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転生記者の取材手帳 〜王都の闇を暴いた男の英雄譚〜  作者: 漂月


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第39話

おかげさまで書籍化が決定しました!「マスケットガールズ!」のPASHブックス様です!

刊行日などは続報が入り次第お知らせします。これも皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!

 こうして王都ディプトンで暗躍していた凶悪な強盗団は、警察によって無事に壊滅させられた。普段はちょっと鬱陶しいけど、やっぱり警察って大事だよな。

「貴重なお話をありがとうございました」

 俺は警察本部での取材を終えて立ち上がる。



 デスクの向こう側には渋い顔の警部が頬杖をついていた。軍隊上がりっぽい厳つい中年男性だ。あの夜に警官隊を指揮していた隊長でもある。

 警部は鬱陶しそうに手を振って俺を追い払う。

「情報提供の見返りだからな。約束は果たしたぞ。さっさと帰れ」

「ええ、どうも」



 愛想良く会釈して立ち去ろうとすると、警部がぼそりと言う。

「あー、これは独り言だが」

「はい?」

「独り言だと言っておろうが。今回の功績が国王陛下に認められ、かねてより請願していた警察組織の規模拡大が決定したそうだ」

 でかい独り言だな、おい。これ記事にしちゃっていいのか?



 警部は俺に背中を向けて、でかい声で「独り言」を続ける。

「俺は記者なんか大嫌いだが、大きな借りができてしまった。借りは返さんとまずいからな。それに不正確な情報で妙な記事を書かれても困る。今後も少しぐらいなら取材に応じてやってもいいか」

 それから警部はくるりと振り返る。



「なんだ、まだいたのか。早く帰れ」

「もう『独り言』はないんですか?」

「俺は何も言っとらん。帰れ帰れ」

 面白い人だな。俺は笑いながら頭を下げる。



「ありがとうございます。大嫌いな記者に妙な記事を書かれないよう、今後も応援していますよ」

「そういうことをスラスラ言うから嫌いなんだ、帰らんと不退去罪で逮捕するぞ」

「はいはい」

 また来ようっと。


 俺がパッシュバル印刷工房に戻ると、何やら騒がしい雰囲気だった。

「いや女将さん、無理だよ! どう頑張っても印刷機を置く場所がねえ!」

「しょうがないね。それじゃ壁をぶち抜いてもらうよ。大工さんを呼ぶから」

「本気で言ってるんですか!?」

 マーサが印刷職人の皆さんと何か言っている。



 事務室の隅っこでドロシアが暇そうにしているので、ちょっと聞いてみた。

「これ、どうしたんです?」

「ええと……印刷機をもう一台増やすそうです」

「なんで?」

 プレス型の活版印刷機は人力で動かす素朴な木製の機械だが、この世界では精密機械の部類に入る。当然、それなりに高い。



 するとドロシアが俺をじっと見る。

「それは……あなたが『ディプトン週報』の部数を増やしてしまったので……」

「俺?」

「新しい印刷機は『ディプトン週報』専用にするそうです」

 ちょっと待って。印刷工房が片手間に発行してる週刊誌じゃなかったの?



 ドロシアはうつむき加減にぼそぼそ言う。

「たくさん売れた分だけ、私のお賃金も増えますから……がんばって、ください……」

「俺、何も聞かされてないんですけど……」

 そもそも俺はここの記者でも何でもないはずなんだが。



 するとメリアナが飛び込んでくる。

「あっ、サッシュいた!」

「おう、メリアナ」

「ワーナード編集長と呼びなさい!」

 どういうこと?



「お前が編集長?」

「そう! 私たちの『ディプトン週報』は、パッシュバル印刷工房の正式な一部門として独立したの! 私が編集長で、あなたとドロシアが専属記者! まあドロシアは専属絵師なんだけど」

「だから俺は何も聞かされてないんだが」



 俺の抗議にもメリアナは動じない。

「だってあなた、ここのところ飛び回ってて忙しかったじゃない? だから私たちで話を進めておいたの」

 進めておいたのじゃないんだよ。

 俺はさらに抗議しようとしたが、メリアナが俺に紙切れを突きつけた。なんだこれ、契約書?



「それでね、マーサさんがあなたを正式に雇うって! 条件はこれでどう?」

「どうって……えっ、こんなに!?」

 決して高給ではないが、固定給でこれだけもらえるのなら生活の心配をする必要はなくなる。妹も安心して学校に通えるぞ。



 そこにマーサが笑顔で振り返った。

「安心おし、今まで通りに働いてもらうだけだから」

「でもマーサさん、これは……」

「今までは大したお給金を出せなかったんだけど、『ディプトン週報』の売り上げが伸びたからね! あんたの働きであんたの稼ぎが増えただけだよ、胸を張っておくれ!」

 そう……なのかな。そう言われると嬉しい。



 でもそうなると、俺は今後もずっと「ディプトン週報」を作り続けなきゃいけなくなる。つまり週刊誌記者だ。またかよ。

 メリアナが俺の腕にしがみついてきた。

「よかったわね! あっ、新しい印刷機のローンがあるから、三年ぐらいは売り上げを維持してね!」

「俺に言われても困るんだが」

 いつの間にか、抜き差しならない状況になってるじゃないか。



 俺は少し考え、メリアナに言う。

「じゃあこれからもよろしくな、編集長」

「うん、よろしく!」

本話で第1部完です。第2部開始までしばらくお待ちください(カクヨムネクストの連載等、書かないといけないものがありますので……)。

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― 新着の感想 ―
ああそうか、このお話も副官なんだw すっと入って来るのはそのせいなのかな。
ローンがあるなら逃げられませんね。
やっぱり主人公は副官w
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