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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
蝋人形 小川未明
32/41

蝋人形 4


「取り調べをするそうだ。出ろ」

 人が近付いてきているのが見えたから俺もナーシャも黙って様子を見ていたら、また外に出されそうだった。さっき言っていた取り調べをもうやるらしい。

「これはあなたが悪いというわけではないけれど、その言葉を信用することができないわ。先程、出ろと言う指示に従って痛い目に遭ったものだから。どなたかからのご命令だったら、この理由をそのままお話しして、私たちがお断りしたことを伝えてちょうだい」

「そういうわけには」

「あのね、こっちは一回騙されているのよ。また素直に従って、脱獄がどうのと言われても困るわ」

「呼ばれてい」

「先程も私たちは呼ばれたのよ。それで外に出たのに、わけのわからない部屋で待たされて散々言われたんだから。冤罪もいいところよ」

 こんなにナーシャは小さくて可愛らしいのに、強そうな男の人を圧倒していた。相手に話させることなく、完全にナーシャに怯んでいるようだ。このまま外に出ることなくずっとここにいるわけにもいかないだろうけど、今は俺とナーシャは作戦会議中だし、世界を変えるどうの言っているんだからやろうと思えば本当はいつでも出られるのかもしれない。


「こんな場所に閉じ込められているからなのか、ヒロインの座をかけた能力勝負はもう始められているのか、どうにも力がちっとも回復しないのよね。一度あなたの部屋に戻るということもできそうにないから、あまり遠い世界にも行けなさそうなのよ。あなたが期待しているほどのことは、今の私にはできないの。ごめんなさいね」

 人がいなくなったのを確認して、ナーシャは髪を弄りながら話し続ける。

「せめてどの小説の中を歩いているのかがわかれば、私としても対処がしやすいだろうと思ったの。あいつにヒントをもらって特定はできたにしても、それが本当かどうかもわからないし、変に歪められている可能性もあるでしょう? 既に物語の道筋からは外れているのだから、何が起こるかわからないじゃないの。だから私たちが救われるような世界を選ぶことができたわけでもなければ、自由自在に物語を操れるというわけでもない。ただ物語の未来が少しだけわかる、それだけのこと。彼女が選んだとされる小説とも私が選んだ小説とも、今の状況は異なっているものだから、私とあなたの情報量はほとんど同じだと思ってちょうだい」

 俺は何もわからない。ナーシャもそれくらい何もわからない。今までとは違って、本当に今回は俺とナーシャの異世界冒険というわけだが、そろそろいい加減どこかで俺の特殊能力が目覚めてもいいんじゃないかと思うんだよな。

「しつこいわね。まだそんなことを言っているの?」


 怒っているような呆れているような、ナーシャはそんな様子だけど、異世界転生した主人公がチートステータスになってたら面白いじゃないか。普通の高校生だった主人公が最強の勇者になっていたら面白いじゃないか。

 本当はわかっている。この設定がいくら俺が発明した新しい天才的な展開だと言っても、実はそういう設定の作品が存在すること。俺がパクったなんてそんなわけはないけど、俺が思い付く前に、同じことを思い付いているプロがいることは知っている。でもその中でも、実際に異世界に行ったのは俺だけのはずだ。それならどうして俺だけが主人公たちのようにチートステータスを持っていないのだろうか。どうして俺だけが、物語の主人公のように戦うことができないのだろうか。どうして俺だけがこんなにも無力なままで、こんな場所に閉じ込められているのだろうか。

「あんたら二人、早く出な。お前らには人形屋に行ってもらうことになったんだ。ちょうど丁稚を欲しているらしくてね、あんたらみたいなんを引き取ってくれるって言ってるんだから、ありがたく働くんだね」

 次から次へと忙しいもので、また牢屋の外から声がかかった。またナーシャが追い返してくれるだろうと思ったら、隣を見ればナーシャの顔いっぱいにびっくりと書かれている。何にそんなに驚いているのだろう。


「はっ、はは、どこに連れて行かれるのかしら。まさかこの世界観で、東京からだれか来ているなんてことがある? 東京での暮らしがどうであったのか、小説に詳しくは書かれていないけれど、どんな東京だったとしてもここよりはましよね。自由に逃げ出せるでしょう。もっとやりやすいでしょう。たぶん、たぶんだけどね」

 笑いながら話すナーシャは、ちょっと不安そうだった。俺が見てもちょっと不安そうに見えるってことは、めちゃくちゃ不安なんだと思う。

「ほおら、あんたら他に働き口なんてないんだから、さっさと行くんだね」

 どんなにナーシャが圧かけても効かなそうな、強い圧で俺たちを外に出そうとしてくる。今度はナーシャはどうしてくれるんだろうと待っていると、彼女は開かれた扉からゆっくりと牢屋を出ていった。ナーシャが何を考えているのか俺にも読めたらいいのに。何をするのだろうと思いながら、黙って俺は着いて行った。


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