71.離婚の危機
それはリカルドがエルディアに帰ってすぐのこと。
ラファの表情が暗い。本当にこのままでいいのかしら。
イメルダ様とは離れるべきなのだろう。でも。
アルを見るとちょうど目が合う。たぶん、同じ事を考えてる。
「ラファ。お別れを言いに行きましょう」
「え?」
「だってしばらく離れるのよ?何も言わずだなんてやっぱり良くないわ」
「そうだね。リカルドと戻らせるのは駄目だと思ったけど、私達が一緒ならいいんじゃないかな」
「よし、荷造りダッシュよ!」
「……二人とも過保護過ぎだよ」
ラファが俯いてしまった。
本当に立派な男の子になったんだなぁ。昔ならありがとーってすぐ受け入れてくれただろうに。成長するって嬉しいけど、少し寂しいな。
「過保護の何が悪いの?ラファが大切だもの。ちゃんと守らせてよ。
これからは私達が保護者なの。臨時の親子だって本当の親子に負けないだけの愛情があるんだから!」
私の言葉を聞いてポカンとしているラファが可愛い。
「え……僕達……親子なの?」
「おや、ラファは賢いのに気付かなかったのかい?もうね、私達は親子になっちゃったんだよ」
さすがに籍には入れないけど、私達は貴方を自分の子供と同じように大切に育てるつもりだ。
だから。
「私達は自分の子供をめちゃめちゃ大切に愛するのが標準装備なの。諦めなさいな」
「……ありがとう。嬉しい……二人とも大好きだよ」
久しぶりの大好きをいただきました。
これからは仲良くしようね。
そこからは本当に早かった。荷造りから出発まで1時間。勝手に兄様の分も。
「ミゲルも誘おう」
アルの一声。
最近の我がオルティス家での言葉だ。
アルがこうやって言った時はそれが絶対なのだ。何度か反対の声も上がったけど、逆らって良かったことは一度も無い。
もうね、危険察知じゃないよね。超直感とでも言えばいいのかしら。
おかげ様でオルティス家の資産額はうなぎのぼり。最近では新しく国王になったクラウディア様の兄君がアルを慕いまくっていて凄く邪魔。
「おい、説明しろ」
兄様がとっても不機嫌。まあほぼ拉致ですから。
リカルド様のやらかしをすべて暴露する。プライバシー?ごめんなさい。協力する為の代償だと我慢してもらうしかない。
「おかしい」
「でしょ?」
「違う。リカルドは女心に鈍いかもしれないが、基本的に人を傷付けることは言わないヤツだろう。それがお腹の子しか気に掛けない発言を繰り返すのがおかしい」
確かに。あの時は白い結婚とかに腹が立ち捲くっていたから、そういう事まで言うのかと殴っちゃったけど。
「たぶんね、ミゲルが行けばエルディアの医療の質が変わるよ。ウルタードから派遣とか、またお仕事が増えちゃうね」
アルの言葉は絶対。そして医療の発展は兄様の望むところ。
「ふん、そう言ってただ親友を助けたいだけだろ。素直に言えば?」
「ミゲルは騙されてくれないなぁ。そうだね、今の話は嘘じゃないけど、リカルドを助けたいんだ。だから手を貸してください、義兄さん」
「はいはい、最初からそうやって甘えとけ」
そう言ってアルの頭を雑に撫で、髪をボサボサにした。でも、アルは嬉しそうだ。
すっかりなかよし兄弟になったわ。
そうやって辿り着いたバレリアノの屋敷では、やはり修羅場が起きていたみたいだ。話し合いが上手くいっていないのが丸分かり。
イメルダ様はラファを見て、安心して泣いちゃうし。
まずは男尊女卑許すまじ。この辺りはやっぱり兄様にお任せだ。私だと女だからと話し合いにならないもの。屈辱だけど適材適所。無駄な争いはしないで早期解決を目指した方がいい。
さて、後はリカルド様だけだよね。
赤ちゃんがいるから発言が医者のせいだと分かったからって夫婦の危機は全然解決してないのに、彼が終わった感を出していることに呆れる。
あれはやらかしのトドメであって、その前に3年分あるのよ?
私からの言葉にこのメンバーの前で解決を求められていることを悟ったのだろう。一気に顔色が悪くなった。
「リカルドの前にまずは私から夫人に話をしてもいいかな」
もう。リカルド様大好きっ子はすぐに助け舟を出すんだから。
「まずは、君達夫婦にとって赤の他人である私達が口出しをして本当に申し訳ない。
本来ならこんなプライベートなことを知ってしまったことすらあってはならないこと。
だが、これは私が国を捨てた事によって起きた弊害でもあると思っている。
それにね、大切な友人と、兄のように尊敬しているベルナルドの宝物である君の離婚の危機だ。黙って見ていることは出来なかったんだ」
「そんな……離婚だなんて。これは政略結婚です。私の感情如きで終わらせるなんてありえませんわ」
凄いな。感情を如きと言えるだなんて。それだけの覚悟をして嫁いで来たということね。
「いや。この3年間のことがベルナルドに知れたら即離婚しろと言うはずだよ」
「それこそありえません」
「いや、絶対にある。断言するよ。あいつは政略より君の方が大切だし、なんなら一度の結婚で貴族としての義務は果たしたからとずっと手元に置いて可愛がりたい男だ」
「お話に混ざってもいいかしら」
突然会話を遮ってもイメルダ様はイヤな顔1つせず受け入れてくれる。本当に冷静で賢い人だと思う。
なぜこんな素敵な女性をか弱い1択で囲っていたのかしら。
「私も宰相であられた頃にお会いしたことがあるけれど、人の情をとても大切にしている方だなと感じましたよ。素敵なお父様ですよね」
「はい、とても尊敬しています。
あの……私達を心配して下さったことに感謝こそあれ、不満などは本当にございません。
ですので、もし何かお話があるのでしたらどうぞお聞かせいただけますか?」
やだ、本当いい子だわ。夫婦の内情を知られるなんて恥ずかしいに決まっているのに。
リカルド様は申し訳無さそうに俯いている。勝手に相談したことを恥じているのだろう。
私も勝手に兄様に話してしまったことを後で謝らなきゃ。
「ありがとう。ではお言葉に甘えさせてもらうね。
どこから話そうか。ではまず、夫人はこの辺境の実情をご存知だろうか」
そう言ってリカルド様のお兄さん夫婦のこと、亡くなって急遽リカルド様が継いだこと。領主教育を受けていなかったことなどを教えてくれた。
「騎士としてのリカルドは本当に優秀だ。学園での成績だって良かったから地頭もいい。だけど、領主としての勉強をしてこなかったのに、すぐに1人前に働くなんてことは出来ない」
「いえ、それでここまで領主としてのお仕事を熟してこられたのですもの。凄いことだと思いますわ」
確かにね。いきなり畑違いの仕事を与えられて、それでもやって来れたのは優秀なだけでなく、相当努力してきたということだろう。
「それはね、貴方のおかげだよ。イメルダ夫人」
「……私は何もしておりません。ただ、ここにいるだけの存在ですもの」
「それ。本当ならもっと君を妻として大切にしなくてはいけなかった。気持ちも時間ももっともっと使って当然なんだ。それをする余裕が無いリカルドを責めることなく、微笑んで見守ってくれていた。
普通なら3ヶ月くらいで喧嘩するか実家に帰ってしまうよ」
「そんな……私はただ子供過ぎて何も出来なかっただけです」
「本当に子供なら3日で暴れるな」
イメルダ様は本当に理解できないみたい。
エルディア教育ヤバイわ。
「こんなに駄目なリカルドを見捨てないでくれてありがとう。友として、そしてここまで負担を掛けてしまった者として謝罪と感謝を。そして貴方の覚悟と忍耐に敬意を」
そう言ってアルはイメルダ様に頭を下げた。




