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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
蝋人形 小川未明
29/41

蝋人形 1


「私は一人の勇者を覚えているわ。そこは海に近い、爽やかな南風の吹くロストローズ共和国の都だったの。街は古い家が多くて、白を基調とした石造りの家々がいくつも並んでいたわ」

「ロストローズ共和国って」

「そう、一人の勇者とはあなたのこと。私はロストローズ共和国の皇女であり、あなたは王様で最強の勇者様、そして……神様」

「え?」

 原作者である俺が知らない設定が勝手に足されていて驚いた。国王であり勇者だということは最初に明かされちゃうから、後半で神様という事実が明かされるというのも面白いかもしれない。こうして本当にナーシャとの旅をした後に、続きをちゃんと書けるか心配ではあるけれど、これだけ名作の予感がしているのにそのまま終わらせるわけにもいかない。


「共和国なのに王様がいるのかとか、なぜ王女ではなく皇女なのかとか、そういった疑問はあるけれど私は王様の妹。あなたの妹。兄と妹でありながら、禁断の恋に落ちてしまいそうになるの。でも本当は、実の妹ではなく義理の妹。それ以前の問題として、恋愛要素を入れるのなら私の年齢設定をどうにかしろという話だけどね。ええまあ、そんなのは、後から実は大人だったような設定を付け加えるだけのことかしら」

「やらないよそんなこと。ロリばばぁとかも好きだけど、でも俺が書くならロリはちゃんとロリだ!」

「胸を張らないでちょうだい」


 ナーシャの言いたいことがわかった気がする。もしかして、ここは『普通の高校生だった俺に突然美少女すぎる妹ができて、妹のために異世界で無双することになった件』の世界なのではないだろうか。まだ名のない名作小説みたいなのをナーシャは選んでその小説の中に連れてきてくれているような感じだったし、それだったら、クライマックスで俺の名作が登場するのは自然なことなのではないだろうか。

 え、天才じゃん。絶対これじゃん。まだ小説として最初の部分しか書けてないから、これから先どうなるのかはいくらナーシャだってわからないだろう。俺のみぞ知るってわけだ。つまり、だからナーシャは俺のことを神様って言ったわけだ。名推理すぎる!

「迷うと書いて迷推理よと言いたいところだけれど、推理自体はそれほど悪いものでもないわね。だけどごめんなさい、そういうわけではないのよ」

 これは結局どっちだ。褒められたのか? 俺の推理は正しかったのか、それともこれほどの名推理でも間違っていたというのか。また微妙な感じでどっちだかわからないようにされてしまった。

「曖昧な言葉に逃げることが多かったことは反省しているわ。それでも今回はそれをしていないはずよ。あなたの推理は悪くないけ……、悪くないってわかりにくいかしら。あなたの推理は素晴らしいけれど、残念ながら間違っているわ。これでわかる?」


 もしここが俺の小説の世界なら、まだ完成されていないストーリーなのだし、これからいくらでも俺が俺の有利なように設定を作って物語を進めていける。もしここが俺の小説の世界なら、転生した俺はチートステータスのはずだ。ナーシャを守って助けることだって、ちゃんとできるはずなのに。

「お気持ちだけいただいておくわ。ありがとう」

 俺とナーシャが向かい合って見つめ合ってこんな場所でもロマンティックなくらいだったのに、ガチャンという音が俺たちの雰囲気を壊した。人が近付いてきていることにも全く気付かなかったが、どうやら鍵を開けてくれたらしい。外に出られるのだろうか。それにしても、ここまで気付かれずにやるなんて影が薄すぎるという話じゃないか。ひっそり俺たちを助けようとしてくれているということか。


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