表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生記者の取材手帳 〜王都の闇を暴いた男の英雄譚〜  作者: 漂月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/39

第23話

 俺たちが慌ててワーナード医師の……つまりメリアナの実家に行くと、ワーナード医師が険しい顔をしていた。

「待っていたよ、ウィーズリー君」

「先生、何がどうなってるんです!?」

 俺が問うと、ワーナード医師は目を閉じた。



「君が教えてくれたメイド虐待の件、なぜか急に警察が取り調べをする気になったらしくてね。アランスキーさんは今、警察本部で拘束されている。数日は戻れないだろう」

 やる気も実力もない新設の警察が、現行犯以外で容疑者を拘束するのは異例だ。正直、こんなことになるなんて思っていなかった。



「急すぎますね」

「ああ。アランスキーさんの執事から連絡があったんだが、君の言っていた『ビシュタルの耳』とかいう絵入り新聞の記事が逮捕の決め手になったらしい」

「でもあれ、もう何週間も前の記事ですよ? その頃から動いてたんですね」

 いくら頼りないといっても警察は警察なので、逮捕の予定なんて公開していない。

 この警察の内部情報が手に入らない悩みは前世でも経験した。俺たちは新聞記者とは違うからな……。



 それはそれとしてだ。

「アランスキーの屋敷には今、誰がいるんです?」

「奥方とまだ小さい男の子が二人。あとは執事と御者、それに料理メイドと客室メイドだったと思う」

 執事と御者は白髪まじりのおじさんたちだ。凶悪な武装強盗団の相手をするには少し心許ない印象だった。

 ワーナード医師は強盗団の心配はしていない様子で、違うことを気にしている。



「アランスキーさんの事業は部下たちがしばらく回してくれるだろうが、健康状態が心配だな。彼は美食家だしよく食べるから、警察の食事では心身ともに参ってしまうだろう」

 それはそれで心配なんだけど、俺が心配なのは家族や使用人たちの方だ。

「あの家、警備は大丈夫なんですか?」

「あの辺りは治安もいいし、静かで人通りも少ないからね。よそ者がうろついていれば目立つから、おかしな連中がいればすぐに気づかれるよ」



 うーん、でも俺は「閑静な住宅街で起きた白昼の惨劇!!」とかよく見てきたからなあ。

 あの事件、他誌に先を越されて辛酸を舐めたっけ。上司の命令とはいえ、焦って取材して近所の人に怒られたし……。いやいや、今の俺はただの売り子だから関係ないぞ。



 そこにメリアナが当然のような顔をしてやってきた。ここは彼女の実家だから別に不思議ではないんだが、最近のメリアナは俺がどこにいてもすぐに現れるから怖い。探偵か?

「あっ、サッシュ! やっぱりここにいたのね」

「ああ、先生から事情をお伺いしてたところだよ」



 するとメリアナはふんふんとうなずく。

「それで、どうやってこの事件を解決するの?」

「俺は探偵じゃないぞ」

「似たようなもんじゃない?」

 探偵だと思われてるのは俺の方だった。

「俺は雑誌……」



 いやいや、違う。今世の俺はもう記者じゃないぞ。街頭商人の助手、ただの売り子だ。

 ただの売り子なんだけど……なあ。

 俺は溜息をつく。

「アランスキーさんは先生の大事な患者さんだ。ほっとけないよな」

「だよね! 私、サッシュのそういうとこ好き!」



 メリアナがパッと表情を輝かせて、ワーナード医師がコホンと小さく咳払いをする。

「そうだな。私としても、アランスキーさんを見捨てておけない。できる範囲で構わないから、彼のために助力してほしい」

「わかりました」

「あと結婚はまだ早いからな」

 何の予防線だ。



 それはそれとして、今はできることをやろう。

 俺はワーナード医師に貸馬車を呼んでもらい、アランスキー邸に向かうことにした。

 どうしても確認しておかなきゃいけないことがある。



「当家の使用人、でございますか」

 アランスキー家の執事が少し困ったような顔をしている。

「申し訳ございません。私どもも使用人でございますので、当家の雇用関係について一存で口外する訳には……」

 そりゃそうだよな。この執事さんは実質的に家令の立場で人事権もあるだろうが、それでも使用人には変わりない。主人の許可なく内部情報は漏らせないだろう。



 納得したけど、「はいそうですかで引き下がってたら記事の一本も書けねえぞ」と言われたのを思い出す。誰に言われたんだっけ? 前世の記憶か?

 無理は承知で食らいつけ。

 俺は粘ってみる。

「街頭商人の組合で強盗団の話を聞いたんです。手下を使用人として送り込んで、内偵させることがあるとかで」



 ほぼ口から出任せだが、これは俺の推理でもある。

 時代劇なんかでも、強盗の手引きをさせられる女中とか、女中に偽装した女盗賊とかが定番だったよな。

 まだ執事が渋っているので、俺はさらに一押しいってみる。

「奥方に御許可をお願いするという訳にはいきませんか?」

 執事に判断できないのなら、さらにその上。雇用主側の人物に許可をもらう作戦だ。



 すると執事はうなずいた。

「確かに今の当家は防犯上やや不安ではありますので、奥様に聞いて参ります。しばしお待ちを」

 そう言って退出した執事はすぐに戻ってきて、「奥様が私に一任するとおっしゃいました」と答えた。

 やれやれ、セキュリティクリアランスの壁は何とか突破できそうだ。

 疲れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
使用人が怪しいという話になると、突然来たサッシュ君はどうなんだって気はするけど……まあ先生がケツモチしてるから信頼するってことなんかな
動き出しましたね。
クリアランスレッドでは接触できない情報も、オレンジやイエローの許可があれば接触可能、と。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ