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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
死屍を食う男 葉山嘉樹
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死屍を食う男 2


「向こうには神社があって、また向こうには国分寺、それで向こうには湖があるの」

 それぞれ指差しながらナーシャは説明をしてくれて、それから湖があるのだという方へと歩き出した。何も言われなかったけれど、俺も一緒に行くべきなのだろう。勝手に中学校に入っていいのか疑問だが、ナーシャが行ってしまっているのだから仕方がない。

「見て、静かで素敵な湖でしょう。この湖ではね、毎年一人ずつ、この中学校の生徒が溺死しているのよ」

 いかにも不気味な言い方をするナーシャだが、その必要などないくらいこの湖は不穏な空気を漂わせていた。ナーシャの言うように静かな湖だが、それは静かで素敵だというようには俺には思えない。静かにするようにという看板が立っていても、これほど静かにはならないだろう。まして学校であれば静かにするようにとなっているかもしれないが、実際、中学校でこんなに静かなはずはない。夜ならばこの不気味さも静かさもわかるけれど、今は昼なのだし、学校も休みではなくて校舎や校庭には中学生がいるようなのだ。

「は、墓? 学校の中に墓があるの?」

 ふと俺がいるすぐ近くに並んでいる石が墓石であると気が付いて、この中学校の生徒が溺死しているというナーシャの言葉が改めて俺の頭の中で繰り返された。足元で白い旗が揺れている。

 普通に考えたら生徒が毎年溺死するような湖なら立ち入り禁止になるだろう。それでも毎年溺死してしまうようなことであったら、そんな学校は問題になって、通うような生徒もいなくなるだろうし下手したら潰れたり先生が逮捕されたりすることだろう。一度の溺死は事故になるだろうが、毎年だったら連続殺人として事件になる、大事になってニュースでも報道されるようなことになるはずだ。そこまでいってもまだ溺死が続くとは思えない。

 毎年一人ずつとナーシャは言っている。数える気はしないけれど、立っている墓の数を考えると毎年というのが二三年の問題ではないことがわかる。

 異世界らしいところはあまり感じられないにしたって、ここはナーシャが連れて来た異世界なのだというのだから、常識的に考えてということは通用しないのかもしれない。異世界という話だって未だに信じられてはいないけれど、いつも通っている高校にいたはずの俺が知らない山の中の中学校にいるということが起こってしまっているのだから、それに関しては信じないわけにはいかない。そうなったら、悪霊の仕業、呪いによるものということだってあるのかもしれない。


 俺はこの中学校の生徒ではないのだから、引き込まれて溺死することになってしまうようなことにはならないのかもしれない。それでも、何人も中学生が死んでいるようなところにいることは気分が悪く、すぐにでもこの場所を離れたかった。

「こんなにも広い学校なのに、入学してくる生徒は一気に減ってしまっているそうよ。一度にいくつも新しい学校が造られたからというのもある。でも、そんな言い伝えがあるのではね。そんなわけで、たくさんある部屋もいくつも空いてしまっているそうね」

 何度も俺の心の中の声と会話をしているナーシャなのだから、俺の考えていることなんてはっきりとわかっているはずなのに、彼女はわざとかというくらい動きもせずにゆっくりと話し続けていた。わざとかというか、たぶんわざとなのだろう。

「寄宿生が今までは一つの部屋に七人もいたようなのだけれど、今はもう二人か三人かだけしかいないのだそうよ」

「え? 何が七人?」

「ああ、寄宿生って知らない? 寮生って言ったらわかる? こんなところで話の腰を折られる予定ではなかったのだけれどね」

 あからさまに苛立ちを浮かべて、俺のことを馬鹿にしていることが伝わってくるようなナーシャの声だった。ナーシャが俺の好みを打ち抜く最高に可愛い美少女じゃなかったら怒っているところだった。

 しかし寮ということはやはりスポーツの強豪校なのだろうか。中学校から寮生活なんて大変だな。一部屋で七人は多すぎるから、二三人になったのならそれはちょうどよくなったんじゃないか。

「一つの部屋に、深谷と安岡と呼ばれる五年生がいたみたい」

「五年生? ここ中学校じゃないの?」

「ああ、もう、うるさいわね! 黙って聞けないの?」

 ホラーっぽくナーシャは話してくれているけれど、それよりも気になるところがありすぎて話は全然入ってこなかった。

「面倒ね。いっそのこと、建物に入っていっちゃう? 見つかったら怒られるだろうから、こっそりね」

 こっそり校舎に入るというのが許されるとは思えないけれど、というかそもそも学校の敷地内に勝手に入ることが許されるとは思えないけれど、でもナーシャが行ってしまうんだったらこれもまた仕方ない。だってこんな知らないところに一人で残されたって困るし、何よりこの湖の近くにいたくないという気持ちが大きかった。


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