【番外編】マリア
「マリア嬢、私と結婚していただけませんか」
「……ごめんなさい」
何度目のやりとりかしら。
第二王子でありながら、たかだか男爵家の娘に求愛してくる困った人。
「ダミアン様、ちゃんと家格の釣り合った令嬢を選んでくださいませ」
「父上は反対していない。それに、本当なら陞爵したいと言っていたよ」
「お父様は大丈夫だけど、後々困るから駄目だと言っておりましたわ」
領地のお仕事が増えると本業に差し障るから嫌がる方が多いのですって。
「だが、私はマリアが好きなんだ」
「……私なんてまだ13歳の小娘ですよ」
べつにダミアン様が嫌いなわけではない。
4つ年上で、私が幼い頃から一緒に遊んでくれた優しい王子様。
でも、我が家は裕福だとは言っても、貴族の中では一番下位の男爵だ。第二とはいえ、王族に嫁げるはずがない。
だからといって結婚の為に他家の養女になるなんて絶対に嫌だし。
「…まだ待っているのか?」
「何のことを仰っているのか分かりかねます」
ニッコリと笑ってそれ以上の追求は許さないと圧をかけた。
ダミアン様が我が家に訪れるようになったのは私が物心付く前だ。幼い頃から可愛かったと言われると、こちらの記憶には無いため、少し恥ずかしい。
昔は身分など気にせず遊んでいた。私と弟のリヒトと……ラファエル兄様と。
ダミアン様が来ると、いつも4人で遊んでいた。というより、優しいお兄さん二人が年下の私達弟妹と遊んでくれていた、が正しいかも。
でも、ラファエル兄様は私が8歳の時にエルディアに帰って行った。本格的に辺境伯を継ぐ為の勉強があるから。
それまではお父様が指導していたけれど、社交など貴族同士の関わりや領地のことなど、実際に国にいないと出来ないことが多々ある。だから帰るのは当然だった。
兄様は「またね」と言って、あっさりと旅立ってしまった。
「兄様ももう少しで20歳ね」
卒業してから2年。そろそろ辺境伯の爵位を継ぐだろうし、結婚の話も出ていることだろう。
兄様からはいつも当たり障りのない内容の手紙しか送ってくれない。だから私も同じ様に学園でのちょっとした話くらいしか書いていない。
「……ダミアン様に求婚されたって書いたら何て返事が来るかしら」
やっぱりおめでとう、よね。それとも王子妃教育を頑張ってね、とか?
ふと鏡を見る。そこにはお父様にもお母様にも似ていない、淡い金髪の女の子が映っている。
私はお祖母様似らしい。そこそこ美少女だと思っているけどどうだろう。
でも、まだ子供だわ。
なぜダミアン様はこんな子供を好きだと言うのかしら。お胸だって小さいし。
魅力といえばオルティスだということくらい?
お父様のせいで我が家は目立ってしまったとミゲルおじさまが度々文句を言っている。
陛下はお父様が大好きで、お忍びで遊びに来てしまうし王宮に呼びつけることもしばしば。
お母様は人誑し、特に偉い人。と言っている。
確かに、ウルタードとエルディア、二つの国の国王に慕われている男爵は中々いないだろう。
「マリア、何かあった?」
お父様は私達のちょっとした変化にすぐ気が付く。
「ダミアン様にプロポーズされました」
「そうか。マリアはどうしたい?」
「……よく分かりません」
「何が分からないのかな」
「私の何がよくてプロポーズするのかが分からないのです」
そう答えると、お父様は面白そうに私を見た。
「それは困ったね。私の可愛い娘はいつからこんなにも自信が無くなったのかな」
何となく、揶揄っているのでは無く本気で聞いているのだと分かった。
何時からなんて、そんなの……
「だって、お兄様はあっさりと私を置いて行ってしまったわ。私はその程度の存在だったのよ」
「そうか。それは悪い兄だね。そろそろお仕置きしに行こうか」
お仕置き?……なんだか怖い気がする。
「アル、マリアが怖がってるわよ」
「ん?ごめんね」
お母様は我が家で最強だと思っている。
お父様が一等大切にしてるのはお母様だ。そんな二人に憧れてしまう。
「ねえ、マリア。あなたももう13歳ね。ダミアン様のことを真剣に考えてみない?」
「……婚約するの?」
「違うわ。彼は本気であなたに好きだと言っているでしょう?それならマリアも真摯に受け止めてあげて。
王子様だからとか男爵家の娘だからとかじゃなく、ダミアンという人の気持ちに答えてあげてほしいの」
「でも……」
「ダミアン様は王子である前に一人の人間よ。間違っては駄目。仲良く遊んでいた頃と彼自身は何も変わっていないわ」
……そうか。私はラファエル兄様が他国に行ってしまって、ダミアン様も王子というだけで遠く感じて。なんとなく二人に裏切られた気がしていたんだわ。
「ありがとう、お母様。ちゃんと考えてみるね」
「そうしてあげて」
でも普通は王子だということを一番に考えるべきじゃないのかな。そこをクリアしないとどうにもならないと思うけど。
……そういえばお父様も元王子様よね。
「王家ってどんな感じ?」
「どうかな。その国によって違いがあるから。
でも、ダミアンは第二王子だからね。このまま問題が無ければ、いずれ結婚して婿入りするか、爵位を賜るか。ずっと王子でいるわけではないよ」
そうね。ずっとこのままではいられないんだ。
「マリアはアル似ね。考え過ぎるところまでよく似ているわ」
お母様はよくそう言ってくれる。私もお会いしたことがないお祖母様より、大好きなお父様に似ていると言われたほうが嬉しい。
でも確かに私はお父様似なのだと思う。少し勘がいいところも含めて。でもこれはお父様ほどじゃないけれど。
ちなみにリヒトはお母様似。というかミゲルおじ様かしら。生体魔法大好きっ子で研究所がお気に入りだもの。
「ねえ。そんなに悩んじゃうならエルディアに行きましょうか」
「どうして?私が悩んでるのは……」
「悪いお兄さんのせいで悩んでるのでしょう?」
そうなのかしら。私にとってラファエル兄様は……どうなのだろう。だってもう5年も会っていない。どうでもいい手紙だけの付き合いだ。
「もう少ししたら学園の長期休暇だろう?」
お父様の気持ちが決まった。それなら行かなくちゃ。
「ダミアン様に伝えた方がいいかしら」
「うん。私が言いに行こう」
あ、この流れは──
「ダミアン様も連れて行くの?」
「マリアは本当に話が早いね」
うん、だってお父様の娘だもの。




