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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
星 国木田独歩
20/41

星2


 それにしても、夜とはいえどんどん寒くなってくる。あまり眠くはないけれど、涼しいが肌寒いになって、今となっては凍えるほどに寒い。薄着で歩いていい寒さじゃない。

「私に何かご用かな」

 後ろから若い男の人の声がした。一瞬カフェの彼かと思って振り向いたが、失礼だけれど、そこに立っていたのはあんなイケメンじゃなかった。大学生くらいだろうか。顔がいいわけじゃないけど、不思議な魅力のようなものがある人だ。

「いえ、こんな時間にごめんなさい。少し休める場所を探しながら歩いていたところなの」

「なるほど、それなら私の家でお休みして行ったらいい」

 彼はふんわりと優しそうな笑顔を浮かべた。背後から彼を照らす強い光、今度こそ本当に夜明けのようだった。徹夜で歩き続けることにはなってしまったが、どうやらこの男性の家で休ませてもらえるらしい。

「わかりづらくて悪いね。気付かずに入ってきてしまったのだと思うが、ここは私の家でね、広くて自然があるお気に入りの庭なんだ」

 あまり知らない人に話しかけていかなそうな人だと思ったら、間違えて俺たちが彼の家の庭に入ってしまっていたのか。それなら用があるのだと思われても仕方がない。でもどこから庭だったのだろう。広い家だ。

「君たちはどこを目指していたんだい?」

「どこかを目指していたというわけではないわ。歩いていたの。そうして歩いている中で、少し疲れてしまったものだから、休める場所がないかと今度は歩いていたの」


 ナーシャはにこにこと笑っていた。俺はナーシャが大好きだけど、なんだかこの笑顔は不気味だった。彼は少し首を傾げてから、何がおかしいのか、声には出さずに静かにけれどおかしそうに笑った。

「君たちも詩人かい?」

 彼の問いにナーシャは答えず彼女は俺の方を向いたものだから、俺が何か言わないと終わらないというように、ものすごい圧で二人は俺の方を見ていた。詩人というわけではないが、小説家ではある。詩は小説よりも短いし、俺なら書こうと思えば書けるだろう。

「詩人というほどではありませんが、そんなようなものです」

 中学のときはよく作詞とかもしてたが、それも今はあまりしないから、詩人かと言われるとそういうわけじゃない。でも俺は詩人じゃなくて小説家だ! とわざわざ言うのも変だから、似たようなものだろうと俺はなんとなくで返事した。

「はは、そんなことを言われてしまったら、私としても自分で詩人だと名乗るのは恥ずかしくなってしまうね。私の詠む詩も言えば趣味のようなものさ。時間の都合がつくときに、どうか話をさせてはもらえないかな」

 庭の広さに反して、それほど大きな家ではなかった。彼は俺らを小さな部屋に案内してくれて、それから少し悲しそうに笑って出て行った。どうして彼はあんなに悲しそうな顔をしていたのだろう。

「あなたはどうしてだと思う? 彼の気持ちなんて彼しか知らないし、あなたがどんな答えをしたとしても、私はそれを正解とも間違いとも言えないわ。だから、何かを感じたときにはその理由もまた考えてご覧」

 すぐにナーシャは国語の問題みたいなことを言ってくる。理由を考えるとか面倒なだけだし、登場人物はどんな気持ちだったでしょうみたいなのは本当に気持ちが悪くて意味がわからない。でもこういうときに限ってナーシャはとても優しい顔をしているから、俺はどんな気分でいたらいいのかわからないのだ。自分の気持ちがわからなくなっている中で、他人の気持ちなんて考えてられるはずがなかった。


「とりあえず、もう寝るとするわ。あなたはまだ眠くないの? こんなシーンは描かれていないし、何が起こるかわからないから、起きてるなら見張りをお願いしたいわ。私はここで寝るんだけど、見るくらいまでなら許すわ。触るのは止めてね!」

 俺が諦めたことを怒っているのかと思ったら、そういう雰囲気ではなかった。ナーシャが寝転んで目を瞑ったのを見ると、釣られるようにうとうとして、いつの間にか俺も横になってしまっていた。


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