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吾輩は蜘蛛の糸失格料理店  作者: ひなた
眉かくしの霊 泉鏡花
14/41

眉かくしの霊 4


 部屋で二人きりになると、ナーシャが俺に迫って来る。昨夜はロリコン童貞呼ばわりしておいて、やはりナーシャはツンデレだな可愛いな。

「それじゃあお風呂、行きましょうか」

 近付いて来たから抱き締めようとしたら、ナーシャは俺の腕を擦り抜けて部屋を出て行ってしまった。風呂、風呂だ、ナーシャと一緒に風呂だ!

「一緒に入るわけないでしょ」

「えー、なんで。せっかく一緒に泊まるんだから、風呂だって一緒にしよう。俺はナーシャと仲良くなりたいんだ」

「よくまあそこまで下心を丸出しに話せるわね」

「だろ?」

 ナーシャに褒められてご機嫌になりながらも、俺ははぐらかされてはやらなかった。どうしたって俺はナーシャと一緒に風呂に入りたいんだ。話題を逸らすことは許さない。

「すごい意志ね。仕方がないから、一緒に入るとしましょうか」

 勝利の言葉を獲得して、俺は喜びで思わずガッツポーズを決めてしまった。このあんまりにも可愛らしいロリと入浴できるなんて、もうどうなっても構わないまである。完全に勝ち組だな。

「私が先に行くから、ちょっと待っててね。私がお風呂に入ってから、後から来てね。着替え中はその、隠せないからさ、だって見ないでいるとか無理でしょ?」

 信用がないのが悲しかったが、俺としてもナーシャがそこで着替えているというのに少しも見ないでいるという自信はない。俺なら見る、間違いなく見るね。

「清々しくて結構よ。それじゃ、一分後にいらっしゃい」


 もう少し時間がかかると思ったのだが、まさかの一分しか時間を設けないということは、ナーシャとしても偶然を狙ってくれているのではないかと期待せずにはいられない。早く一分経ってくれよとナーシャに渡された手乗り時計の秒針を睨んだ。それにしても、よくこんな時計を持っているな。ちょっと昔の人とか、お洒落な人とかが持っているイメージはあるけど。

「ナーシャ、入るよ」

 一分が経過すると同時に、声掛けしながらも既に俺は更衣室の中に入っていた。ナーシャの姿は見えない。余裕で間に合ってもう風呂の方に行ってしまっているようである。残念だが仕方ない。俺もさっさと服を脱いで全裸のナーシャが待つ風呂場へと急いだ。

「遅かったわね」

 俺を待ち構えていたナーシャは裸ではあるのだろうけれど、体中が泡だらけで服を着ているときとあまり変わらないような気がした。でも可愛い。可愛いし、ナーシャが裸だと思うと見えなくても見えるような気がしてきた。

「あなたも早く体を洗って温泉に入るとしましょう。汚れているでしょうし、疲れているでしょう?」

「うん」

 上の空で返事はしたが、俺は体を洗い流そうとしているナーシャから目を逸らせなかった。遂に邪魔な泡がなくなると思って隠す間もないくらいに見ていたら、ナーシャが何をするまでもなく湯気が自然と現れて、ナーシャの体を覆い隠してしまったのである。洋服を着ているときよりも露出が少ないように錯覚してくるのだから不思議だ。

「え、何その特殊能力」

「当たり前じゃないの。エロ漫画じゃないのよ」

 髪を縛り上げてナーシャは気持ちよさそうに温泉に浸かる。元々セクシー路線とは程遠いナーシャだし、これはこれでやっぱり可愛くて堪らない。


 ナーシャも可愛いし温泉も気持ちいい。こんな天国が他にあるだろうか。ここにきてやっと俺は報われたのだ。俺だけのために存在する俺だけの最高の天国なんだここは。この旅行から帰りたくない。ずっとここにいたい。

「今日こそ喜んでもらえたようで何よりよ。それじゃあ、入浴後には食事も出るのだそうだから、そろそろ行くとしましょう」

 立ち上がって歩き出すが、ナーシャの体は相変わらず湯気に包まれてしまっているためタオルで隠さなくても何も見えない。少しの隙もない。

「ほらロリコン、のぼせるわよ。顔が赤くなっているのだから、早く出なさい」

 まるで母親のような叱り方ではあったが、こんなにも可愛いならロリじゃなくてロリばばぁだとしても最高でしかない。可愛いママがいてくれたら毎日が幸せだったろうに、あのばばあ。

「高校生にもなって親にばばあって。思っていたのだけれど、文章力以外もかなり幼稚よね」

「まあね」

 何を言われたのかいまいちわからなかったが、ナーシャの口調からして褒められたのだろう。服を着て手乗り時計をナーシャに返すと、風呂にのぼせたのかナーシャにのぼせたのか、幸せ気分で俺はもうスキップしてしまっていた。

「懐中時計のことを手乗り時計と呼んでいるの?」

 小さな声で何か言っているのが聞こえたような気がしたが、聞き取れなかったしたぶん褒めてくれているのだろう。それかナーシャも喜んでくれているのかな。大好きみたいなのが聞こえたし、小声で言うのなんてツンデレの愛の告白以外のなんでもないはずだ。聞き返したときのなんでもないわよ馬鹿も聞きたい気もするけど、本当に俺はラノベ主人公に相応しくない敏感さを持っていて悔しいものだ。

「わあ、すごい」

 部屋に戻るとすごく豪華な料理が何品も何品も運ばれてきた。外から見たときに古くてぼろいところだと思ったけれど、それもそういうコンセプトになってるということでわざとだったのかもしれない。中は綺麗で過ごしやすくて、温泉もよくて料理も豪勢で、田舎風の高級旅館なのか。

「あ、ありがとうございます」

 案内もしてくれたスタッフが温かい茶を淹れてくれる。俺たちが食べている隣でずっと控えていてくれて、昨日とは圧倒的なサービスの違いである。昨日があったからまたよさが増してるということなのだろうか。昨日の宿が寒いってことも知っていたみたいだし、もしかしたらナーシャは昨日はわざとサービスが悪いところにして今日は天国のようにして、俺の運気はどんどん急上昇していくことを示しているのかもしれない。

「悪くない解釈ね。ぎりぎり合格で、最後まで素敵な旅としてあげましょう」

 不合格だったらどうなっていたものかと恐ろしいものだが、結果として合格だったのだから気にすることでもないだろう。


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