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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
星 国木田独歩
21/41

星3


「はっくしゅん」

 自分のくしゃみで目を覚ました。寒い寒い寒い寒い寒い。布団がほしいと思って立ち上がったところで、外から声が聞こえてきた。歌だろうか。幽霊かもしれないという思いを掻き消すために外に出ると、詩人らしいあの男性が歌っているところが見えた。一先ず安心である。

「おはよう。腹が減っただろう。何か食べたいものはあるかい?」

 こちらに気が付くと、彼は歌を止めて話しながら近付いてくる。何も恐ろしいところはなく、悪意も感じられない。こんなにもただ優しい人物は、どうにも疑ってしまうものである。今までの俺であればそんなことはなかったはずなのだけれど、ナーシャが不安になることばかりしてくるから、疑ってしまうのだ。

「なんでも大丈夫です」

 身構えながらも答えると、彼は微笑みながら俺を手招いた。ナーシャはまだ寝ているようだけれど、置いていってしまっても大丈夫なのだろうか。彼女は何もかもわかっていそうだけれど、今回は少し不安そうでもあった。俺に見張りを頼んでいたくらいであるのに、彼女を置いて行ってしまっても大丈夫だろうか。


 彼が用意してくれた料理は、ご馳走というほどのものではなく量が多いわけでも豪華なわけでもなかった。

「いただきます」

 食べてみれば、感動するほど美味しいわけではないが、なぜだか落ち着くような美味しさがあった。

「どんなものが好きなのかな」

「あんま好き嫌いとかが多いわけじゃありませんけど、でも美味しいですよ」

「はは、食事の話じゃないよ」

 どうして笑われたのか、俺には意味がわからなかった。食事中に何が好きかと聞かれたら食べ物の話だと思うだろう。食事の話じゃないというのなら、じゃあ何の話をしているというのか。

「自然は好き? それとも恋の歌とかの方がお好みなのかな? 悪いね。元来あまり人と話すのが好きな方ではないのだけれど、最近は本当に出会いがなかったものだから、楽しくなってしまってね。嫌だったら黙るけれど、どうだろうか」

 彼の笑顔は本当に人が好さそうだった。彼の言葉に嘘はないだろうと思えた。話していて、嫌に思うところも腹が立つところも怖ろしいところもない。全て俺の疑いすぎが悪かっただけなのだと反省する。


 気持ちは俺もわかる。基本的に美少女以外と話すのは好きじゃないし、ナーシャみたいな美少女ならともかく、クラスの女子とかは大体どうでもいいことばかり話していてくだらない。というかクラスの奴らはしょうもないことに夢中になっているから話したくないけど、でも小説を書いている友人とかが現れたら俺だってテンションが上がるだろう。なんかつまり彼が言っていることはそういうわけなのだろう。

「恋愛を入れはするけど、でも恋愛だけでは書きませんね。恋愛ファンタジーとかが多いです」

「ふぁんたじいか。若いのにと思われるかもしれないが、私ははいからなものがあまり得意でなくてね。古臭いものばかりを好んでしまうのだよ。私と君とは正反対とも呼べるようなところだろう、よろしければだけれど、君の詠む歌を聴かせてはもらえないかな」

 興味津々といったように、前のめりになって彼はそう提案してくる。カラオケとかだってあまり行かないのに、歌を聞かせてくれといわれても緊張する。歌は専門外だ。

「私にとってはお気に入りの庭なのだけれど、君の創作意欲も刺激するものであったら嬉しいな。仕事で創作をしているわけでないのだから、無理に作るようなものでもないがね」

 わざわざ難しい言い方をしているが、つまり、全然タイプが違うから同じテーマで詩を創り合おうということか。ネットで一回だけテーマで小説を書くみたいなのに参加したことはあるけど、実際にこうやってやり合えるのは面白そうだ。

「結論は完璧に読み取れたのね。どういう思考回路しているの?」

 いつの間に起きていたのか、いつからそこにいたのか、後ろからナーシャの声が聞こえてきた。起きたときに俺がいなくて寂しかったかもしれないが、ナーシャはツンデレではないので「何よ馬鹿!」と照れ隠しに殴ってくるようなことはなく、でも強がりなのでなんでもない顔をしてこっちを見ている。そんなナーシャも可愛い。

 テーマとか関係なく、ナーシャがいたらナーシャのことを語りたくなってしまう。詩の依頼があったにしても、ナーシャに向けた詩を書きたくなってしまうに決まっている。それもこれもナーシャが可愛すぎるのが悪い。そうなったら恋愛の詩ということになるのだろうか。俺が向ける感情は恋愛なんてくだらないものじゃないけれど、彼女を想うものという意味では凡人には恋愛と同じに感じられるかもしれない。


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