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心由①

心由視点です。

「心由ちゃん!」


 私は懐かしい場所に来ていた。


 昔、私が引っ越す前に、よく遊んできた公園。


 公園と言ってもそこそこ大きい公園で、遊具の周りに広大な森があって、レストランや科学館、プラネタリウムまでついている建物もある。


 そんな建物の入り口で、私は本当に久々に人を待っていた。


 そして声をかけられたのが今。


 背が高くなっていて驚いた。


「波無ちゃん……!」


「凄い、なんか半分だけタイムスリップしたみたい」


 あまりにも懐かしすぎたのか、私のかつての親友、波無ちゃんはそう感想をもらした。


「ねえ、昔みたいに、歩き回ろうよ。歩き回るっていうには流石に狭いかもしれないけど」


「うん」


 私の提案に、波無ちゃんはうなずいた。


 


 私たちは森をぐるっと回った。


 丸太の橋の幅や、木で組まれた階段が、すごくこじんまりとしているように見える。


 でも森全体は、やっぱりまだ大きかった。


 この時期はちょうど、すごく緑! と言った感じの季節で、しかも気温もちょうどいい。


 久々に、波無ちゃんと話すのにも、とてもいい環境だった。


「ねえ、私たちって、最後喧嘩したんだっけ」


「うん」


 私は、不意に波無ちゃんに言われてうなずいた。


 そう、あの時。夜の満月の下で喧嘩した。


 といっても、月に住むうさぎがじゃれあうくらいのつもりだったけど。


 でもやっぱり喧嘩になって、そうしてしかもそれから疎遠になってしまっていた。


「あの時、なんで喧嘩してたんだっけ?」


 波無ちゃんが私にきいた。


 波無ちゃんも少しは覚えてるのかもしれないけど。


 私は思い出した。


「たしか……月の、小説の話だったよね」


「……うん」


 あの時。


 現代文の課題で、小説を書く課題が出た。


 お題は月。


 だから私と波無ちゃんは、月の下で出来上がった小説を見せあったのだ。


  ✰   〇   ✰


波無ちゃんの小説は、ヨーロッパのような世界観の話で、普通に面白かった。とてもやさしいお花屋さんの女の子が、街を笑顔にする話。


 問題は私の小説で。


 私の小説を読んだ波無ちゃんは、私を疑わしい目で見てきたのだ。


 どうしてかは、私にもわかったけど。


 でも、それでも私は波無ちゃんを見つめ返した。


 

 私の小説は、二人の女の子の話だった。


 主人公の女の子視点でもう一人の女の子を、ひたすら描く話だ。


 そんな話なんだけど、とにかく主人公の女の子はもう一人の女の子に嫉妬する。


 それは間違いなく、私が波無ちゃんに抱いている気持ちの表れだと思う。


 

「心由ちゃんってさ、私のこと、どんなふうな存在に思ってるの?」


 波無ちゃんは私にきいてきた。


 だから私は、もう思ってるままに答えた。


「うらやましい。ずるいなあって」


「ずるいってなに? 私は心由ちゃんのことずるいって思ったことはないよ」


「いや、別に……」


 私は黙り込んでしまった。


 だってたしかにそれは私が悪いから。


 変な小説を書いたのも私にしか問題はなくて。


 だから急に、この話を終わらせたくなった。


 どうしよう。


 そして、私はそこで逃げてしまったのだ。


 よわい!


 よわいばか私!


 でも私はそうして波無ちゃんから離れてしまって。


 そしてそれからあまり話さない関係になり。


 さらに私は引っ越してしまったのだ。


   ✰   〇   ✰


「あの時の心由ちゃんの気持ち、わかるなあ」


 波無ちゃんは歩きながら、そう言った。


「え、そうなの?」


「うん、なんか私って、なんかなんでもできてすごいって自分でアピールしてて、なんだか井の中の蛙状態だったから。心由ちゃんがうざがるのもわかる」


「そ、そんなにうざがってないよ!」


 私は否定した。私はただ、波無ちゃんをうらやましいと思っていただけなんだから。波無ちゃんみたいに、なんでもできる人はずるいなあ、可愛いのもずるいなあ、足が長いのもずるいなあ、色々ずるいなあと思っていただけなんだから。


「それならいいんだけど……私はね、心由ちゃんのこと好きだから」


「……私も、好きだよ。波無ちゃん」


「ありがと。私、ずっと、心由ちゃんみたいに、優しくなりたいって思ってた。だからね、あの時……」


「あの小説……?」


「うん。私もね、物語の中だったら、優しくなれるかなって、心由ちゃんみたいに」


 そんな想いがあったのか。


 びっくりだよ。波無ちゃん。


 私と波無ちゃんは目があって、そして、同じ方向を見た。


 ずっと昔にもきたことがあるはず。


 目の前に、大きな半球が現れた。


 プラネタリウム。


 お互いがとても綺麗に光って見える私たちはきっと、二人で一緒に星空を見上げれば、ずっと一緒になれるはず。


 そんなふうに私は思ったりして、だから提案してみた。


「プラネタリウム、見てみない?」



お読みいただきありがとうございます。

後二話で終わる予定です。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

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