マリア(3)
「イメルダ様に何があったのですか」
「ど…、してイメルダの、こと……くっそ、本気で蹴りやがって」
あら、すごく痛そうです。
「お父様、治しますか?」
「どうして?ヒビくらいどうってことない。私の大切な娘を利用しようとする馬鹿はそこで這いつくばっているのが似合いだよ」
「だから!そうならない様にだな!」
「お前はどうして同じ事を何度もするんだ。一人で抱え込んでいても結局解決出来ていないだろう?巻き込みたくないならもっと早くに相談しろ。次は許さないと言ったはずだ」
ああ、お父様は私を利用することもだけど、何も相談しなかったことを怒っているのね。
「だが、お前がこの国を出て、もう10年以上も経ったんだぞ。それを、今更王位争いなんかで迷惑を掛けたくなかったんだ」
「だからお前は馬鹿だというんだ。国なんてどうでもいい。一番大切なのは人だろう!
私が怒っているのはマリアのことだけじゃない。イメルダやラファだって私達にとっては可愛い妹と息子なんだぞっ!」
微笑んだまま怒るお父様は怖いと思っていたけど、笑顔無く激怒してるお父様はもっと怖かった。
「……悪かったよ」
「許さん」
お父様は本当に治療させないようだ。それなら早くに話を終わらせた方がいい。
「何があったのかを簡潔に教えてください」
こんな子供が生意気だと思われようが知らない。私だって怒っているわ。
「……イメルダが毒を盛られた。死に至るほどでは無かったから脅しだろう。男子のいない俺達に王位を渡したくない奴等の仕業だと思うが、まだ犯人は見つかっていない」
リカルドおじ様のところは女の子が3人。男子はいない。
「エルディアは女王を認めないか」
「ああ。陛下やイメルダと一緒に意識改革に力を入れていたが、まだそこまでは進んでいない。女が王だなんてありえないと大反対で否決されたよ。
それならば最初から別の人間を王にすればいいという考えが上がった。それがラファエルだ。俺という英雄の血筋でお前の養い子だ。
あの頃と違ってお前は国民に認められているから」
「それ。ルシアに聞かれたらその議会とやらはハゲ頭だらけになるよ」
なるだろうな。お母様はやると言ったら絶対にやる、不撓不屈の精神の持ち主だ。それも何かしらの正当な理由を無理矢理作ってやると思う。
「私とラファエル。この二人のどちらを王にするかで揉めているところでイメルダがやられた。
今、議会では俺が側室を持つかラファエルを王にするか。それにラファエルが王になるならば妻を誰にするかで大揉めだ。そんな時に……マリアの名前が浮上した。アルフォンソの娘ならば相応しいのではないかと」
え。迷惑ですけど。
私の国でも無いのにどうして?
たかだか男爵令嬢の私が?
「これは私のせいかな。思ったよりも私がウルタードで功績を上げてしまったらしくてね。エルディアではなぜ追い出してしまったのかと後悔する者が増えたんだって。だよね、リカルド」
「……ああ。ベルナルド様自身には不満は無い。でもアルフォンソがいたらもっとこの国は豊かになったのでは?とな」
なんて自分達に都合良く考えるのだろう。
「……ごうつくばり」
「ね。困っちゃうよね」
お父様の大切なものだけど、私の大切なものにはならなそうだわ。
「すまない。私が側室は持ちたくないとずっとワガママを言っていたせいでもある」
「それはラファエル兄様も反対したのでしょう?」
兄様はイメルダ様を守る為なら自分が王になることも厭わないだろう。私だって自分の夫を誰かと共有するなんて絶対に嫌だと思う。
でも私は?私はどうでもいいの?
「よし。マリア、また馬車に乗らなきゃだけど王宮まで行っちゃおうか。ダミアンもね。あ、ラファも連れて行くから」
「は?」
「どうやらベルナルドは膿を出し切れてないね。国を通して結婚を持ち掛けられると断るのが面倒だ。その前に潰しに行こう」
え?そんなに簡単に潰せるの?
「お父様?あの、大変なことになりませんか?」
「大丈夫。絶対にマリアのことは守るからね」
「……ありがとうございます」
大丈夫。だってお父様だもの。絶対に守ってくれるって信じてる。
「あの、私でお役に立てるなら何でも言ってください。私もマリアを守りたいです」
ダミアン様まで。
「あのね?さっき国よりも人だと言っていたでしょう?私はそれがとても嬉しかったの。もちろん、ダミアン様のお言葉も。だから信じます。お父様とダミアン様の事を。わたしを守ってくださいませ」
お父様が誇らしそうに私を見ている。
……間違ってはいないのよね?
「で。私は置いていくのか」
「お前は夫人の側にいろ」
「……治療は受けてもいいでしょうか」
「自分で考えろ。あ、あと王宮に手紙を飛ばせ。私が行くとな。オルティス家にも包み隠さず報告しろよ。
──とうとう髪が無くなるかもな」
うわ。本気で怒ってるわ。




