111-6-16_記憶の枷
「もし、嘘ついてたなら承知しないけど、大丈夫だよね?」
「精霊は、嘘など付けないのだっ!」
ファイアドレイクは、そう言い切った。しかし、もし嘘を付いたなら、眷属契約を即刻解除して聖剣からも追い出すと言っておいた。
ちょっと、このファイアドレイクは調子が良さそうだからね。
「分かったよ。ピュリスさんに、ちゃんと説明して、彼女が納得すれば考えるよ」
そう言うと、ファイアドレイクは、眉根を寄せた。
「女神様は頭が固いのだ。此奴の魂が負っている傷は、女神様しか治せんのだぞ。まぁ、それなら、あたいは、一旦、剣に戻る。そうすれば、此奴は意識をとり戻すからな。女神様が、此奴に上手く説明するのだ」
そう言って、ファイアドレイクは、赤い光になって剣の赤い石に吸い込まれた。
頭が固くて悪いけど、ファイアドレイクのペースに飲まれると、いいようにされそうだし、なにより、ピュリス本人の意思が重要だ。しかし……。
とは言ったものの、どうやってピュリスさんに説明しようか?
ピュリスが、自分の魂の傷を自覚しているのかどうかも分からない。しかも、その傷がキスで治ると言っても、彼女にすれば全く意味不明な話だ。それでも、キスを受け入れてくれればいいけれど、彼女が女神の祝福を拒んだとすれば、女神の加護の秘密が王族にバレてしまう上に、ピュリスの魂の傷はそのままになってしまう。
ピュリスさんに説明するのは、ちょっと、リスクが高いかな。それに、僕から言えば、キスの押し売りになっちゃうよ。
悩んでいると、ピュリスが目を覚ました。
「ん、んんっ。ん? 私は……眠っていたのか?」
「剣の精霊が姿を現せば、ピュリスさんは意識を失うようだね……」
そう言って、今、ファイアドレイクという精霊が姿を現したことを伝えた。
「そうなのか? 実は、私はね、剣の精霊が火のドラゴンだということは知っているんだけど、実際には、お目にかかったことが無いんだよ」
ピュリスはそう言うと、彼女の聖剣を手に取り、赤い魔石を掌で撫でた、
「精霊と、どんな話をしたのか聞かないの?」
彼女は、魔石の着いた持ち手を見つめながら言った。
「何となく分かっているよ。私の心の弱さのことだろう……」
ピュリスは笑顔を取り繕い、まだ、自分が前世の記憶に縛られていると言った。
「今朝になって、私は、処刑された場面を思い返しても、昨日までのように、吐き気をもようおしたりしないことに気が付いた。私は、ほんの少し、前に進めたかもしれない。でもね、私は、まだ、処刑された場所がある王都の中央広場には、立ち入ることができないと思う……」
彼女は、処刑場となった王都の中央広場において、彼女に怒号を浴びせる大衆の視線を、今でもはっきりと憶えているようだ。だから、今でも、大衆が集まるような場所では、恐怖が湧き起こってしまうらしい。
やっぱり、ピュリスさんの傷は相当深いようだね。でも、心の傷と、この先どう向き合っていくつもりなんだろう?
自分の気持ちを話したピュリスは、聖剣を胸に抱き寄せると、静かに、泣き始めてしまった。
「わ、私は……うっ……この剣が無ければ……生きて……グっ……行けないのさ……ううっ」
ピュリスさん、辛そうだ……。
彼女は、トラウマのせいで、聖剣に、ずいぶんと依存してしまっているようだ。無理もない。彼女は、まだ十八の娘なのだから。
この話の流れのまま、女神の祝福の話をするか? でも、恐怖のあまり、聖剣への依存を手放せそうにない彼女に、僕の話は、心に届くだろうか……。
そうやって悩んでいると、突然、空間に光の粒が発生した!
あっ! 来てくれたんだ。
そして、その光は、どんどん数が増えると一つにまとまって、セイシェル王女が姿を現した! 彼女は、ピュリスの側に立つと、ピュリスの右肩に左手を乗せた。
「セイシェル王女!」
ピュリスは、指で涙を拭くと、傍らに立つセイシェル王女を見つめた。セイシェル王女も、彼女を優しく見つめて言った。
「レイナ。私が、今、こうしてあなたの側に立つことができるのは、ここにいるエリア様のご加護をいただくことができたからなのです。私の魂は、王族の跡目争いを象徴する首飾りに囚われてしまい、五百年という長き年月を、暗く冷たい湖の底で過ごすことになってしまいました。しかし、エリア様の御業により、妖精ニンフとなって、その囚われから解放されたのです……」
セイシェル王女が話し出すと、辺りの空気が母性を纏うように優しい雰囲気となる。ピュリスは、セイシェル王女の顔をじっと見つめて、彼女の話を聞いている。
「レイナ。あなたは、まだ、過去の記憶に縛られてしまっているけれど、違う生き方の選択肢が、今、あなたの目の前に示されていますよ……」
セイシェル王女はそう言って、僕の側に移動した。
「生き方を変えられる? 私も……セイシェル王女のように?」
ピュリスは、セイシェル王女の言葉の意味を探るように、王女を視線で追いかけた。セイシェル王女は、僕の肩に手を置いて、囁くように言った。
「エリア様、女神様の祝福について、レイナに伝えていただいてもよろしいでしょうか?」
セイシェル王女が、うまく話を繋いでくれた。
「そうだね」
ファイアドレイクから教えてもらった話もしないとね。
「ピュリスさん、僕は、女神の加護を授かっていてね、この加護を使うと、魂が強化されるんだ。だから、ピュリスさんのトラウマもきっと克服できると思うよ。それでね……」
ピュリスに、女神の加護の権能について説明した。そして、魂の傷が癒される代わりに、ファイアドレイクの話のとおり、精霊との契約か融合のどちらかを選択できると言うことを伝えた。彼女は、既に、聖剣サンクトゥス・ガウディウムの所有者であるため、ファイアドレイクとは契約済みだ。そのため、今のままで良いとすることもできるのだと。
ピュリスは、最初に、僕のカチューシャ、トラウマの呪いが具現化した首輪、について触れた。
「やはり、エリアちゃん、君は、女神様とご縁があったんだね。君の、その首輪は、女神ガイア様と同じだからね……」
彼女はそう言って僕の首輪を見つめ、女神の絆加護について尋ねた。
「……なるほど。契約を選択するなら、魂が強化されても、今のままなんだね。もう一方の融合というのは、私が精霊化して人間では無くなるということか……」
ピュリスは、腕組みをして考える。
「ピュリスさん、それでね、融合して精霊になっちゃうと、加護を持っている僕の眷属になってしまうんだよ。僕の眷属になると、僕が存在する限り、僕とともに生き続ける。つまり、寿命が僕と同じになって、今まで一緒に生きてきた人たちとは、人生を歩むことができなくなるかもしれないんだ。まぁ、セイシェル王女を見れば分かるけど、ピュリスさんがピュリスさんじゃなくなるってことは無いけどね……」
僕自身の寿命がどうなるのかは、全く分からない。普通に人間としての寿命を生きるのかもしれないし、それこそ、不死であるかもしれない。そのあたりは、レムリアさんから説明されていないから、古代遺跡に行って、是非、レムリアさんに聞いてみたいと思っている。ただし、僕には、不死の人生がそれほど魅力的とは思えない。周囲と時間の流れが異なってしまうように思えて、人生に飽きてしまうんじゃないだろうか。その内、山にこもって仙人生活でも始めてしまいそうだ。転生を経験したことで、なおさらそう思えるのかもしれない。
本当は、転生の度に、前世の記憶を忘れているくらいが丁度いいのかもね。
ピュリスは、腕組みを解いて言った。
「なんだ。私は私のままなのか? それなら、私は、一も二もなく精霊との融合を望むよ」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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