120-7-1_王都に向けて(挿絵あり)
男爵も、セイシェル王女と同じように考えている様だ。
「陛下は、私よりも一回りほどお歳を召されておいでだ。恐らく、王位継承に腐心されていることだろう。陛下にお目通り願い、直接、陛下にご説明できれば、我々の考えをお分かりいただけるはずだ。それに、ローズ男爵の件もある。第二王女様の回復も急がねばならんだろうし、場合によっては、第一王子様に危険が迫っておるやもしれん。ピュリス様、お力をお借りできませんでしょうか?」
「陛下へのお目通りの件だろ? もちろん協力させてもらうよ。というか、これは、私たち全員の目的だよ。ねっ? エリアちゃん?」
ピュリスは、そう言って、左目でウィンクを送ってきた。ピュリスのウィンクは、結構、様になっている。
「そうだね」
ピュリスさんて、器用なとこもあるんだね。
しかし、彼女は、男爵が言った事に気になった点があったのか、その事を聞き返した。
「ローズ男爵の件と言えば、ローズ家事件のことだろ? 何か動きがあるのなら私も聞いておこう。実は、私も、ローズ家事件については、前々から理不尽な事件だと考えていたからね」
「これは、失礼致しました。では、ピュリス様とセイシェル王女様に、これまでの経緯と、今後のことについて、改めて、ご説明させて下さい……」
ピュリスに尋ねられた男爵は、彼女たちに、ローズ家事件に関する調査結果と、これから実行しようとしている計画を話した。ピュリスは、男爵の説明を聞くと、ニンマリと笑みを浮かべて頷いた。
「うん。とても楽しそうな計画だ。私もセイシェル王女も、五百年前から貴族の派閥争いに翻弄されてきたからね。今、アトラス派の台頭が著しい状況だし、アトラス共和国の干渉を牽制する意味でも、必ず成功させる必要があるな。私にも、何か手伝わせてくれないか?」
ピュリスがそう言うと、男爵がゆっくりと落ち着いた口調で言った。
「ピュリス様、とても心強いお言葉です。しかし、ピュリス様のお立場を考えれば、表立ってどちらかの派閥に肩入れするようなことをお願いする訳にもまいりません。それなら、先程の、陛下への謁見の許可に合わせて、もう一つお願いしたいことがあるのですが……」
男爵は、ピュリスに対し、彼女の立場ならではのお願い事をした。
「あぁ! 何だ、そんな事か。それならお安い御用だよ」
ピュリスは、男爵のお願いを快く引き受けてくれたようだ。
談話室での報告が終わりに近づくと、最後に、男爵が今後の行動を確認した。
「では、ピュリス様。まず、我々は王都に赴き、ローズ家会計責任者のセシリカ女史の様子を見に参ります。そして、その後、陛下への謁見の許可が下りますと、王宮へと向かうことといたしましょう。非常に短い期間での謁見の許可申請となりますが、いかがでしょうか?」
「それなら心配いらないよ。王宮騎士団長の紹介だからね。最優先事項だ。まぁ、それでも、五日ほどはかかるだろうけどね」
ピュリスは、そう言って太鼓判を押すと、王都へは、彼女の転移魔法で移動しようと言った。それを聞いて男爵が言った。
「ピュリス様、それは、大変助かります。ところで、エリア。エリアもワシと一緒に王都へと行くのが良いと思うのだが、どうする?」
「そうだね、今日から十一日後に、小麦の浄化をする必要があるから、それまでに王様に謁見できればいいんだけどね。でも、少しやっておきたいことがあるから、それが済んだら僕も王都に行くよ」
王都には早く行きたいところだけれど、どうしても気になっていることがある。王への謁見許可が下りるまでには数日掛かりそうなので、多少の時間はあるだろう。その間に、その事を済ませておきたい。
結局、男爵と共に王都に向かうのは、執事のモートンだけとなった。イリハとラヒナは、ローラ夫人とともにお留守番となり、僕が王都に移動する時にも、彼女たちはここに留まるよう、男爵に言われていた。もちろんそれは、ラヒナの存在が公にならないための配慮でもある。イリハもそのことは良く分かっているため、王都に行けないからと言って、彼女の機嫌が悪くなることは無かった。セイシェル王女は、僕の呼び掛けがあればいつでも現れることができるように、エイル同様、光の粒となって姿を消した。そうして、男爵一行は、明日の朝食後、ピュリスとともに、彼女の魔法で転移することとなった。
ようやく談話室での話が終わり、自分の部屋に戻って一息入れた。
ピュリスさんやセイシェル王女と仲良くなれて、王宮のことも、何とかなるかもしれないね。
新しい仲間ができて、いよいよ色んなことが動き出しそうだ。
イリハとラヒナは、また、グレマンさんのところに行ったようだ。部屋の窓から庭を見ると、アムも一緒に、四人で花壇の手入れを始めていた。彼女たちの様子をぼんやりと眺めながら、後ろに立っているヴィースに話しかけた。
「……あのさ、ピュリスさんと、ヴィースって、どっちが強いの?」
実は、どちらかに早く聞きたかったことだ。どちらも竜種だけれど、一方は人間が精霊になった存在で、もう一方はもともと半霊半物質だったものが完全に精霊化した存在だ。とても、興味がある。
すると、ヴィースが答えた。
「ピュリスの能力はカリスと同等です。それでも、奴は範囲攻撃が得意なため、多勢との戦いではピュリスが圧倒するでしょう。もちろん、人間の軍隊などいくら数が多くとも、奴の敵ではありません。私と奴との能力差ですが、私の方が上になります。ちなみに、私とククリナとでは、ほぼ互角でしょう」
なるほど、大体、想像してた通りだったよ。
「やっぱり、人間が精霊化しても、本家の精霊には敵わないんだね」
そう言うと、ヴィースは以外なことを言った。
「個々の能力を比較すればの話です。しかし、精霊化した人間には、彼らなりの役割があるのでしょう」
彼らなりの役割か……。女神ガイアの巫女のことかな?
ヴィースは、それ以上分からないとしながらも、手がかりになりそうな事を言った。
「ウィンディーネ様ならご存じかもしれません」
水の精霊ウィンディーネか。やはり、もう一度、あの場所に行ってみるしかない。
帰り際に感じた視線のことも、少し気にもなっているしね。
男爵たちは、明日の午後出発する様だから、水の古代遺跡には、男爵たちを見送ってから行くとしよう。それにしても、今日は、朝からずっと誰かと話をしていた感じだ。その中で、色々と分かった事もあるし、新たな発見もあった。男爵が、戦争に備え、王家の存続を見据えて準備している事には驚いたし、まさか、ピュリスさんが僕の眷属になるとは思わなかった。それに、彼女が女神の三の巫女、トーラスのシビュラという、何かの役割めいた存在だった事が分かって、古代の謎に一歩近づいた様な気になった。どちらにしても、やらなきゃいけない事は沢山ある。
ちょっと疲れちゃったし、夕食まで、休んじゃおうかな。
そうして、ベッドに横になった。
ーーーー。
一瞬、ノックの音が聞こえた気がした。
ん? もう夕食の時間?
まだ、頭がぼんやりしている。しかし、少しだけ眠れた様だ。
「は〜い、今開けるよ」
そう言ってベッドから降りようとすると、やけに身体が重い。
何だ? ちょっと身体がダルいかも。
何とか立ち上がって、ゆっくりとドアのところまで行き、扉を開けた。
「あ、サリィ!」
扉の前には、サリィが立っていた。
「呼びに来てくれたの? 夕食でしょ? ちょっと待ってね」
そう言って、鏡台の前に座って髪と服装を整えようとした。もちろん、自分でしようとしても、いつも、サリィが手伝ってくれるのだ。しかし、今日は、サリィがなかなか部屋に入って来ない。
ん? どうしたんだ?
「あれ? もう、行っちゃったの?」
身体を傾けてドアの方を覗いた。しかし、ドアは開けっぱなしのままだ。しかも、そこには人影がある。
「サリィ? いるんでしょ?」
確かに人影があるのだけど、一向に返事がない。不思議に思ってドアのところまで行くと、サリィは、そのままそこにいた。
「どうしたの?」
ところが、声を掛けても、サリィは突っ立ったまま、遠くを見るようにぼんやりとしている。流石に、様子がおかしい。
何だろう? この違和感。本当にサリィなのか?
様子を窺うように彼女の顔を見ていると、ようやく、サリィが僕を見た。
何て……悲しい目をしてるんだ……。
サリィは、泣きたくて泣きたくて仕方ないのに、どうしても涙が出てこない。そんな目をしていた。
「サリィっ、何かあったの?」
そう言って、彼女の手を取ろうとした時、頭の上の方で、また、ドアがノックされた!
(コンッコンッ!)
「えっ?」
ーーーー
何て……悲しい目をしてるんだ……。
AI生成画像
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