ラファエル3度目の恋 【前編】
「ラファエル!?」
「久しぶり!帰って来たのか?」
幼い頃同じ学園に通っていた仲間が声を掛けてくれる。
ウルタードを発って5年。まだ覚えてくれているなんて嬉しいことだ。
「うん。これからはずっとこっちにいるよ」
私ももう20歳。本来なら結婚していてもおかしくない年齢だ。久しぶりに会った面々も、奥方を連れている者が多い。
婚約者探しか。ちょっと面倒だな。
私の初恋はルーちゃんだ。プロポーズしたのも覚えている。でも、アルには勝てなかった。
2度目の恋はイメルダ。いまでもリィに負けたとは思っていない。ただ、イメルダが自分の立場や責任を放棄しなかった結果だ。
私が好きになる人は、心が強くて美しい人ばかりだから。
もう、次は政略結婚でもいい気がする。それはそれで、少しずつ仲良くなれると思うのだけど。
久方ぶりのウルタードでの夜会は懐かしい顔に囲まれ、楽しいものだった。
「ん?」
「どうした?」
「いや、向こうが騒がしい気がして」
遅れて来た人だろうか。それにしては不穏な空気だ。誰か、女性を一人囲んで揉めているのが見える。
「おい、待て!あれは死神夫人だ」
「は?」
「覚えていないか?トレド男爵令嬢だよ。一学年下の、貧乏だけど綺麗な子がいただろう?」
トレド男爵令嬢……成績も上位で見目も良く、一目置かれていた令嬢だ。私も何度か話したことがある。
「何故死神だなんて酷い呼び方なんだ」
少し腹が立った。女性にそんな失礼な呼び方をするなんて。
「すまん、名前を呼ぶより伝わりやすいからつい。
えっと、彼女は15歳で50歳半ばの伯爵に嫁いだんだ」
「……随分な年齢差だな」
「あそこは金に困窮していたから。で、一年くらいで夫と死別した。更に一年後、今度は70歳の老侯爵に嫁いだ。それから2年かな。また死別した。まあ、今度は高齢だったから仕方がない。
ただ、金の為に二度も高齢男性と結婚して死に導いた死神夫人と呼ばれるようになっちゃったんだ。まだ19歳なのにな」
「……それは、親が悪徳過ぎるだけだろうに」
「まあなぁ。でも、葬儀の場で金関係で親族と揉めて、死神め!って言われたのが始まりみたいだ」
子供は親も生まれる家も選べないのに。
「……ちょっと行ってくるよ」
「おいっ?止めとけよ。仲良かった訳ではないんだろう?」
「だから?それでも言葉を交わしたことはある。普通にいい子だったよ」
分かっていて助けないのは違うだろう?
「何故貴女の様な女性がここに?また男漁りかしら」
「次はどんな男性を死に導くおつもり?」
聞くに堪えない悪口が聞こえる。何故誰も止めないんだ。周囲を見渡せば、チラチラ見ながら口元が笑っている。人の不幸が酒のツマミか。
「失礼。トレド男爵令嬢、久しぶりだね。私のことを覚えているかな。オルティス家にお世話になっていたラファエルだ」
私の登場に周囲がザワつく。オルティス家の名前に反応したのだろう。王家が庇護するオルティス家。更に家としてだけで無く、アルもマリアも王家のお気に入りだ。
少し卑怯だけど、家名を使わせてもらう。
「……お久しぶりでございます」
とても綺麗なカーテシーだ。でも、その顔に笑みは無い。昔はとっても綺麗な笑顔を見せてくれたのに。
いつも一人で本を読んでいた少女は、すっかりと奇麗な女性へと成長していた。
「これからはまたこっちで暮らすことになったんだ。よかったらあちらで話をしないか?思い出話の相手を探していてね」
そう言って手を差し出すと、どうしたらいいのかと戸惑っているようだ。
「あの!思い出話でしたら私がっ!」
どこにでもいるなぁ。こういう、空気を読まずに私が!と突進してくるタイプ。
「ごめんね、君のことはよく覚えていないんだ」
にっこり微笑んでそう告げると、突撃令嬢は真っ赤になってどこかに行ってしまった。
「あれ?悪いことをしてしまったみたいだ。でも、なんせ5年ぶりだからなぁ」
そう言いながらもう一度トレド男爵令嬢に手を差し出す。
「やっぱり君しかいないみたい。駄目?」
ジッと見つめると、ため息を吐いてからようやく手を取ってくれた。
「貴方はあまり変わっていませんね」
「そう?君は綺麗になった。また昔みたいに笑顔を見せてくれると嬉しいのだけど」
思ったことを伝えると、何故か睨まれた。
何か駄目だったかな。
「とりあえず、久々の再会に乾杯」
「……クサイですね」
「辛辣ですね」
ジッと見つめる。昔と同じ、サラサラの黒髪にアメジストの瞳。やっぱり綺麗だよなぁ。ルーちゃんが喜びそう。
「私といると悪い噂が立ちますよ」
「そう?」
「ええ。今日だって本当に次の結婚相手を探しに来たんです」
んー。次の相手ね。
「またご両親が年寄りを探しているの?」
「……はい」
やっぱりか。だからそれが嫌で、自分で探そうと頑張ってここまで来たんだね。
「じゃあ、私は?」
「……は?」
「君の結婚相手。立候補してもいい?」
「…揶揄っているのですか。それとも憐れんでる?」
「揶揄ってはいない。少し憐れんではいるかな。でも一番は直感。君を一人にしておきたくないって思った」
駄目だなあ。どうしてこう、この人だ!と、すぐに見つけてしまうのだろう。
こうなると、僕は止まらない質なのに。
「レイナ・トレド男爵令嬢。結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」




