103-6-8_女子会の飛び入り参加
屋敷の玄関ホールに転移すると、アリサが、まるで僕たちの戻る時間を分かっていたかのように出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
アリサは、恭しくお辞儀をすると、全員に蒸しタオルを配ってくれた。蒸しタオルはホクホクだ。
「ありがとう、アリサ。ちょっと、一人増えちゃった! ウィルって言うんだけど、妖精なんだ」
アリサは、子どもが友達を一人連れて帰ってきた時の母親のように、ウィルに優しく声をかけた。
「ようこそいらっしゃいませ。可愛い妖精さん」
いつもいつも、アリサの仕事ぶりには頭が下がる。四人ともタオルで顔や手を拭くと、とりあえず、ヴィースは用心棒の仕事に戻り、アムとウィルは一緒に僕の部屋に行くことにした。部屋に戻る前に、アリサが、今日の夕食はそれぞれの部屋で取ることになると教えてくれた。
「バイドン様は直ぐにお帰りになられましたが、ピュリス様は、本日、お泊まりになられますので……」
アリサによると、ダイニングルームは、公爵令嬢のピュリスをもてなすために使われ、その夕食会は、男爵夫妻のみで接待する事になったそうだ。本当ならイリハも同席するんだろうけど、彼女は病み上がりでもあるし、きっと、ラヒナや僕が置いてきぼりにならないように配慮して、イリハは免除されたのだろう。それに、何んといっても、公爵家はアトラス派との繋がりが強い。今日、セシリカ達と計画したことは、ピュリスに知られない方がいい。もちろん、ラヒナの素性も。そうしたことも全て考えた上で、男爵が色々と采配してくれているに違いない。
男爵も色々と大変だね。
そして、アリサは、一番汚れているアムに、夕食前に湯あみをするように勧めてくれた。模擬戦をして、身体が砂だらけになっていたからアムも喜んでいるだろう。しかし、実は、アムの湯あみをアリサ自身も楽しみにしているようだ。彼女のアムの尻尾を見る目がメロメロとしている。アムは、きっと、隈なく隅々まで洗ってもらえるだろう。
アムが、アリサに連れられて湯あみに行ったので、ウィルと二人で部屋に戻ってきた。部屋に入ると、ラヒナが本を読んでいた。
「ただいま、ラヒナ。何読んでるの?」
「あ、エリア様、おかえりなさい。今、イリハちゃんが貸してくれた歴史の本を読んでいたんです」
「へぇ〜、歴史が好きなんだ?」
「はい、しばらく勉強できてなかったので。ところで、その方はどなたですか?」
ラヒナは、ウィルを見てそう尋ねた。
「湖で知り合った妖精なんだ。しばらく、この子も一緒にいることになるけどいいかな?」
「もちろんです! あの、私、ラヒナと言います! あなたのお名前は何ですか?」
ラヒナは、腰を屈めて小さい子に話をするように言った。すると、ウィルが素っ気なく返事をする。
「あら、あなたも、女神様の加護をいただいているのね。ラヒナちゃんだっけ。私は妖精のウィルよ。しばらくお世話になるわね」
ウィルは、少しお姉さん目線だ。ラヒナが目を丸くして驚いている。
「あの、ウィルちゃんって、何歳?」
「私、年齢なんて数えてないから知らないけど、五百歳以上かしら?」
「そ、そうなんだ! 妖精さんって、不思議だね」
ラヒナはそう言ってニッコリ笑う。 その時、空中に光の粒が現れエイルが姿を現した。
「あら、新入りが入ったようね」
エイルは、ウィルの前でホバリングすると、腕を組んで先輩面をした。
「ニンフのウィルよ。ヨロシク」
そういうウィルに、エイルは、上から下まで視線を這わすと、ぶっきらぼうに言った。
「あなた、ニンフにしては、全然、凹凸が無いわね」
「小さいだけが取り柄のエインセルには、言われたくないわ」
「何よ!」
「あんたこそ何よ!」
あれ、何だか雰囲気ややこしくなりそうな気配……。
「ちょっと、二人とも仲良くね。みんな、家族なんだから」
すると、二人とも、フンっ! と言って、光の粒を放って消えた。ラヒナと目を見合わせると、ラヒナが、クスクスっと笑って言った。
まったく!
「妖精さんたち、喧嘩しちゃいましたね」
「あんなのほっときゃいいよ」
そう言って、二人で笑った。ラヒナは、屋敷に戻ってから、イリハと二人で庭の手入れをしていたらしい。ラヒナは、イリハの草花の知識に驚いたようだ。
「イリハちゃんが、樹木魔法の属性があるのは、草花が大好きだからですね。イリハちゃんならドライアド様ともお友達になれるよきっと」
そう言って、ラヒナは、イリハに感心していた。しばらくすると、湯あみを終えたアムが部屋に戻ってきた。彼女は、頭から湯気を出し、ほっこりとした顔をしている。
「湯あみ、どうだった?」
アムは、ニコニコ顔でとても満足そうだ。
「アリサさん、すごく丁寧にあたしの身体を洗ってくれました~。気持ちよかったですぅ~」
アムの話では、アリサは、耳の後ろと尻尾の付け根を、特に念入りにもみもみして洗ってくれたようだ。耳の後ろが癖になるほど気持ちよかったらしい。やはり、アリサは、ツボを心得ている様だ。
夕食の時間になるとイリハもやってきた。今日は、折角だから、子どもたちみんなで僕の部屋に集まり食事することにしたのだ。先程、アリサにお願いして、イリハに伝えてもらっていた。ラヒナもとても楽しみにしていたし、もちろん、僕も楽しみだ。イリハも大喜びだろう。
「エリア、ラヒナ、アムちゃんもお待たせー。あー、お腹減っちゃった!」
今日は、お行儀が悪くても、ローラ夫人の目は届かない。イリハも素の性格が出てるようだ。部屋に小さめの四角いテーブルが運ばれると、四人で向かい合って座る。今日の夕食はパスタだ。こちらの世界に来て驚いたのだけれど、実は、異世界でもパスタは定番料理のようで、ボズウィック男爵家でも、必ずと言っていいほど、毎日、食卓に上がるのだ。パスタは、日によってメインディッシュの場合もあるし、前菜になっている場合もあって飽きたりはしない。今日のパスタは、ボロネーゼ風だ。味付けは少し甘めにしてあるだろう。サラダとスープも付いている。いつものディナーに比べると、かなりお子様メニューになっていたけど、子どもはこういうものが好きなのだ。
イリハが両手を上げて喜んだ。
「うわぁ! おいしそう!」
いつものイリハなら、料理を前にしてもはしゃいだりしない。ローラ夫人に怒られるからだ。しかし、今日の彼女は大はしゃぎだ。
「ホントだね。じゃぁ、食べようか」
「いただきまーすっ!」
「いただきまーすっ!」
「いただきまーすっ!」
「ハハハッ!」
三人とも元気がいい。もちろん僕も楽しい! 食事をしながら、今日の出来事を話題にして話も盛り上がる。イリハとラヒナの庭作業の話。そして、アムとカリスの模擬戦の話。さらに、アムがお庭番になると言う話をした時には、イリハが得意になって門番のおじさんやグラマンさんの事をアムに教えてあげていた。みんなでワイワイと、とても楽しい夕食となった。
女の子が集まると、こんなに盛り上がるんだね。
みんな食べ終わった後も、会話は続く。食器が下げられ、食後の紅茶を飲みながら、今度は、ピュリスの話題になった。イリハもピュリスの事はよく知らないらしい。しかし、男爵やローラ夫人の振る舞いからして、男爵夫妻とはそれ程知らない中でも無さそうだ。イリハにすれば、将来、自分が王宮に使えたいという希望を持っているので、王宮騎士団の団長に会えた事に彼女はとても喜んでいた。
「女の人なのに、団長さんなんて凄いよね」
イリハは、そう言って目を丸くしていた。ただ、公爵家の令嬢というのが気にかかる。貴族の派閥争いがエスカレートする中、アトラス派が支持する公爵家はどう言う立ち位置なのだろう?
その時、ドアがノックされた。
「誰か来たみたいだね」
アリサがドアを開くと、驚いたことに、そこ立っていたのは……。
ピュリス・ディア・クライナ! 公爵令嬢がどうしてこの部屋に!?
よく見ると、モートンが後ろに控えている。どうやら彼が案内してきたようだ。
「あっ、い、いらっしゃいませ」
どう、挨拶すればいいのかわからず、変な言葉を使ってしまった。すると、彼女が、「ワッハッハ」と笑って言った。
「私も、女子会の仲間に入れてくれないか?」
彼女はそう言って、部屋に入ってきた。すると、イリハとラヒナがスカートを摘んで挨拶をした。
そうだった。それしないとダメだったよ。
一瞬、緊張して、貴族の挨拶を忘れてしまったようだ。
でも、今さらいいか。しかし、ラヒナもいるのに、なんでやってきたんだ? 男爵が、公爵令嬢の注意を引いておくんじゃなかったのかな?
彼女は、昼間着ていた騎士団の制服とは随分と違って、淡いピンクのワンピースを着ている。彼女も若い女の子ということか……。
彼女の髪の色は薄紫をしていて、背中まである。それを二つに分けて括っていた。身長は、僕が大人になった時よりも、少し高いかもしれない。身体の線は細くスレンダーな身体つきをしている。目はキリっとしていて少しきつく見えるけれど、よく見ると、うなじや顎のラインに幼さがにじんでいた。
「まぁ、堅苦しい挨拶は無しにしよう」
ピュリスはそう言うと、モートンが運び入れた椅子に座って自己紹介を始めた。
「改めて自己紹介させて欲しい。私の名前は……」
彼女は、国王の弟、プロディ・ディア・クライナ公爵の長女で年齢は十八歳。さらに、彼女は王宮騎士団の団長をしている。
「じゃぁ、今度はみんなの番だよ。と言っても、私が名前を当てて見せようか……」
そして、彼女は、人一人の顔を見ながら、名前当てゲームを始めた。
「最初の君は、イリハちゃんだね。花が好きなんだって?」
「はい。いつも、お庭の手入れをしています」
イリハは照れながらそう言った。ピュリスはニッコリ笑ってピースをし、次にラヒナに向かった言った。
「次の君は、そう……ラヒナちゃん。イリハちゃんの遠い親戚なんだね?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「リラックス、リラックス!」
緊張しているラヒナに、ピュリスがそう声を掛けた。イリハもニッコリ笑っている。イリハは、男爵から、ラヒナの事は遠い親戚だと言うように言われている。話を合わせていることに、自然な態度を取ることができているようだ。ピュリスも、それ以上ラヒナには何も言わない。
何かを探ってるような感じでもないか……。
次にピュリスは、アムに向かって言った。
「君はアムちゃんで間違いないよね。山犬族って聞いたけど、私も実際に会うのは初めてだよ」
「はい。山犬族は、あまり人里に降りてきませんので」
アムの尻尾が垂れている。彼女も、少し緊張を感じている様だ。
「そして、最後の君。君がエリアちゃんだね!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
と思ったら
下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。
面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に励みになります。
重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。




