156-8-23_一族の行く末(挿絵あり)
彼らは、希望のない目をしながら顔を上げた。
「私がどう動くかは、私が決めるわよ」
諦めモードのラケルタ人なんて、後回し。それより……。
「さっきね、ソマリとシャルの話を聞いて、少し、気になることがあったんだけど……」
ソマリの話では、彼女たちが人間に攫われて、その人間は、奴隷商ではなく、クロック人にこの子たちを売ったと言った。ということは、レピ湖で魔石を捨てる作業をしていた人間たちは、クロック人が若い娘の奴隷を欲しがっていることを知っていたのだろう。ソマリたちを攫った人間たちは、黒い魔石に関わっている者たち、つまり、アトラス派の息がかかった者たちの可能性が高い。そうすると、アトラス派の関係者とクロック人には繋がりがあると考えることが出来る。
もし、そうだとすると……。
「……ウェンネさん、クロック人って、どんな奴らなの?」
ウェンネが答えた。
「え〜、はい。クロック人の奴らは、種族の数こそ、ワシらラケルタ人よりも少ないのじゃが、爬虫類種族の中では、一番、力が強うて攻撃的じゃ。それに奴らには、イルルとかいう頭がおってのぅ、種族の結束も強い。関わると厄介なことに巻き込まれると分かっておったんじゃが……」
「なるほどね」
やはり、クロック人の動きは組織的なようだ。それなら、彼らは、種族全体で奴隷狩りをしている可能性がある。つまり、どこかの組織が、若い女奴隷を大量に欲しがっていて、それをクロック人たちが請け負っているって事だ。そんな大規模に若い女奴隷を欲しがるというのは、やはり国家レベルの組織だろう。
状況的に見てアトラス共和国しかなさそうね……。
こんなところでも、アトラス派にアトラス共和国だ。それに、奴隷狩りも……。これは、とんでもなく大きな問題かもしれない。
ムゥッ! 女の子たちを苦しめる元凶共めっ! これは、何とかしないといけないわ。
黙り込んで考えていると、ウェンネが話しかけてきた。
「それで、隷属の女神様。ワシらはどうなりますかのぅ?」
「え? あ、そうね……」
今、クロック人の奴隷狩りをどうしようかと考えていたところだ。ラケルタ人たちをどうするかなんて……。
ん? 待てよ……。そうだ! いいこと思い付いた!
「ところで、ウェンネさん。ラケルタ人はあなたたちだけではないのよね?」
「もちろんじゃ。ワシらラケルタ人は、爬虫類種族の中でも、力が弱い分、多産型でのぅ。数も一番多いんじゃ。この世界の水辺には、何かしらの同類がおるでのぅ。まぁ、ワシらカナヘビ族くらいじゃよ、絶滅しかけておるのはな」
「そうなんだ……」
なるほどなるほど、ラケルタ人が世界中にいるのなら、尚のこと好都合ね。
「……それなら、どうしてあなたたちだけ、数が減っちゃったんだろうね?」
ウェンネは、手振りを交えて説明した。
「ワシらも、昔は、今よりずっと数が多かったんじゃ。しかしのぅ、さっきも言ったが、クロック人の頭に、イルルとかいう奴が治まってからというもの、奴らは縄張りを拡げておる。ワシらも、レピ湖の近くでおるときは良かったんじゃが、奴らに追われ追われて、この様じゃ。ここの湿原は、人目ものぅて静かなんじゃが、獲物が少のぅてな。子を産もうにも産めんという訳じゃ。しかし、ここも、奴らに目を付けられてしもうた。もう行くとこが無いのぅ」
ウェンネはそう言って、肩を落とした。ここのラケルタ人は、例えこの場所を死守できたとしても、数が増やせないんじゃ、もう、ジリ貧状態だ。
そういう事ね。それなら、話に乗ってくるかもしれない。
「ねぇ、ウェンネさん。いい提案があるんだけど」
「提案? でございますか?」
ウェンネは、要領を得ないような顔をした。
「ええ、そうよ。あなたたちにとっても、とてもいい話よ……」
そう言って、提案内容を、彼らに一から説明した。すると、彼ら一同が驚きの声を上げた!
「え~~~~~~っ!」
「え~~~~~~っ!」
「え~~~~~~っ!」
「え~~~~~~っ!」
「す、少し、お待ちくだされ。そのような事!」
ウェンネは、落ち着きなく両腕をフラフラと動かして狼狽えた。
「嫌なの?」
しかし、彼女は、また床にひれ伏した。
「め、滅相も、ございませぬっ!」
「ヘヘヘッ」
クータム以外、改めて、みんなその場にひれ伏した。
フフンッ! どうよ、私のアイデアっ!
彼らの手応えのいい雰囲気に気分が前のめりになって思わず足を組み替えた。うっかりワンピの中が見えちゃったかも知れないけど、まぁ、いいか。
そして、ニンマリと笑う。
「どう、いい話でしょ? 私の眷属になるって事」
思い付きにしてはいい考えだと思う。ここのラケルタ人たちを、このまま放っておけば、それこそ、この湿原がクロック人の巣窟になってしまうだろう。そうなれば、今よりもっと、奴隷狩りが横行してしまう。ここからはレピ湖が近いそうだし、湖の周辺も危険に晒されて、子どもたちも安心して外に出られなくなりそうだ。そうならないためにも、彼らに力を与えて、このレガリ湿原をクロック人から守ってもらうのだ。それに、上手くいけば、彼らの種族ネットワークを活用し、クロック人の動きを把握できるかもしれない。幸い、彼らに反論も無さそうだ。
「それなら、話は早い方がいいわね……」
彼らはデミヒューマンだ。獣人族もそうだけれど、先祖から精霊とのつながりがあり、種族毎、精霊と契約をしている。セイシェル王女やピュリス、それに、サリィの例があるように、もともと精霊や妖精とのつながりがあれば、女神の祝福を行うことで、人族の強化が可能となる。種族の守護精霊の力を借りるので、精霊化まで出来るかどうか分からないけれど、魔法くらいは使えるようになるだろうし、少なくとも、今よりもずっと強靭な肉体になるはずだ。但し、懸念があるとすれば、彼らの守護精霊は、一体、どんな精霊なのかということだ。彼らの話を聞いていると、ラケルタ人の中でも彼らは最弱で、この人たちの守護精霊は、それほど、強力な精霊でも無い気がする。
どちらかと言えば、繁殖力が強化されるとか、かもね……。
「ウェンネさん、さっきも言った通り、これから行う眷属契約の儀式は、族長であるあなたが、あなたたちの守護精霊の一部と融合することになるんだけど、あなたたちの守護精霊はどんな精霊様なんだろう?」
「え? ええ、そうですな。そ、その……」
ウェンネが動揺している。
「……れ、隷属の女神様。ワ、ワシらは……〇×■▽×〇……」
彼女は、口の中で、もごもごと何かを言った。
「何? 聞こえないんだけど?」
「つ、つ、つ……」
ウェンネのじれったい態度にイラッとする!
何よ、私の考えが気に食わないって事ないよね!
思わず大声を出してしまった!
「はっきり、言いなさいっ!」
「追放されたのじゃっ!」
「はぁ?」
「だ、だからのぅ。追放じゃ。ワシらの一族は、ラケルタの種族長から追放されたのじゃ!」
「何言ってんの? どういう事? ちゃんと説明しなさいよっ!」
「す、すまんのぅ。か、隠しておったわけじゃないんじゃが、まさか、こんな展開になるとはのぅ……」
「あなたの展開予想なんてどうでもいいわ。早く、説明しなさいっ!」
イライラするんだけど……。私って、怒りっぽい性格だったっけ?
すると、クータムが愛想笑いをして言った。
「ヘッヘッヘッ! 女神さんヨ、そう怒りなさんなって。俺が、説明してやるからヨ。この婆さんはな、何十年か前にヨ、種族長の婆さんとつまらねぇことで喧嘩しちまってヨ、俺たちゃぁ、種族を破門されちまったのヨ。ヘヘッ。それでヨ、守護精霊との契約も取り上げられたって訳よ。喧嘩なんてするもんじゃねぇぜ、まったく。ヘッヘッヘッヘッ」
「あんたがそれ言う?」
ホント、呆れたもんだ。何だかバカバカしくなってきちゃった。何か、さっきから変な態度だと思ってたのよね。最初に説明したときも、何だか煮え切らなかった感じだったし。う〜ん。色々考えて、この人達にも良かれと思って、いい事思いついたと思ったのに。私、何してるんだろう? イニシエーションに戻ろうかな。
浅いため息を一つ吐いて、斜め上を向いた。
「はぁ~」
もういいか……。
ソマリとシャルが心配そうに見ている。
やっぱり、この子たちだけ連れて、先に進もう。
そう考えて組んでいた腕を下ろした時、集団の中ほどにいたラケルタ人の若い女の子が立ち上がった!
「お、お願いでございます。隷属の女神様! 何卒、何卒、わたくしたちに、お、お慈悲を」
すると、その横に座っていた女の子も立ち上がる!
「ううっ。め、女神様……。お、お願いでございます……ううっ」
彼女は、もう半泣き状態だ。さらに、後ろの方からも、若い女の子のラケルタ人が立ち上がった。
「うううっ……うううっ……め、女神様……ううっ」
この子は、既に泣いている。
あー、悲壮感漂ってるわ~~~。まったく!
どこの世界も同じだ。頑固な年寄りが、いつまでも組織の行く末を決める立場にいると、若い世代の芽を摘んでしまう。
そりゃぁね、経験者の意見っていうのも必要な時あるんだろうけどね。何が原因か分からないけど、種族長と仲違いしたのはこのお婆さんだ。きっと、年寄り同士、お互いに譲らなかったのね。
どうしようかなぁ~~~。
若い女の子たちのことを考えちゃうと、何とかしてあげたくなるんだけど、精霊がいないなら、この人たちの強化ができない。だから、どこかから精霊を連れてこないといけないことになる。
明日、クロック人がやってくるんでしょ? 今から、精霊探しなんてやってたら間に合いそうにないし……。やっぱり、私が戦う? それも違うよね。当てがあるとするなら……。
あれか。
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どう、いい話でしょ?
AI生成画像
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