そして、父親は、息子に言った。
「べっぴんな娘っ子じゃけんども、おめえの嫁にはできんよ、この娘は。フォッ!、フォッ!、フォッ!」
「父ちゃん、何でおいらの嫁にできねぇんだ? フェッ! フェッ! フェッ!」
息子がそう言うと、父親は、掌をダメダメと煽って言った。
「こんな別嬪じゃぁ、おめえが畑仕事を放りだして、この娘の尻ばっかり追いかけるじゃろ? フォッ!、フォッ!、フォッ! まぁ、この奴隷は、きっと高くて手が出んわ。フォッ!、フォッ!、フォッ!」
くぅ~っ、親父の方まで変な笑い方だ。気持ち悪いっての!
父親にそう言われても、息子は、まだこっちを見ている。
早くどっか行っちゃえばいいのにっ!
しかし、父子は檻の前で会話しながら、まだ隣に移ろうとしない。
あ〜、嫌だ嫌だ。早く抜け出さないと、いつまでもこんなことしてらんないよ。
周囲では、どの檻の前にも、人が集っている。会場は、多くの内覧者たちでざわついた雰囲気になっていた。
しかし、その時……。
埃っぽい空気に打ち水をするように、入口の方向から、コツン、コツン、と靴音が響いてきた。
何だ? やけに耳に残る靴音だな……。




