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昼の月と、夜の月の間くらい


 そうしてそれから少したって落ち着いて。


 僕と千沙はゆっくりと最近のことについて話したりしていた。


 そんな中、千沙が僕に言った。


「そっか、今はその後輩さんのことが、好きなんだ、なるほどね」


「いや、そうなのかは……たしかにすぐ否定はできないな」


「うん、あーでも、ほんとに懐かしいなあ。いろいろと」


 千沙は僕をのんびりと見つめて、そして脳内は時空をさかのぼっているみたいだ。


 そして、現実に帰ってきたのか、千沙は僕に訊いた。


「ねえ、あのときさ、どうして私に告白したの?」


「え、それは……好きだったからなんだろうなあ」


「そっか」


 僕は思い出す。


 あの時は、幼馴染の千沙にとって、一番存在感の大きい男の子でいたいと思っていた。


 そしてそれから時がたって。


 今はどうなんだろうか。


「私さ、なんかあの時結構迷ってて、でも一瞬で、なんか、今付き合うのは違うなって」


「え?」


「なんかさ、彼氏がいること自体に安心感があるようになりそうで。そんな理由で彼氏ほしいなって思ってて。だけど、やっぱり遥祐は幼馴染だなあってなって」


「うん」


 そうだよな。千沙の気持ちは分かる。


 僕は今目の前の千沙を見た。


 髪は少し長くなっていて、綺麗になっていた。


 なんか、ちょっと話しかけるのに緊張してしまう、クラスの美少女みたいになっていた。


「遥祐、月の話をしたのって、覚えてる?」


「覚えてるよ。僕が昼の月みたいなもんって話だよな」


「そうそれ」


「なかなか個性的なフラれかたしたよな、僕」


「そうね、でも、なんかあれは今思えば、私あほだった」


「あほだったの?」


「そう。だってさ、なんかさ、私はお昼の月結構きれいだしすごいいいイメージだったんだけど、あれでしょ、遥祐にとっては存在感が薄いイメージで、だから私のたとえがあほだったなあ……と」


「なるほど、でも、ま、気にしてないよ」


 後輩の前で自虐的にフラられたエピソードを話す時に、自虐効果を高めるたとえだってくらいで。


 今は何も僕は気にしていない。


「ならいいんだけどね」


 千沙は海を眺めた。


 夜に月が出たら、月が映りそうな、穏やかな海になっていた。


「ねえ、遥祐、桟橋の先まで歩かない?」


「いいよ」


 僕と千沙は息があった幼馴染らしく、同じ動作で同時に立ち上がった。




 桟橋の先端には、釣りをしている人が数人いるだけで、そこまで幅はないのに、広々としているように感じられた。


「ねえ、遥祐。後輩さんに告白してみたら?」


「え、なんで?」


「わかんないけど。なんかすっきりするんじゃない? ううん。いやいいや。すっきりするのは、私なのかも。ごめん」


「なんで千沙がすっきりすることになった」


「いや、気にしないで、てきとうにしゃべってるだけ」


「そうか」


 それから僕たちは、釣り人と水平線を眺めていた。


 時々、魚が釣れていた。


 鱗が光を反射していて、明るく見える。


 かといって、まぶしいわけではない。


 昼の月と、夜の月の間くらいだろうか。


 


 陽が沈む前に、僕と千沙は駅前のファミレスに入って早めに夕飯を食べ、そして別れた。


 久々に会えた。

 

 いつの間にか、幼馴染は、少し話すと緊張する可愛い女の子になっていたけど。


 最後の方は、やっぱり幼馴染だとうなずけるようになっていたと思う。


 来てよかった。


 僕は電車の窓から空を見上げた。


 今日は少し雲が多くて、月はよく見えなかった。


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