マリア(9)
本当に来てよかったのかしら。
お母様の勢いに乗せられた気がする。
「まだ悩んでるの?」
「……緊張しているだけよ」
こればっかりは仕方がないわ。私はお母様と違って小心者なの。我が家一番の小物だから。
「あら。でもお出迎えに来てくれてるわ」
「え」
えっ?どうして馬車止めにダミアン様が待機してるの?!
「まったく緊張の必要は無さそうだね」
「ね、若いって素晴らしいわ」
お父様もお母様も揶揄わないで!
「いらっしゃい、マリア」
馬車のドアを開けるとダミアン様が手を差し出してくれる。
「あの、ありがとうございます」
今までエスコートされても平気だったのに、今は手に触れるだけでドキドキしてしまう。
「ダミアン様、私達は陛下にお話がありますので、マリアをお願いしてもいいかしら」
「もちろんです!」
ああ!勝手に話が進んでいくわ!
「マリア、本当に困ったら大声を出して。必ず助けるから」
お父様のソレは嬉しいけど困るの。
「マリア、行こうか」
「……はい」
心臓がバクバクしてる。でも、いままでダミアン様もこんな思いをしながら何度も告白してくれたのかしら。
それは、申し訳ないけど……嬉しい、かも。
「今日のマリアは一段と可愛いね」
「んっ!」
ん~~~っ!!駄目ですよ、今は少しの刺激も駄目なんです、自覚したばかりだから!
「どうしよう。可愛い、真っ赤で目が潤んでて」
「えっ、あの、待って?」
「上目遣いは駄目だよ。いや、私にだけならいい。いくらでも」
なになになになに!?どうしたのかしら、ダミアン様がおかしくなったわ!
「マリア、大好き。私のお嫁さんになって?」
「~~~っ、私が言うつもりだったのに!」
「うん、いいよ。聞かせて?」
え、いまさら?ここまで来て私も言うの?
「……すき」
恥ずかしいっ、ダミアン様は凄いわ。よくこんな恥ずかしいことを何度も、
「嬉し過ぎて死にそう……」
そう言いながら私をぎゅうぎゅうに抱き締めてきた。
ちょっ、中身が飛び出しちゃうっ!
パシパシと背中を叩く。
やっと気が付いたダミアン様が力を緩めてくれた。
「ぷはっ」
「ごめん!嬉し過ぎてつい」
「は、はい、大丈夫です。あの、……待たせてごめんなさい。私を諦めないでくれてありがとう」
「……どうしよう。夢みたいだ……」
そう言って今度は優しく抱きしめてくれた。でも駄目よ、心臓がドキドキして破裂しそう!それにまだ婚約すらしてないのにこんな……
「ダミアン様、まだ駄目ですよ」
「まだ」
「だって婚約も結んでいないのに」
「婚約したらいいんだね?」
あっ、そ、そうなってしまうの?でもでも、
「ごめんなさい、私が子供で。でも、もう少し待っていて?急いで大人になるから」
こういう時、年の差が悲しい。もう少しで14歳。でも、まだまだ待たせてしまう。
「謝らないで。私と一緒になりたいと望んでくれただけでこんなにも嬉しいんだ。これからゆっくりと準備していこう。楽しみだな」
「……はい。ありがとうございます」
それから私達は婚約者となり、私は王子妃教育が始まった。……あれ?
「素晴らしいですわ。さすがダミアン様が選んだお方です。一度で覚えてしまわれるだなんて!」
……ごめんなさい。もともと知っている範囲でした。
どうやら、王宮に来る度、王妃様に教えられてきたことは王子妃教育の内容だったみたい。あとはお父様に教えていただいたことも。
あれ?これってよかったの?ズルじゃないかな。
「諦めて。私もだけど、父も母も君を婚約者にと望んでいたんだ」
それはお父様との繋がりを強くしたかったからよね?どれだけお父様が好きなのかしら。
「なんだか違うことを考えていそうだね。オルティス男爵は関係なく、いや、まったくのゼロではないけれど。それでも、私達はマリアだから望んだんだ」
「私だから?」
そんなことありえるかしら。
「私達はマリアがよちよち歩きの頃からメロメロなんだよ。やっぱり君の好きな所を1からすべて語ってみようか?」
「……大丈夫です。信じましたから」
「そう?いつでも言ってね」
ダミアン様の溺愛が凄い。もう、疑うことすらさせてくれないわ。
「ああ、楽しみだな。もう、婚約者なのだから王宮で暮せばいいのに」
「それは…、まだ家族と離れるのは寂しくて」
「分かってるよ。でも言いたくて。どれだけ私が君を欲しているか伝えないとね」
甘──いっ!!
ほら!護衛の方が遠い目をしてる!メイドさん達が生温かい目をしてるわ!
◇◇◇
ある夜、お父様に呼ばれた。
「どうしました?お父様」
「うん。そろそろ君の結婚式も近いから」
そうね。2年半は案外とあっという間だった。
何とか王子妃教育が終わり、式まであと一週間だ。
「ここを離れるのは寂しいです」
ダミアン様は大好き。でも家族も大好きなの。
「マリアは戻ってくるよ」
それは……
「いずれ、君達がこの家を守ってくれ」
「私達で良いのですか?」
「当たり前だよ。嫌かい?」
「まさか!ただ、私はここから出ていく身で、家を継げるだなんて思ってこなかったから」
ずっと一人だけ出来損ないだと思っていた。皆が違うと教えてくれて。今では自分が嫌いではなくなったけれど、ここを離れるのは仕方がないと思っていたのに。
「嬉しいわ。私はオルティスが大好きで、ここの一員であることが誇りなの」
「うん、私もだよ。だから、いつか帰っておいで。私達の宝を共に守ろう」
私とお父様は本当に似ている。オルティス家への感じ方も。そんなお父様に託されるなんて喜びしかないわ。
「ダミアン様もご存知なのですよね?」
「ああ、もちろん王家もだ」
「よかった。結婚することが、怖くも寂しくもなくなりました」
「ああ。幸せにおなり、マリア」
「はいっ」
式は青空のもと、厳かに執り行われた。
エルディアからはベルナルド国王と辺境伯であるリカルド様が来てくださいました。
「おめでとう、マリア。私の姪の花嫁姿を見ることが出来て本当に嬉しいよ」
周囲がザワッとする。だってエルディア国王と血の繋がりなどない。
「本当に。あんなに小さかったマリアがこんなに美しくなって。身内の結婚とは嬉しいが、少しだけ寂しいね」
いや、エルディアの英雄であるリカルド様とも血縁ではありませんよ?
「おじ様、お祝いに来てくださってありがとうございます」
でも、幼い頃からおじ様呼びだから、今更変えられないのよね。たぶん、お二人は男爵家の娘でしかない私の後ろ盾になって下さっているのだわ。
「私の娘になる予定だったのになぁ」
……陛下。爆弾は投下しないで。それは内々に終わった話ですよ。
「残念だ。身内になる予定だったが……
まあ、ずっとマリアのことは娘や姪のような存在だと思ってきたんだ。嫁いだとしてもそれは変わらない。
何か困ったことがあったらすぐに私達に連絡しなさい。いつでも助けに駆けつけよう」
「もちろん、私もだよ」
お二人とも甘々だなぁ。
「そのように言っていただけて本当に嬉しいですわ。でも、もう成人して大人の一員ですの。多少の困難は自分達で解決致しますわ」
そう、大人っぽく伝えたつもりが、何故か二人に抱き締められた。可愛いかった娘がこんなに立派に成長して!と身内馬鹿全開だ。
ありがとうございます。私のバックにはエルディアがいると見せつけて下さって。
結局二人はお父様に叱られ、連れて行かれてしまった。
「怖いな。隙を見せるとエルディアに攫われそうだ」
「ダミアン様」
「まあ、隙なんて与えないけどね」
彼の溺愛も変わらずだ。
「こんなに思われて私は幸せ者ですね」
「私のことも思ってくれているだろう?」
「もちろん!」
「初恋が叶わないなんて嘘だったな」
「……初恋だったのですか?」
「そう。5歳の私は1歳の君に恋をしたんだ。
……変だな。いい話のつもりが年齢を言うとおかしなことに」
「私もです。初恋同士ですね」
私達はとても仲の良い夫婦になった。
お義兄様をお支えし、公務に励んだ。王宮ではお父様やおじさま達のおかげで、問題なく過ごすことができた。
国王陛下が退位され、お義兄様が新しい国王になられた。
「マリア、お待たせ。オルティスに帰ろう」
「ダミアン様、よろしいのですか?」
「兄上には後継者もいらっしゃる。何も問題はないよ」
王宮は嫌いではなかった。とても大切にしていただいたし、お仕事も楽しかった。それでも。
「嬉しいわ!」
思わずダミアン様に抱きつく。
ごめんなさい、私はやっぱりオルティスの人間なの。あの屋敷がとても恋しい。
「君はオルティスの姫君だからね」
ありがとう。私を大切にしてくれて。
私のルーツ、私の家。
ただいま、オルティス!
【end】
次はラファエルの3度目の恋です。




