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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
かすかな声 太宰治
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かすかな声 1


「いきなり異世界送りにされてその反応はないでしょうと思ったけれど、案外あなたはその反応だから何も言えないわね。戸惑いも騒ぎもしない、意外な根性は作者譲りだったのね」


 ナーシャの言うように、確かに異世界に連れて行かれることになった主人公はもっと驚かせるべきだったかもしれない。実際こうなってみて、俺は驚きでどうかしてしまっている。実際には喋っていないわけではあるけれど、逆に冷静な受け答えが出来るくらいには俺は動揺している。

 しかしこうなってしまったからには、信じるより他はないとも思う。だから俺は馬鹿正直に信じるのだ。これからどんな展開になって、どんなことをさせられるのかわからない不安はいくらだってあるけれど、せっかく夢の異世界に行けるのだからネガティブに考えることもないではないか。浪漫や夢の力によって無理難題や絶体絶命の危機を超えて行こうというときには、信頼して着いて行くのが一番なんだから。ナーシャと運命を共にして、信じて行こう。


 そもそも信じる能力のない人たちは負けるんだと思う。主人公たちがいつだって信頼し合っていることがその証拠だ。黙って信じて、黙って進んでいくのが一番正しい。俺の小説に対して文句を言っている、嫉妬しているような人たちなんかは心が穢れているものだから、黙って信じるようなことは出来ないのに違いない。人のことをとやかく言っている暇があるのなら、自分がどうなのか考えてみたらいい。

 なんなら俺はこの機会に、自分のことを深く調べてみようと思っているくらいだ。ナーシャの言葉は厳しいけれど、嫉妬で誹謗中傷している才能のない人たちとは違って、俺を更にパワーアップしてくれるきちんとしたアドバイスだと思える。それはナーシャのことを信じているからこその俺の大人な発想なのだと思う。今は、絶好の機会じゃないかと。


 これだけ可愛いナーシャのことを信じて敗北するのなら、悔いはないというような気持ちもある。敗北してもナーシャと一緒、それでずっとナーシャと一緒にいられるというのだから、それならばどこにも負けはないようなものだ。それこそ心ないコメントに傷付きはしないし、理解の出来ない人たちによって笑われても恥ずかしいとは思わない。それでも、信じての失敗は清々しい想いでいられる、耐えられるとは言ったけれども、やはり信じて成功したいものだ。


 それに、騙される人よりも騙す人の方が数十倍苦しいだろう。地獄に落ちるんだからね。


 文句を言っている人だって同じだ。俺の小説が面白いと思っているのだったら、悪口を言わずに黙って信じて着いてきてくれたらいいのに。ランキングに乗ったときは嫉妬の嵐だったけれど、名作がここにあると感想やレビューが言っているのだから、書籍化とアニメ化のロマンを信じて着いてきてくれたらいい。俺からの印象を悪くするよりも、今のうちに俺と交流を持とうとしておいた方が賢いに決まっている。少なくとも俺はそう思っている、そう思えるくらいに自分を信じている。だって、自分とナーシャの他、信じるべきものは他にないのだから。


 まず悪口ほど簡単なことはない。そうやって優越感に浸っているような気分になれるのかもしれないけれど、それが一番蔑まれるようなことだと気付いていないのだ。他人の甘えを批判するという甘えを知らずに、自分の甘えは美徳のように考えたがるのだから、そういう人間にだけはなりたくない。


「その感じで、信念だけはしっかりしているのね。あなた、太宰治って知ってる? 意外にもちゃんと本を読む方なの?」

「馬鹿にするなよ、太宰治くらい知っているよ。昔の人だろ?」

「……そう。知らないなら知らないでいいわ。そっちの方がかえってすごいくらいよ。じゃあついでに、ちょっと質問に答えてもらってもいい? それで行き先も決めましょうか」


 異世界というのはそういくつもあるものなのだろうか。行き先を決めるような質問というのがどういったものなのか。その前に、今ナーシャに褒められたのか貶されたのかどちらだったのだろう。


「そうね。じゃあ、生活とはなんだと思う?」

「え、生活? うぅぅぅうん、なんだろう」

「難しかったら無理した答えを出さなくてもいいのよ」

「うんんんんんんんんーー、生活とは。我慢かな」


 我慢が出来なくなったらそれは敗北の兆しだ。いや、むしろ我慢が出来なくなって他人に悪質な絡みをするようになったら、それはもう敗北だ。


「それじゃあその敗北って何?」

「悪いことをしてしまうことだろ」

「悪いことって? どういうこと?」

「それは……っ。自分が他人を傷付けていることに気付かないことだ。むしろ悪意を持ってやっていることの方が、まだましなくらいだね」


「自信って何?」

「未来を信じていることかな。というか、この哲学みたいな質問をずっと続けるの?」

「ええ、続けるわよ。あなたが答えてくれるからね。それにしても、今の自分を信じることではだめなの?」

「だって今の自分は信じているに決まっているでしょ。今はそれを信じて動いているのだから、もしそれが信じられないのなら別の信じられることをするのが当たり前でしょ? そんなのって参考にならないじゃん。馬鹿って言ってもいいくらいだね」


「当たり前……ねぇ。ま、それも高校生らしくていいじゃないの。そこまで言うのなら聞くわ、あなたには自信がある?」

「ある」


「それが聞けてよかったわ。もうこれで私は満足なくらいなのだけれど、もう少しくらい聞いてみようかしら。あなたにとって小説とは?」

「ずっとさがしてーたー」

「つまらない回答ね。プロでもないのに言ってて恥ずかしくないの? 著作権としてもアウトよ」

「つ、つまらないものだ! 小説とはつまらないものだ」


「おや、その強がりは好き。最高の誤魔化し方ね。じゃ、小説家とは?」

「え、ああ、うぅ、それは」

「遅いわね。せっかく褒めたのにすぐこれ?」

「そうだよ。つまらないものしか生み出さない、俺は小説家だからな」


「調子に乗らないで。あなたは小説家ではないでしょ?」

「でも、調子に乗ることで小説は出来るから。絶対、すぐに小説家になるから」


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