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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
わるい王さま(伝説) Hans Christian Andersen 矢崎源九郎訳
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わるい王さま(伝説) 2


 もうナーシャが何も起こせなくなったなら、俺としてはそれはそれで嬉しいことだ。学校とかが元通りになるのは怠いけど、ナーシャが消えずにここにいてくれているのなら、それだって幸せには決まっている。怖いこととかが起こらずに、つまらない退屈な平凡な日常でも、ナーシャがいてくれるのならそれはもう楽しいに決まっている。

 チート能力もなく異世界に行ったって仕方がない。それだったら日常物で美少女がやって来てたまに変なことが起こって、波乱万丈ラブコメディの方が。いやそれにしてはヒロインの人数が少ない気はするけど、でもナーシャは可愛いし俺としてはナーシャ一人で十分だからな。


 あまり俺が不安になって、それがナーシャに伝わってナーシャが泣いちゃったりしたりしたら本当に耐えられないので、わからないことを悪い方に考えないようにしていた。いっそのこと俺とナーシャののんびりライフをと思っていた。

 そうしていたら、いきなり俺は体が空中に浮くような感じがした。どうしたのかと驚いて周りを見る間もなく、俺とナーシャはアメリカとかみたいな中世ヨーロッパっていう外国の街に立っていた。

「え? どうしていきなり」

 そう呟いたところを見ると、今回に関してはナーシャも何もしていないらしい。さすがにこの呟きが嘘だとは思えないし、わざわざそんな変な嘘を吐く理由もないもんな。

「森鴎外かしら。いえ、でも、街並みがそんな感じではないのよね。海外作品だったら私もあまり知識がないものだから困りものだわ」

 ぶつぶつとナーシャは何か言っている。観光地にも見えるような綺麗な街だけど、ナーシャが旅行に連れてきてくれたわけではないとなると、少し怖い。ナーシャが意地悪をしてくる子だけど、脅かしてくるだけで本当に危ないことはしないはずだ。ナーシャも知らないこととなったら、本当に何があるかわからないってことでしょ。慣れてきてるから怖がらせようとして演技してるとかじゃないんだよね。


「何かの小説の世界に連れて来られたのだと思うけれど、これをやったのは私ではないの。だからここがどこなのかわからなくって。それでね、ここがどこか特定するためにちょっと散歩してみようと思うのよ。どんな危険が潜んでいるかわからないわ。それだけ覚悟していてはもらえないかしら」

 不安そうな悲しそうな顔でナーシャはこちらを見ている。こんな顔をさせてしまうのが俺も悲しかった。

 しかしナーシャがやったことではないとしたら、ナーシャと同じ能力を持っている人が他にもいるということだろうか。ナーシャはこの力を神様にもらったようなことを言っていたよな。そうしたら、その人もまた神様に同じお願いをしたということなのか。

「だれがそんなことをするというのよ。私以外に、あなたのためにそんなことをする人がいると思ってるの?」

 ナーシャの言うように、俺たちにこんなことをしてくるということは、俺のためにやってるということなのか。そうなったら、ナーシャと同じように、俺が生み出したヒロインだということにならないか? 俺のことを想ってくれる美少女悪役なんて書いたか?

「美少女悪役とは言っていないわ。でもまあ、あなたの書いたキャラクターという可能性は考えられるわね」


 一番お気に入りで最高の美少女だと思っているのはナーシャである。最高で最強に可愛いメインヒロインだ。ナーシャの引き立て役になるようなヒロインや、盛り上げ役としての男キャラも書きはしたにしても、基本的にはナーシャが全てだ。

 別の作品はどうだろう。アンチにアンチされて、仕方がなく消してしまったような名作はどうだっただろう。『ニートの俺が異世界転生で史上最強になって、ラブコメ青春を謳歌して人生勝ち組な件』通称ニーコメは、マリアという清楚系美少女がメインヒロインだった。とっても心優しくて穏やかで可愛らしいから、マリアは悪役になるような子ではない。絶対に俺の邪魔をするようなことはしない。最新作のメインヒロインなだけあってナーシャがより最強の美少女とはなったが、それでもマリアも最高の美少女である。

「マリアがナーシャに嫉妬して、ってことか」

「勝手に結論を出さないでちょうだい」

 もしかしたら俺がマリアのことを考えているせいで、ナーシャも嫉妬してしまったのかもしれない。理想的な最高の美少女二人に取り合いされるとは、それでこそ異世界だ。


 マリアはどこにいるのだろうと探しながら歩いていると、パレードのようなたくさんの人たちが歩いてきた。たくさんの宝石とかを運んでいるようで、すごい祭とかなんだろうと思う。

「壮観ね。立派な建物ばかり、それに、どれも新しそうだわ」

 口を開けてパレードに見入っていたナーシャだけど、少ししたら飽きてしまったのか、ナーシャは街の感想を言い出した。この古い街並みのどこが新しいというのか不思議だったけど、聞いたらナーシャは専門家みたいな説明をしてきた。ナーシャが新しいというのだから、映画のセットみたいな感じで、新しくこういう街並みを作ったということなのだろう。

 だとしたら、ここは遊園地みたいな場所なのかもしれない。綺麗な街に派手なパレード、そう思ったらそうとしか考えられない。テーマパークの中に入ってしまっていたんだ。

「ナーシャ、そういう小説はないの?」

 辞書のようにどんな本でも頭の中に入ってるんだから、ナーシャなら知っているはずだと聞いてみる。それにナーシャが知らないとなったらそんなものは存在しない。つまりここは小説の中ではないということだ。

「そっち?」

「何が」

「少し驚いただけよ。で、ええと、テーマパークを舞台にした小説ってことよね。それだったらいくらでもあると思うわ。でも、絞れるような情報はないわよね。この様子、印象だけで、判断するのは難しいのよ。似たようなものはたくさんあるけど、これと言えるような特徴がないものだから」

 知識がありすぎちゃってるから逆にってことか。


「ここが小説の中ではない、というようなことはさすがにないと思うわ。もしあなたの夢物語が終わってしまっているのなら、もしあなたが現実に帰ってしまっているのなら、ここに私がいることの説明がつかないもの。も、もしかしたら、街の外にヒントがあるかもしれないわ。少しここを離れるとしない?」

 街の外にヒントが多いっていうのはさすがナーシャである、鋭い。それよりもナーシャは街の中が居心地が悪いというように見える。だけど外に出たらここがテーマパークなのか本物の街なのかもすぐにわかるし、天才的意見だとは思う。

「そうね。よくわかったわね。私はこの街にいたくないのよ。人々も不気味だし、建物も不気味だし、知らない世界というのは想像していた以上に気持ち悪いのよ」

 パレードに冷たい視線を向けて、ナーシャはすたすたと歩き出した。今までも俺はナーシャに連れて来られるだけだったから、街についての感想としてはこれまでと変わらないんだけど、ナーシャとしてはそうなのだろう。彼女は今までは自分で行き先を選んでいたんだから、いきなりこんなことになったらそれはまあ不安だよな。


 人の流れに逆らって俺たちはパレードから離れていく。街の出入り口は、門番みたいないかつい人たちが守っているようだった。

「許可状を出せ」

 緊張しながらもなんでもない顔をして通り抜けようとしたのだが、見逃してはもらえず死にそうになるような厳しい声がかかった。怖い。なんでこんなに怖いんだ。ただの門番の人のはずなのに、それなのにどうしてこんなに心から怖いっていう気持ちが湧き上がってくるのか。

「ごめんなさい。持っていないの」

「どういうつもりだ! 国王陛下の命令に背く叛逆者かっ!!」

 さすがなものでナーシャは冷静に答えたのだけれど、ちゃんと謝っているのにありえないくらい怒鳴られた。隣にナーシャがいなかったら、俺はもう完全に崩れ落ちるか泣き出してしまったかもしれない。いくらなんでもそんなことはないと思いそうなところだけれど、この人の迫力にはそう思ってしまうようなところがあった。

「違うわ、そういうつもりではなくて、私たち本当に知らなかったのよ。許可状がないとならないというのなら、ごめんなさい、街に戻るわ」

 怯みもせずによく平気で答えられるものである。ここがどういう場所なのかナーシャにだってわかっていないというのに、つまりは今回に限っては条件も同じはずなのに、ナーシャがこんなにかっこよかったら俺の立場がないってものである。そんなナーシャも可愛くて好きだけど、何においても完璧であってこそナーシャって気持ちもあるんだけどね。


 国王陛下とは何のことだろう。どうせ会話はナーシャがしてくれるだろうと思って、少しずつ落ち着いてきた頭で考えてみた。考えてもわからない。以上。

「知らなかったはずがあるか。余所者か!」

「え、ええ」

「正直なものだな。覚悟が決まっているのか、何か罠でも仕掛けているのか?」

 そんなこんなで、わけがわからないうちに俺たちは牢屋に入れられてしまっていた。


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