星5
作詞したのは久しぶりだけれど、ナーシャがいてくれたおかげで次から次へと言葉が湧き上がってきた。そもそも作詞なんて考えてやってる時点で間違っているんだ。こういうのは感覚だからね、感覚。
「スタンスが腹立たしいのよね。どうしたい?」
「え、どうしたいって?」
「前回は私が計画を練り直すための休憩、今回は休憩というわけではなくて、あなたに詩を詠んでもらおうと思っての企画だったわ。そしてあなたは私の期待程度の詩は用意してくれたわ。だからどちらに進もうかと迷っているのよ。……甘やかしすぎているから、やはり厳しくするべきかしら」
彼の親切心に甘えて二日間も居座ってしまったけれど、あまり何日も住まわせてしまうのでは迷惑だろう。そして起きている間中、彼もナーシャも俺に作詞させようとしてきた。求められて嫌な気はしなかったし、隣にナーシャがいてくれるおかげで頭を悩ませることはなかったけれど、そろそろ退屈し始めていたところだった。彼にも申し訳ないからと思っていたところで、ナーシャが次の世界の提案をしてくれたようだった。
今度はもっと楽しいところに行きたい。ナーシャとの旅行は何であっても楽しいのだが、最初からナーシャは俺のことを怖がらせてばかりの悪戯っ子だから、……ん? でもこうして親切さのままに寛ぐだけの場所で、俺はもっと楽しいところに行きたいなんて言っている。それだと最初の方の、怖い方を望んでしまっているようじゃないか。
せっかく異世界なんだから刺激がほしいのは確かである。やはり俺が一番望んでいるのは、刺激的な異世界であり、俺が最強の勇者としてたくさんの女の子にモテモテになりながらも、ナーシャ一人を守って愛しながら進んでいくところだ。今のところ、一回も俺は最強の能力が手に入っていないし、俺にでれでれのヒロインだってナーシャしか登場していない。いや、ナーシャがいれば十分だけど、ナーシャがいたら十分か。
「気持ち悪い自己完結の文章ね。今のところって、最強の能力がいきなり手に入るような予定はないわよ。まだそんなことを言っているようで安心したわ。次の行き先の迷いが、一気に全てなくなったもの」
にっこりと笑って、ナーシャは一枚のメモを残した。そこには『いざ去らば雪をいただく高峰』と書かれている。意味がわからないが、いつの間にかナーシャは彼と暗号のようなものを決めていたのだろうか。俺を仲間外れにしていたのだろうか。
「行くわよ」
部屋を出て、彼女は手を差し出してくる。その手を握ると体がふわふわと浮き出した。とても寒くて仕方がないけれど、夜空に浮き上がるナーシャは織姫のようだった。彼女が笑顔を向けてくれている。それじゃあ、俺は彦星に見えているのだろうか。そう思っても、いいのだろうか。少し欠けた月、あれがカフェを照らしたような満月だったら、星がこんなにも綺麗に見えることはなかったのだろう。




