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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
勉強記  坂口安吾
33/41

勉強記 1


 今度はちゃんと外に出してもらえたのだけれど、ナーシャはこれからどこに連れて行かれるかわかっているのだろうか。中世ヨーロッパな街に戻されて、街から出ようと思ったらあんなに怒られたはずなのに、門番なんかいない駅に連れて行かれた。電車なら出入りは自由だったというわけなのだろうか。それとも切符をチェックするこの駅員さんが門番くらい厳しい人なのだろうか。もしかしたら、案内してくれているこの人がいなければ、切符を買うのも難しいことだったのかもしれない。

 今度こそ、このなんか怖い街を出られるのだろうか。脱出することができるのだろうか。駅があまり街に馴染まないような気がして、それも怪しいような気がして、本当はナーシャの手を掴んで逃げたいくらい不安だった。それでも逃げる場所なんてないし、ナーシャを信じようという気持ちで俺は電車に乗った。

「不自然は不自然よね。いかにも近代といったようなこの駅舎。この街に本来であればなかったはずのものだし、ここから東京に行くことになるとしたら、そんなおかしなことってないわ」

 ナーシャもおかしいと思っているらしい。でもこんななんかアメリカとかみたいな外国の街から、いきなりナーシャが言うように東京に行くということだったら、それは飛行機じゃなくちゃ変に決まっている。そしたらここはやっぱりテーマパークの中とかで、実は外国じゃなくて千葉にいるっていう可能性の方が正しいのかもしれない。


 でもナーシャと電車に乗るのはなんだか久しぶりで、二人でこれから旅行に行けるような楽しみな気持ちがあった。そんな場合ではないことはわかっていても、せっかくナーシャとこうしていられる時間だけでも、楽しみたかった。深刻な空気とかは好きじゃないし、この電車の行き先がどこだったとしても、たぶん着いたら嫌でもそういう空気になっちゃうんだと思う。

 だから旅行気分を楽しめるのだって、今だけなのだろう。だから。

「楽しみたいところだけれど、ごめんなさい、邪魔が入りそうだわ。先手を打ち続けるしかないのかしら」

 邪魔というのは謎の美少女のことで間違いないだろう。また何か心を読むようなことをしているのか、気配を感じるとかそういう特殊能力があるのか、ナーシャには異変が感じ取れているらしい。

「あなたと一緒にいられる私はかなり有利だわ。そう、有利だわ。居場所を知られなければ私が負ける道理がないのだもの。大丈夫。あなたが私の味方でいてくれるのだもの。私なら大丈夫」

「どうするの?」

「私の力の限り移動をし続けるつもりよ。きっとあなたには負担をかけることになってしまうでしょうけれど、どうかお願いね。私、頑張るから」

 笑える状況じゃないはずなのに、ナーシャは楽しむことも邪魔されそうって言っているのに、それでもナーシャが向けてくれる表情は笑顔だった。

 その可愛さも悔しいくらい、ナーシャは綺麗に笑っていた。



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