158-8-25_精霊 ”天邪鬼”(挿絵あり)
指笛が高らかに響く! その音は、真っすぐに遠くの空へとかき消えて行った。しばらくすると、同じような指笛が遠くの方で鳴った!
「返事が来た!」
かすかな音だけれど、間違いない。そして、次の瞬間!
「あっ! 天邪鬼!」
「呼ばれてない。呼ばれた」
彼女は、一瞬でやってきた。
「今の転移?」
「そう、転移」
「転移じゃないのね」
それなら天邪鬼は、どうやって移動したんだろう? まぁ、どうだっていいか。
天邪鬼は、キョトンとした顔をしている。真っ白の髪に赤い目、可愛い角も生えている。
やっぱり、キュートで可愛いよね。
しかし、天邪鬼は、物質的な存在感が薄い気がする。どちらかと言えば、自然に近い存在だろう。
「ねぇ、天邪鬼、お願いがあるんだけど……」
天邪鬼に一通り説明を終えると、彼女が首を傾げて聞いてきた。
「精霊様、赦さない。赦す?」
「そうね。今から、私が聞いてくるから、ここで待っててほしいの。それでね、ワニの奴らがやってきたら、この人たちを守ってくれるかな?」
「そんなの嫌」
「ありがとう、天邪鬼!」
そう言って、彼女を抱き上げて頬にキスをした。天邪鬼は、無表情のままキスしたところを指でなぞると、その指を口に入れて舐めた。
これって、どういう反応なの?
天邪鬼をそっと地面に降ろす。今のやり取りを間近で見ていたシャルが聞いてきた。
「この子、嫌って言ってたよ」
「そうなのよ。嫌って言ったら、いいってことなの。面白いでしょ?」
そう言うと、シャルが満面の笑顔になって、天邪鬼の両手を取った。
「ねぇねぇ、天邪鬼ちゃん、私、シャルって言うの。猫族よ。友達になってくれない?」
すると、天邪鬼が無表情で答えた。
「友達? 嫌。でも、いい。そんなのいらない。でも、欲しい。精霊様、赦す? 赦さない?」
「……? 天邪鬼ちゃんなんて言ったの?」
シャルは、振り返ってそう聞いた。
「天邪鬼はね、水の精霊様の赦しがあれば、友達になってくれると思うわよ」
「ホント!? じゃぁ、水の精霊様に赦してもらえるまで、少しだけお友達になってもいい?」
ん? なるほど。仮のお友達ね。
天邪鬼は、シャルにそう言われて、キョトンとしていたけれど、コクリと頷いた。
「ヤッターッ!」
シャルが大喜びで言った。早速、二人は、半分だけの友達になったようだ。シャルは、「女神様のおねぇちゃん、早く戻ってきてね」と言って、天邪鬼と手を繋ぐとを、そのまま、彼女を洞窟の中へと引っ張って行った。
さあ、出発しよう。
イニシエーションをクリアして、早いこと戻ってこないといけない。
洞窟の入り口では、ウェンネと若いラケルタ人の女の子たちや、クータム、それにラケルタの戦士たちが集まっていた。私を見送りにきてくれたようだ。
「おい、マグナスはどうした?」
クータムが、隣の男に聞いた。
「さっきから、姿を見てませんけどね」
「なんだ、マグナスに、一言、詫びを入れさせようと思ったんだけどヨ、いねぇのか。しゃぁねぇ奴だぜ、まったく」
クータムはそう言うと、頭を掻きながら詫びた。
「すまねぇ、女神さんよ。マグナスは、その、あんたのことを、その、なんだ……」
「私の事を、慰み物にしようと言ったことよね」
「ああ。ホントに、すまねぇ。奴には、俺から強く言っとくからよ」
彼は、申し訳なさそうに言った。
「そうね。彼に言っといてくれる……」
アリサやセシリカのことが頭をよぎる。
「……私とは、二度と会わないように祈っておきなさい。もし、会えば、それは、彼の命が無くなる時だから」
クータムは、目を見て、「分かった」と返事をした。少し、その場の空気に緊張が走ってしまったかもしれない。でも、ホントにそう感じているから口にしたまでだ。
「じゃ行ってくるわ。カメさんお願い!」
そして、ラケルタ人たちは、見えなくなるまで深く腰を曲げていた。
ーーーー。
ようやく、イニシエーションに戻ることができた。とは言え、まだまだ何があるか分からない。それに、どこに向かっているのかさえ知らないのだ。
そう言えば、カメにも聞いて無かったね。
「ねぇ、この先、どっちへ進んで行くの?」
すると、カメが答えてくれた。
「ガウガウガウッ」(もうそこだ)
「そうなの?」
しかし、周囲を見渡しても、相変わらず湿原が広がっているだけで、景色に変化は無い。
「ガウ。ガウガウ、ガウッ」(ほら、着いたぞ)
「えっ? どこ?」
何にもない。
「ちょっと! まだ、湿原の真っ只中でしょ?」
「ガウッ!」(それだ!)
カメは、大きな頭の鼻先で、ひょいっと左手の方角を差した。
ん? えっ!? 何それ?
「ガウガウ。ガウウッ」(入口だ。早く行け)
遠くばかり見ていたので、足元には注意を払っていなかったけれど、カメの差したところには、直径一メートル程の小さな水たまりがある。
「水たまりでしょ、コレ?」
「ガウガウガウ、ガウッガウッ!」(めんどくさい奴だな。今日は、それが入口だ。早く行け!)
「今日は、って何よ?」
「ガウガウ、ガ~ウッ!」(じゃあな、ほぉ~らよっ!)
カメは、突然、身体を傾けた。
「ちょ、ちょっと、落ちるって! やだっ! 嘘? キャッ! わっ、冷たっ! えっ? マジ? マジでぇ~~~~~~~~っ!?」
ーーーー
水たまりでしょ、コレ?
AI生成画像
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