141-8-8_月下美人の花雫
「よろしい。では始めましょう。エリアさん、下着以外、今、着ているものを全部脱いで、これを飲んでください」
彼女に言われ、服を脱ぐ。まずは、もこもこのセーターを脱いでブラウスも脱いだ。そして、ミニスカートを下ろし上の肌着を取る。黒いハイソックスは、どういう訳かここに来るときに履いていなかった。脱いだものを胸に寄せる。肉体は十八歳とは言え、見た目が子どもだけにそこまで気にしなくてもと思うのだけど、中味が大人だから人前では恥ずかしい。
「まぁ、可愛いショーツ。地球のデザインのようね」
「そ、そうなんです。サリィに作ってもらったんです」
そう言って、アクアディアからカクテルグラスを受け取った。これを飲み干すと、また、僕は成長した身体になり、女の子の気持ちになるんだね。
あの意識は、もしかすると、エリアに近いのかもしれない。それは、もちろん僕自身であり、別人格に取って代わるようなものでは無い。でも、この間、一旦、成長してから元の身体に戻ったときには、心にぽっかり穴が開いたようになっちゃった。それで、しばらくの間、喪失感に襲われてしまったんだ。その時の感情が甦る。
また、あの気持ちになれる……。少しでも、エリアを感じたい。
グラスを傾け、一気に飲み干した。月下美人の花雫はピンク色をしている。しかし、無味無臭だ。すると……。
き、来たっ! 身体が……胸の真ん中が熱いっ!
そして、つま先から、ゾワゾワとする感覚が頭に向かって走り抜けたっ!
い、意識が、持っていかれそう……。
胸の熱さが全身へと広がると、身体がポカポカとして温かくなる。すると、胸のあたりが、青白く光りだした!
あぁ、これだ……この……安心感……。
光は全身を覆い、その光に包まれた感覚になり、とても、リラックスしてくる。
そのまま眠ってしまいそう……。気持ち良くて、何もしたくない。ん? 誰かに……身体を触られたような……。
どうやら、ソファに寝かされたようだ。
でも、今は、なされるがまま、何も気にならない……。
しばらくすると、ようやく、感覚が戻ってきた。そして、目を開ける。すると、やはり、ソファに横になっており、身体に白い布を掛けられていた。
少し、頭が冴えてきたかな。それにしても、初めて成長した体になった時よりも、あの安心感に包まれる感覚が、強くなっている気がするんだけど……。
掌を確認する。身体は確かに成長していた。しかし、心の方はどうだろう?
今度は、自問する。
僕は……エリア。水沢和生の記憶は……残ってる。でも……それは……もう、ずいぶん、昔の事のよう……。
前の時と同じだ。胸に手を当てて、目を閉じた。胸の中に光をイメージして、それを抱きしめるように包む。
また……会えた……。
ん? 会えた? 誰に? でも、会えたって言葉が、しっくりと腑に落ちる。僕の中の……何だろう……エリアの気配……かな?
そして、やはり、お腹の下がジンジンと熱い。
ふぅ~。気持ちを逸らさないと。
「お目覚めかしら」
アクアディアさんが微笑んでいる。
「本当に可愛い女の子だわね。でも、エリアさん。この状態になる時は、どなたか信頼のおける人を側に置いておく方がいいわ。そうでないと、あまりにも無防備ですよ」
「はい。気を付けます」
確かにそうかも。
彼女に返事をして、布を引き寄せ上体を起こした。
「ん? これ?」
服?
手繰り寄せた布は、ただの布ではなく、白いワンピースの様だ。
「まさか、裸では恥ずかしいでしょう?」
「あ、ありがとう」
胸を隠しながら、服を広げてみる。麻の様な生地だ。サラサラとして、手触りもいい。袖は、どうやら七部袖で、袖口はフリルの様にひらひらとしだデザインになっている。
これ、いいかも。
襟は丸襟で胸のところに十センチ程の切れ目が入り、襟から胸のところまで、生地の端には赤い糸でステッチが入っていた。
凄く可愛い、これっ!
「気分はいかがですか?」
彼女が尋ねた。
「えっ? まぁ、気分はとても良くって……大丈夫だと思います」
彼女に、ニッコリと笑ってみせた。
でも、少し、呼吸が荒くなっちゃってるかな?
その様子を見て、彼女が心配したようだ。
「ちょっと、無理しているようね。中止してもいいのよ」
「いいえ、やりたい、やらせて欲しい!」
この感覚にも慣れないといけないし、それに、ここまで来て、止めるなんて出来る訳がない。行けるところまで行ってみる!
「わかりました。では、その服を着て下さい。扉の前まで行きましょう」
そう言って、アクアディアさんが手を差し出した。彼女の手を取り、ソファから立ち上がって後ろを向くと、ワンピを頭から被る。どうやらこのワンピは身体にピッタリのサイズだ。裾の方は、膝上の丈でとってもいい。
何にも染まっていないワンピース。麻の自然な風合いが柔らかい印象を与える。
真っ新で、初々しい感じね。
気持ちも引き締まってくる。
もしかすると、儀式用の服なのかな?
婚姻って言ってたけど、そう言う意味があるのかもしれない。
でも、ちょっと普段着っぽくも見えるよね。
身体を捻って、着た感じを確かめる。
この服、気に入っちゃった!
アクアディアが微笑んで言った。
「よく似合ってるわ。とっても凛々しくて素敵よ」
「あ、ありがと……」
アクアディアさんが褒めてくれた。面と向かって言われると、ちょっと照れちゃう。そして、彼女の後に続いてガゼボから外に出ようとした。すると、ガゼボの風よけの影から何かがこちらを覗いた!
「あれ? ウィンデーネ?」
覗いていたのは、さっき、僕をこの場所に案内してくれたウィンディーネだ。
「どこにいたの?」
彼女にそう言うと、ウィンディーネは顔を反対方向に向けて言った。
「どうでもいいでしょっ! それより、あ、あんた、成長すると、そ、そんなふうになるのね」
彼女は、何だか顔を赤らめている。
「私と話すと、恥ずかしい?」
「そんな訳ないでしょっ! 私の事はいいのっ! あんた、これから大変なんだから、ちゃんと集中しなさいよ。もし、失敗したら承知しないわよっ! 私だって関係あるんだから!」
ウィンディーネは、怒っているのか応援してくれているのか、どっちなんだろう。
それにしても、関係があるって言うのはどういう意味?
そう考えたときに、アクアディアがその事を話してくれた。
「イニシエーションが終了すれば、また、説明しますけれど、この子は、水の巫女となる人間と融合することを待っている魂です」
彼女はそう言うと、ウィンディーネに優しく言った。
「ウィンディーネ、あなたはエリアさんの眷属になるのよ。もう少し、相応しい話し方を心がけなければなりません」
「はい……」
ウィンデーネは下を向いて返事をした。しかし、少し口を尖らせている。
「エ、エリア……様」
彼女は、蚊の鳴くような声で言った。
「いいよ、エリアで。それより、友達になってくれる?」
ウィンディーネは、コクリと頷いた。アクアディアはそれを見て、ニッコリと笑っている。
ウィンデーネが言った。
「じゃぁ、赦してあげる」
「え? 赦す? 何を?」
「さっき、ぶつかりそうになったことよっ!」
「あっ!? ありがと」
まだ、赦してもらってなかったんだ。
ウィンディーネに手を振られ、テラスの階段を下りていく。そして、扉の前へとやってきた。
「では、エリアさん、準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
彼女に返事をすると、アクアディアがイニシエーションへの扉を開いた。。
「では、楽しんできてね! 心のままに!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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